映画評「逃走迷路」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1942年アメリカ映画 監督アルフレッド・ヒッチコック
ネタバレあり

アルフレッド・ヒッチコック第28作。
 製作は1942年だが、日本公開は37年後。東京で学生生活を送っていた僕は劇場で見ることが出来たが、それ以来今回が2回目に過ぎない。

航空機工場の火事で工員ロバート・カミングズの親友が焼死するが、ガソリンの入った消化器を渡した破壊工作者として無実のカミングズが追われることになり、実際に消化器を渡したノーマン・ロイドを探すことになる。

こう書いただけで、これが7年前英国時代の傑作「三十九夜」のアメリカ対応版であることが想像できるはずだが、見せ場をどんどん盛り込み華やかな面白さに溢れている。
 例えば、序盤の火災での鮮やかな煙の描写、事件の陰謀者である牧場主オットー・クルーガー宅での子供を使った騒動、川での逃亡、盲人宅でのサスペンス、お供をすることになった美人プリシラ・レインとの葛藤、廃虚で一味と遭遇する一幕、パーティー会場での脱出工作、そして幕切れにおける自由の女神でのカミングズとロイドの対決である。

この幕切れは「北北西に進路を取れ」のラシュモア山での一幕を思い出させるのだが、この一幕が端的に示すように17年後の傑作「北北西」は本作を拡大した最終回答編と思って間違いない。主人公ではなく犯人が落ちそうになるのでハラハラ度が不足したというのはヒッチ自身のお言葉。

それはともかく、漫然と観る分には相当楽しめる一編で、文句を言う必要もないのだが、厳密に言うと、大きな弱点が一つある。
 後半カミングズとプリシラは二手に別れて行動するのだが、先日観た「サハラ」でも指摘したように、再会することが分っている集団を分割して描くことによる散漫さが、「サハラ」のような無残なことにはなっていないものの、ヒッチコックほどの名人をもってしても完全には回避出来ていない。これはトリュフォーも指摘していて、久しぶりに意見が合った。見せ場を多くしようとしたことの構成上の反動でもある。

それ以上に弱いのが配役で、主演女優プリシラ・レインはヒッチコック映画にマッチするだけの品格がなくて減点対象とまでは言わないまでも感心できず、カミングズも作品の屋台骨としてはかなり物足りない。

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