映画評「空に住む」

☆☆★(5点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・青山真治
ネタバレあり

実績のある青山真治が監督をし、実際に【キネマ旬報】のベスト10で9位に入っているので期待したが、余り感心できなかった。

両親を交通事故で亡くした文芸編集員・多部未華子は、父親の弟・鶴見辰吾とその妻・三村里江の経営する高層マンションに管理人の名目で住むことになる。家賃は請求されないが、真に心を許すのはクロネコのハルだけである。この猫に自分と同じ孤独を、そして自分を主張する自身にない強さを見ているのだ。
 勤め先の出版社は和風の民家という変わり種で、この社が扱う小説家・大森南朋の子供を宿しながら別の男と結婚するという大胆な後輩・岸井ゆきのと仲が良い。彼女の自分に正直な生き方を羨ましがっているのかもしれない。
 そんな折に同じマンションに住む人気若手俳優・岩田剛典と親しくなり、孤独を癒すように体を交えるが、ひょんなことから関係が切れる。
 15年付き合ってきたハルが死ぬ。恐らく両親が死んだ時より落ち込む。死体を焼却して空の煙にして(登場人物の言によれば、厳密には煙は出ない)漸く落ち着きを取り戻すと、彼女は純粋に編集員として岩田にインタビューを敢行し、それを基にしたドキュメントを大森に書かせる企画を立てて押し通し、強くなって蘇る。

【W座からの招待状】の小山薫堂氏は “愛” をモチーフにしていると考えたフシがあるが、僕は人との距離を描いた作品と思う。その距離の間に据えたと思われるのが“嘘と真実”。これが言わば通奏低音的に色々と言動に出て来る。
 その典型が、岩田の言う、 “嘘を本当らしく演じるのが俳優” であり、ヒロインに向けて言う、 “(君は)本当を嘘らしく見せている” である。岸井ゆきのは子供の父親を偽って結婚しようとしている。作家も編集員を妊娠させたことなどなかったように家族サービスをしている。叔父夫婦との関係も彼女が見せる微妙な距離感のある振る舞いにより成立している。

両親の死に泣けないというヒロインの台詞も嘘と真実に関係がありそうで、家族サービスをする作家を見た時の反応を見ても、彼女が落ち込む理由はただハルの死だけにあるようではなさそうだ。

これらを考え合わせると、見た目以上に家族という要素もモチーフになっているのかもしれない。

色々なアングルで一人の女性を見つめたところに高い文学性があるが、全体としてはこれらが消化し切れていないような印象があって物足りない。原作者・小竹正人が作詞家ということもあるのだろうか、気障な台詞が多いのも気になる。

本作で一番良いのは、高層マンションと出版社の和風民家の鮮やかな対照。見せ方にもっと工夫を凝らせば、これだけでも★一つくらいは増えただろう。

ヒロインは「クロネコのタンゴ」をきっと知らないだろう。

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