映画評「戦争と平和」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1956年アメリカ=イタリア映画 監督キング・ヴィダー
ネタバレあり

僕はロシア語を6年間習った。ロシア文学が好きであったからだが、ご贔屓はトルストイでもなければドストエフスキーでもなく、プーシキン、ツルゲーネフ、チェーホフである。

さて、世界的な文豪トルストイの代表作「戦争と平和」はそのまま映画化すれば10時間はかかるだろう。ソ連製の8時間でも足りないほどである。ところが、サイレント時代からの巨匠キング・ヴィダーはうまく処理して3時間半を切り、それでいてさほどダイジェスト的にならず、情緒感もスペクタクル性もたっぷりに映像化した。見事なものである。
 それはヴィダーを含めた6人の脚本家が大胆に巧みに場面の取捨選択を行い、残した場面を強く推し進めたからに他ならないが、柔軟に映像化できる演出家なしにはそれも水泡に帰すところであった。一々例を挙げると切りがないので、二つだけ例を挙げる。

ボロディノの戦いの場面。
 重要なのは主人公であるピエール(ヘンリー・フォンダ)の戦争を第三者的に見る視線である。撮影監督ジャック・カーディフはその主人公の視線に従って、ロング・ショットでは妙に美しい風景の一つであるかのように戦闘を捉える。それが近景になると、うって変わって緊張感に溢れた迫力満点の戦闘場面となる。
 ヴィダーの指導宜しく、カーディフの色彩感覚と相まって、ここは見事な場面となっている。

ピエールが姪のように可愛がったナターシャ(オードリー・ヘップバーン)が恋心を抱くことになるアンドレイ(メル・ファーラー)らと馬を駆る場面の疾走感も見事。カーディフが秋の感覚をうまく取り込んでいる。

世評はそれほど芳しくないのだが、ロシア的ムードを別にすれば、かなり良く出来たロシア文学の映画化である。映画としてはソ連版を凌ぐ。再鑑賞作品。

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