映画評「樹の海」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2004年日本映画 監督・瀧本智行
ネタバレあり

本年の秀作に数え上げられるであろう「犯人に告ぐ」を監督した瀧本智行のデビュー作で、富士山麓の青木ヶ原樹海を舞台に生と死の狭間で苦闘する人々を交錯させて描いた群像劇。
 独立性の高い4つのエピソードは互いに全く関連がないわけでもなく、その微妙な関連性が作品のテーマでもある。

ヤクザに脅され5億円の横領をした公社職員・萩原聖人が死んだと思われて樹海に捨てられ、彷徨するうちに借金に追われた田村泰二郎が自殺する現場に遭遇、後で止めなかったことを後悔する。
 取り立て屋の池内博之が、自殺しようと樹海に入ったのに救いを求めてきた取り立て先の女・小嶺麗奈を救いに行く。最初は仕事の為だが、次第に真剣になっていく。
 樹海で自殺した女を自殺の原因を探っている中年新人探偵・塩見三省が遺留品から行き着いた会社員・津田寛治から話を聞く。
 前の会社時代にストーカー行為で懲罰を受けたキオスク店員・井川遥も樹海に赴くが、販売用の柄ネクタイが解けて縊死できず、同じネクタイを買った会社員・大杉漣を思い出す。

画像

井川嬢の乗るバスから、自殺した女性にお供えする為に森に入る塩見が下りて歩き始めた時、車を飛ばす池内が引きそうになる。お供え物のリンゴを萩原が食べ、池内の落した張り紙チラシを縊死する田村が拾って木に張り付けていく。
 物理的にそういう直接の関連があることに加え、小学生時代に<友情>と記された東京タワーの置物をみやげに貰った池内青年が脅迫相手の小嶺嬢が同じ商品を持っていたことに運命的なものを感じる、といった精神的な繋がりまで間口を広げて凝りに凝った設定から、友情と人間の連帯感を浮かび上がらせた作品と言って宜しい。

置物の扱い、武者小路実篤「友情」の文庫本が森の中に落ちているといった辺りに些かのあざとさを感じるが、僕は人情に脆いので、これだけ複雑に交錯させたディテールから感銘を受けずにいられない部分も相当にある。
 その中でも胸にしみるのは、井川嬢がストーキングを行った相手の細君からの嫌がらせの電話を待つ姿-孤独地獄-である。一人暮らしの彼女は「ただ今」を誰に言っているのか。

塩見と津田の場面も内容は大変宜しいが、些か冗長の感あり。萩原の一人芝居にも同様のことが言え、この二つのエピソードの扱い次第ではもう少し星が増やせたと思う。一見の価値あり。

♪一人じゃないって素敵なことね-天地真理。

"映画評「樹の海」" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント