映画評「セールスマンの死」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1951年アメリカ映画 監督ラズロ・ベネディク
ネタバレあり

マリリン・モンローとも結婚していた期間もあるアーサー・ミラーの名戯曲は数年前に読み、結構鮮明に憶えている。

老骨で車の運転も覚束なくなった老セールスマンのウィリー・ローマン(フレドリック・マーチ)は糟糠の妻リンダ(ミルドレッド・ダンノック)に愚痴を吐きまくるが、その背景にあるのは現在の状況がその昔自分の理想としていた未来と全く違うという苛立ちである。
 そしてその最大の要因は、高校時代スポーツで優秀な成績をおさめながら単位を落とすなどしたことで挫折、勤め始めた運動具店では盗みがばれて首になり、その後ろくな仕事をしていない長男ビフ(ケヴィン・マッカーシー)の解消のなさというに尽きる。弟ハッピー(キャメロン・ミッチェル)も女好きで父親の絶望を全く補えない。

この二人が家に戻って来たところからお話はスタートとするが、兄ビフが昔勤めた運動具店とのコネを使って弟と新規に始めようとした店の仕事は社長に会ってさえ貰えず挫折、それを知った父親は過去の幻影に誘われるように車で外出して事故で帰らぬ人となる。

部分的に「エデンの東」(1955年)の構図に似た家庭葛藤劇だが、こちらの主体は父親である。
 父親の失意は梗概に記した通り子供たちの不甲斐なさにあるわけだが、冷静に見れば因果応報と言うべきもの。父親の期待が長男を追い詰めたに留まらず、落第した時に先生への口利きを依頼しに出張先を訪問した際に父親が女性を連れ込んでいるのを見て、父親が期待するほど優秀ではないこの長男は失望するのである。
 この段はお話の終了間際に明らかにされるので、ちょっとしたミステリー的効果があって面白い。葛藤劇として上出来であると思う。

言動に問題があったのは確かだが、家族の為に父親が一生懸命働いてきたのも疑いようのない事実で、為に、誰も来ない墓参のラスト・シーンは甚だじーんとさせられる。

ただ、(戯曲の記憶が鮮明という個人的事情もあるが、それだけではあるまい)とりわけ序盤舞台臭をひどく感じてしまうのはマイナスであり、また、父親の思いが頻繁に過去へ飛び、現在との区別が付かなくなる様子を強く見せ、その言動が異常性を帯びているように感じさせすぎる点が、ドラマとして落ち着きのなさ(という印象)を生んでいる為、良くないように思う。後者については原作者ミラーも本作にそのような印象を覚えたらしい。

イラン映画「セールスマン」にも原作戯曲の一部が見られましたね。

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この記事へのコメント

モカ
2022年01月12日 16:23
こんにちは。

この映画は未見ですがダスティンホフマン主演のものは見たことがあります。
内容が相当暗いので良かったと手放しで言いにくいのですが…
( 夫は視聴後2、3日暗い気持ちを払拭出来なかったらしい)
調べましたらTVドラマ版で当時ミラーも賞賛していたようですがVHSのみのようです。ご覧になりましたか?

思い出すと暗澹たる気分になる(後味が悪いという意味ではなく) 映画というと、私の場合は「ローザルクセンブルグ」なんですが、オカピー先生は何かおありですか?
そういえば「カティンの森」が正月に公開されて新年早々見に行って後悔した事がありました。 やっぱり正月はそれっぽい楽しいのが良いですね。
オカピー
2022年01月12日 18:40
モカさん、こんにちは。

>この映画は未見ですがダスティンホフマン主演のものは見たことがあります。
>ご覧になりましたか?

存在は知っていますが、未見ですね。
ホフマンは結構好きですので、チャンスがあったら観たいです。

>思い出すと暗澹たる気分になる(後味が悪いという意味ではなく) 映画というと、私の場合は「ローザルクセンブルグ」なんですが、オカピー先生は何かおありですか?

後味が悪いNo.1ミヒャエル・ハネケの「ファニー・ゲーム」ですけれど、暗澹たる思いとなると、また違いますね。
「暗殺の森」。ナチスやファシズムが絡む映画はそういう思いを抱く作品が多いですね。アメリカ映画より欧州映画。