映画評「殺人!」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1930年イギリス映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり

アルフレッド・ヒッチコック第12作。

アパートの一室である劇団のスター女優が殺され、その横で呆然と立っていたダイアナ(ノラ・ベアリング)が逮捕されるが、著名な劇作家で陪審員の一人サー・ジョン(ハーバート・マーシャル)が疑問を抱きながら有罪と書いてしまったことを反省し、素人探偵ぶりを発揮する。

というお話で、原作はC・デーンとH・スンプスンの戯曲「サー・ジョン登場」で、ヒッチコック唯一のミステリーである。

サー・ジョンは事件発生と同時に目撃された警官がその後現れた警官とは違うことに気付き、アパートの大家が女声と思ったのが高い男性の声ではないかと疑惑を抱く。服役中のダイアナに会ってさらに一つの確信を抱いた劇作家は、一人の男を呼んで事件をもじった劇を演じさせる。
 本作のハイライトはこの部分で、「ハムレット」の劇中劇をそのまま流用したようなアイデアでかなり楽しめる。
 公開当時マーシャル即ちサー・ジョンの内面モノローグはトーキー初期にあってかなり革新的と評されたようだが、ヒッチコック自身は「シェークスピアの応用だよ」と一蹴しながらも満足げである。

鳥が飛び立ち、猫が逃げ、アパートの窓が次々と開いていく開巻の呼吸が良く、中盤の陪審場面でただ一人無罪と粘ったサー・ジョンが追及されるカットなどもトーキーを強く意識した作りで面白い。
 といったように、二度目になる今回は、前回に比べて強く、しっかりと作られ興味深い作品であることが印象づけられた。

今回観たビデオでは、キーワードのhalf-casteを<不能者>と訳していたし、あるビデオは<混血>と翻訳していたが、これは隠語で当時は悪魔的と見なされて犯罪でもあった<同性愛者>という訳語を当てなければならない。さもないと事件の背景が分りにくくなってしまう。一番大事な部分だけに致命的な誤訳である。

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