映画評「最後の戦闘機」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1935年フランス映画 監督アナトール・リトヴァク
ネタバレあり

ロシア出身の名監督アナトール・リトヴァクはアメリカ映画での印象が強いが、これは渡米する少し前にフランスで撮ったドラマの秀作である。純戦争映画のようなタイトルだが、戦争をモチーフにしたロマンスと言ったほうが近いだろう。
 原作「エキパージュ」は、「昼顔」でお馴染みジョゼフ・ケッセルの手になるもの。当時評判だったらしく本作は二回目の映画化に当たり、日本でも翻訳された事実を確認した。エキパージュとは、戦闘機における操縦士と偵察士との組合せを指す。

第一次大戦中のフランス。
 中尉だが新米軍人のジャン・エルビヨン(ジャン=ピエール・オーモン)が、出会ったばかりで名前も知らない美人ドニーズ(アナベラ)と駅で別れて出征、航空隊に合流する。基地で兵隊たちに人気のないモリー中尉(シャルル・ヴァネル)と意気投合、休暇の時に愛妻エレーヌへの手紙を託されるが、エレーヌは即ちドニーズと知り、彼は戦友への友情との狭間で苦悩することになる。
 彼への慕情を止められないドニーズ即ちエレーヌは夫を慰問する形でジャンの愛情を繋ぐことに腐心、後方支援に回り飛行機に乗らなくて済むチャンスが訪れたのを知る。彼女に全てばらすと脅されたジャンは、一旦後方支援組となることを上官に申請するがすぐに撤回してモリー中尉を操縦士とする飛行機に乗り、帰らぬ人となる。

というお話で、友情と恋愛感情の狭間をめぐるお話にはアラン・ドロン主演の傑作「冒険者たち」(1967年)と重なるところがある。
 こちらはまずジャンが自分の恋人が親友の妻と知って苦悩する。その相棒モリー中尉は彼の奇妙な行動からそれを察知するが、敢えてそれを言わない。これも彼の友情故である。多くの方が、友情との間で苦悩するジャンより、敢えて知らぬふりをするモリーの友情にぐっと来るだろう。
 彼は自分がジャンの苦悩を知っていたことをエレーヌにも言わない。ジャンの弟に彼が家族のことを言い残したという嘘もつく。これもロマンス絡みで非常に上手い。彼は細君に言う、 “実は恋人の名前を言って死んだのだ” と。ジャンはドニーズという名前の入った彼女の写真を途中まで破ったところで死んだというのが事実であるから、モリーのその真実の言葉には事実が巧みに隠されているわけで、ジャンとモリーをめぐる状況の切なさを何と言ったら良いのだろうか。ここまでエモーショナルな扱いは「冒険者たち」以降の作品にあったろうか? 

テンポが速すぎて、主人公の心理の変化が描き切れていない憾みが多少あるが、その不足を詩情が補って余りある。ジャンが窓の外を眺めると隊長の大尉が霧の中を低回しているのが目に入る場面や、死んだジャンを乗せる飛行機が雲の中を飛んで行く場面など、こういうのを積み重ねて頗るリリカルなムードを醸成して我々を陶酔させるのである。

現在の日本での知名度は低いが、一見に値すると思いますよ。

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