映画評「天外者」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・田中光敏
ネタバレあり

【天外者】と書いて“てんがらもん”と読む。

2020年度の【キネマ旬報】ベスト選出で珍現象が起きた。うるさ型の批評家と大衆の指向が乖離していた大昔ならともかく、選出するプロが60名に及んで多様化が進む現在で、プロが1点も進呈しないこの作品が読者選出第1位となったのである。何十年ぶりではないか? 【キネマ旬報】読者は比較的ベテランが多いから本当に珍しい。その心は、心優しい読者の方々が、この映画の公開前に自殺した三浦春馬への追悼の気持ちを込めたのだろう。

時代は幕末。薩摩藩の開国派武士・五大才助=友厚(三浦)が、同じ志の土佐藩藩士・岩崎弥太郎(西川貴教)、同じく坂本龍馬(三浦翔平)、長州藩の伊藤利助=博文(森永悠希)と刺激し合いながら、グラバー邸で有名なトーマス・グラバーを巻き込んで、遊女はる(森川葵)を追いかけた結果、念願の英国渡航を果たす。
 その最中に龍馬は暗殺されるが、遂には江戸幕府は終焉し明治の世に入っていく。はるを亡くした後、元武家娘豊子(蓮佛美沙子)と結ばれ、官から民間へ転身して商売を拡張していき、他の商人たちに白い目を向けられながら大阪商法会議所の初代会頭になるが、49歳で亡くなる。

この映画での活躍ぶりを見ると、歴史上ではもっと有名な渋沢栄一に伍すると言うか重なる感じが強く、こういう人たちが近代日本経済の礎を作ったということがよく解り、紹介されたのは意義があると思う。
 しかし、大河ドラマのダイジェストのような見せ方のこの映画が、読者選出とは言え、1位になるのは首を傾げざるを得ない。
 確かに終盤は感動的なのだが、恐ろしいまでに急展開で説明不足が否めないところが目立つ。省略は文字通りはさみと同じで使いようで、本作では省略が単なる字足らずになってしまっているのである。

架空の遊女はるは欧米映画のフェミニズム傾向を取り込んだような人物像で、女性が自由に文字の勉強もできない日本は何ぞやという立場であり、グラバーとのバーター取引で実質的に英国に売られた彼女を追って五大が英国に行くという辺りはコミック的にすぎましょう。
 歴史のお勉強としては、遊女にも色々ありまして、所謂花魁(おいらん)はインテリであった。はるはその階級に属さないが、どこの国でも高級娼婦は知識人である、ということは一応知っておいた方が良いでしょう。
 また、本作の主題展開上やむを得ないが、映画の中の五大の弁とは違って、英国庶民は労働に酷使されていた。これより少し前の英国のひどい労働状況を基にマルクスが書いたのが「資本論」である。

実際には糖尿病で死んだ五代友厚が終盤何度か血を吐くのも、結局それが死因でも何でもないのだから、小細工にすぎる。

配役陣では、伊藤博文役の森永悠希は声が高くて貫禄がなく、甚だ物足りない。

といった次第で、大分物足りないが、僕も三浦春馬追悼の意味をこめて★一つ分くらい甘くしておきます。

女性問題と言えば、タリバンは多少変わったかと思ったが、どうも世間向けのアピールだったようだ。がっかり。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

驚いた

この記事へのコメント