映画評「チャンシルさんには福が多いね」

☆☆★(5点/10点満点中)
2019年韓国映画 監督キム・キョヒ
ネタバレあり

韓国映画には珍しく力の抜けた素敵なコメディーだが、採点上は厳しくした。

映画の女性プロデューサーのカン・マルグムは、ずっと手を組んでいた監督が亡くなって製作のツテも途絶え、映画作りという居場所を失う。丘の上にある家に間借りすることにするが、ぶらぶらしているわけにもいかず、知り合いの若手女優ユン・スンアの家政婦として働くことになる。
 青春をかけた映画製作から離れ、恋も結婚もしなかったことを振り返り悄然としていたある日、何でも手を出すスンア嬢のフランス語教師が三十そこそこの好男子で本業は短編映画監督と知ってすっかり傾いてしまう。しかし、彼とは映画の趣味も違い、彼女を姉のように考えていると知って失恋状態。
 そんな時に彼女の前にランニング姿のレスリー・チャンを名乗る幽霊が現れ、色々と慰める。大家のおばあちゃんユン・ヨジョンに字を教えるなどして無聊に過ごすうち、彼女の部屋に彼女を相変わらず慕うスタッフの若者が集まって来る(結局映画に帰るだろう)。

というお話で、まずタイトルバックが小津安二郎映画を彷彿とする麻布にスタッフやキャスト名が載せられたもので、オッと思わせる。やがて、映画の中で、ヒロインが小津安二郎が好きであることが判ると、“ははあ、本作はチム・キョヒという女性監督の半自伝的内容で、心境吐露映画なのだな”と三段論法的に理解できる次第。
 事実、この監督は、ホン・サンス監督の作品を十本プロデュースした後本作で映画デビューしている。大分とぼけた作りと間の取り方は、小津より、小津を崇めているアキ・カウリスマキに近い。実際彼のファンでもあるらしい。

ご本人には大して似ていないレスリー・チャンの幽霊は、恐らく香港映画も好きなヒロインの映画愛が生みだした幻影で、もう一人の彼女と解釈できるだろう。

力感を排除したところに好感を覚える作品ながら、余りに私小説的すぎて面白味に欠ける感じ。ただ、この映画に出て来る韓国人はごく自然体で日本人に近く、日本でも映画化できそうな気がする。

フェリーニもウッディー・アレンも自伝的な心境吐露映画を作ったが、心境吐露映画が第一作というのは珍しい。

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