映画評「第3逃亡者」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1937年イギリス映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり

第22作の「バルカン超特急」については順不同時代に記したものを参照して下さい。

アルフレッド・ヒッチコック第21作。日本初公開は製作より40年後の1977年である。

ハリウッドの人気女優が英国の海岸で絞死体で発見される。犯行に使われたのはレインコートのバンドである。
 第一場面のクラシックなスタイルから一転、この死体発見の一幕は現代的、見方によっては前衛的なムードすら漂い、ちょっと驚かされる。
 現場から慌てて走り去るのを目撃された若い脚本家デリック・ド・マーニーが容疑者として逮捕されるが、証拠となるレインコートを取り戻すべく、審理中に隙を見て裁判所から脱出。そして、署長の娘ノヴァ・ピルビームが逃避行に付き合う羽目になり、ヒッチコック特有の<追われながらの犯人探し>を展開していく。

原題はYoung and Innocentで、直訳すれば「若くて無実で」だが、「若き人と罪なき男」という意味の可能性もある。
 邦題には首を傾げてしまうが、恐らくは署長の娘(事件とは無関係な逃亡者)を指し、実際、作品の真の主人公はノヴァ嬢である。彼女はガールスカウト隊員としては優秀であるが、若すぎて人生経験が足りず思わず降りかかった事件に途方に暮れてしまう。
 サスペンスを離れればそういう話であるが、サスペンスとしては彼女がガールスカウト隊員であることが終盤事件解決への伏線となる。

最初の見せ場は、立ち寄った伯母宅のパーティーから逃げ出そうとして苦労する一幕で、観客をじりじりさせる話術が巧い。
 ハイライトはホテル・ダンスホールでの演奏場面で、ヒッチコックお得意の<他と違う風景>を最大限に利用したサスペンスである。即ち、演奏者の中に一人だけ目をしばたたいている男がいて、クレーン撮影による急激なその男の大写しが抜群の効果を発揮する。これにより犯人に気付いた観客と気付いていない登場人物との状況把握の差が大いなるサスペンスを生むのである。この手法を確立したのはヒッチコックであろうと思う。

が、全体としては旧作「三十九夜」との相似性が高く、しかもスケールが小さくなってしまっているので、ヒッチコック作品としてそうご機嫌というわけにも行かない。

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