映画評「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」

☆☆(4点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・深川栄洋
ネタバレあり

中山七里のミステリー・サスペンスの映画化。今月(8月)観た日本製サスペンスはいずれもダメだった。面白くなる可能性が一番あったのは本作だけに、がっかり度も一番大きい。

子供の110番により父親が謎の医者と看護婦に安楽死させられる事件が発覚する。
 腎臓病を患う11歳の娘・田牧そらを抱える刑事・綾野剛が、女刑事・北川景子を相棒に、謎の犯人捜しに乗り出す。被害者(?)の妻が安楽死を依頼したことが判明し、彼女の証言から安楽死希望者を募るサイトがあることを突き止め、同じような依頼をした人々若しくは遺族を捜し出し、夫々の記憶を基に犯人の医者の人相書きを別々に書かせると、似通った顔が浮かび上がってこない。遺族が医師を庇っているのだ。
 しかし、その一人の持つホームビデオに看護婦を発見し、バイトで生計を立てている中年女性・木村佳乃を逮捕する。そして、容疑濃厚ながら、医師の情報を吐かない為、泳がせることにする。タクシー運転手の目撃から河川敷のホームレス柄本明を逮捕するが、追及するうちに主犯が看護婦と判明する。

ここまではミステリーだが、この後看護婦がそらちゃんに狙いを定め、巧みに誘導して自分の依頼者とした上で誘拐、それを綾野が追いかける、というサスペンスに変わる。

前半と後半とで主題が分裂している問題に加え、お話に隙間が多い。
 前半は、安楽死の問題を扱う社会派的なアプローチである。法律が全て道義的に正しいと限らないのは自明で、安楽死を認めない国もあれば(多数)、認める国もある。要は、元々は道徳が整理された形である法律が、変化する道徳に合わなくなってくるということがあり、現在では安楽死=殺人と考えるのが本当に正しいのかという問題を生じている。
 個人的には、本人の希望、家族の承認、医学をベースにした医師の承認の三つが揃う場合、安楽死・尊厳死は認めるべきと考える。

さて、映画は後半、正犯の木村佳乃が安楽死の実行者ではなく、その死に方に快楽を見出す快楽殺人者に過ぎないことを暴露する。その結果、安楽死の問題について映画の立場を極めて曖昧にするだけでなく、少女を誘拐するに至る彼女の動きを不自然にも感じさせることになる。もし快楽殺人犯ならあのようにまだるっこい手続きを踏む必要もないのではないか。尤も異常者には彼・彼女なりの儀式があるという考えも成立ち、それならばあり得ない設定ではない。その説得性を著しく欠くのは、多分見せ方が下手なのである。

いずれにせよ、前半は観客をミスリードする為に置かれているわけだが、それにしては長い。全く一致しない人相書きから確定的な人相を導く出すところがミステリー・心理学的に面白いくらいなものである。

自分の趣味としては、前半をそのままにし、社会派ミステリーのまま、つまり問題を残したまま何らかの幕切れを迎えるという流れの方が首尾一貫してきちんとした作品になったであろう。

序盤から昔の刑事ドラマのような安っぽい音楽の使い方などで映画の格に疑問を持たせる瞬間が多い。大衆映画の監督・深川栄洋は大体においてもう少しちゃんとしている作品を作るが、本作は脚本が力不足だったか。

映画の内容を評してよく“TVで十分”と言い方をする人がいるが、”出来栄えがTV並み”とでも言った方が良い。尤も、英国やスウェーデンのTV映画は平均的な劇場用映画より上質なものが少なくない。日本ではそこまでなかなか行かない。

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