映画評「松ケ根乱射事件」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2006年日本映画 監督・山下敦弘
ネタバレあり

山下敦弘は「リンダ・リンダ・リンダ」しか観ていないが、リアルなタッチに見え隠れするとぼけが興味深かったものである。

雪上に死んだと思われる女性が小学生に発見される、というのがプロローグだが、素直に次の展開に行かずに小学生に女性の体をいじらせるおとぼけの一幕。

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この女性・川越美和は実は轢き逃げによる軽傷で昏睡から目覚め、やくざ者らしい恋人・木村祐一と共に湖へ向かう。立ち寄った料理店で二人は彼女をはねた若者・山中崇を発見、脅迫して湖中に沈んだ金塊を生首と共に拾い上げさせるものの、金塊の由来が証明できずに換金できないまま彼の家の廃家に住み始める。暴力を振るわれにっちもさっちも行かなくなった彼が双子の弟の警官・新井浩文に真相を告げるものの、結局は何も出来ない。

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というのが軸となるお話で、この闖入者二人の為に平和な生活を営んでいると思われた村民、正確には新井君一家の真実が、のんびりとした展開の中に浮かび上がる、というのが作者の狙いである。

兄は東京から一か月で舞い戻り畜産業を引き継いでいらいらしている姉夫婦を時に手伝い、ぐうたらな父・三浦友和は床屋をしている愛人・烏丸せつこの家に身を寄せていてその知的障害の娘を孕ました疑いがある一方で、床屋のおばさんは娘に売春させているので生まれ来る子供の父親は誰か解らない。

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村民や家族に秩序も道徳心もない中唯一まともと思われた警官・新井君は派出所のいるかいないか解らぬ鼠に頭を悩ませるうちに、水源に殺鼠剤を撒きましょうと役所に真面目に相談しに行く始末。狂気は彼の頭をも浸食していたわけである。想像するに、彼の頭の中では身の回りにいる犯罪者や不道徳な輩が鼠に化けていたのかもしれない。
 そして結局何も出来ない彼はピストルを4回ほどどこへともなくぶっ放して閉塞状況を打開しようとし、思わせぶりなタイトルの由来が最後になってやっと明らかになる。

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これが鑑賞二作目なので何も言えないが、色々出入りはあっても結局村民の生活は全く変わらないというとぼけた展開故に、リアルな空気の中に醸成されるおとぼけという監督の本領らしさが「リンダ」に比べてぐっと本格的に発揮されているようで、喜劇的要素を最小限に抑えたブラック・コメディとしてかなり楽しめる。市民社会に巣くう狂気という大真面目なテーマと展開との間にギャップがあるのが宜しい。気の抜けた効果音みたいな音楽も効果十分。

主演の新井君を始め出演陣は好調だが、中でも三浦友和が抜群。30年前にはこんなぐうたら演技ができる役者になろうとは夢にも思わなかったなあ。

時代劇でも悪漢のことを【頭の黒い鼠】などと言いますね。

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