映画評「異端の鳥」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2019年チェコ=スロヴァキア=ウクライナ合作映画 監督ヴァーツラフ・マルホウル
ネタバレあり

ポーランドのイェジー・コシンスキが英文で書いたという小説をチェコのヴァーツラフ・マルホウル監督が映画化。数年に一度あるかないかの衝撃的な作品と言うべし。

序盤のうちなかなかシチュエーションが解りにくいのだが、途中から小出しに出して来る情報から、舞台は第二次大戦中の東欧のどこかで、主人公の少年(ペトル・コトラール)は、ユダヤ人である為、田舎に住む大叔母辺りの老女の家に疎開しているらしい。
 老女が死んで一人になると、スラブ圏の映画によく出て来る呪術師のような老女に手伝いとしてこき使われるのを手始めに、次々と彼に関連して来る人物の大半はろくでもない人間ばかりである。神父に頼まれて引き取った男は彼を男色の相手にさせる。
 皮肉なのは、ユダヤ人の彼をナチスの軍人(ステラン・スカルスガルド)が逃がすことである。ソ連軍人も彼を救ってソ連について教え、軍人を襲った村人を数名射殺して、 “目には目を” の精神を教える。かくして少年は軍人から受け取ったピストルを使って、自分を差別して虐待した商人を射殺したりもする。
 こういった壮絶なエピソードが恐らく10くらい出てきた後に遂に父親(ジュリアン・サンズ)が現れ、故郷の街に帰る。

この映画のキーの一つは川である。大叔母が死んだ後、少年はひどい目に遭いながら、川伝いにひたすら故郷を目指していたのだろう。少年が何も喋らないので想像するしかないのだ。
 言葉を失った少年は、故郷に向かうバスの曇った窓に自分の名前を書く。観客もここで初めて彼の名前を知るわけで、登場人物の名前で章を構成するというアイデアの効果が最大限に発揮されるのがこの最終章である。

体を土中に埋められ地面に出た頭をカラスの群れに襲われ、やがて日常茶飯事となる鞭打ち、大男による男色など、少年はこれ以上ないひどい目に遭い続ける。
 こうした経験をする少年は主人公であるが、同時に狂言回し即ち傍観者としても存在している。収容所へ送られる列車から飛び降りた男女がナチス軍人に次々と射殺され、ある村がコサック軍に大殺戮される模様などがそれである。

かと言って、本作を所謂ホロコーストものと考えたら、それは本作の狙いをを矮小化することになる。何故なら軍人は少なくとも彼をひどい目に遭わせていず、彼にとって残忍千万なのは専らドイツとも軍人とも関係のない農夫や商人であるから。あるいは少年を人間らしく扱った軍人も通常の道徳観では悪というしかない行為を働く。

といった具合に、この作品には善悪を二元化・単純比較しない人間観がある。従って、どう考えてもホロコーストはモチーフであって文学的な意味での主題(音楽などではモチーフも主題を意味することがある)ではない。
 その一方、人間は動物と何が違うのだろうか?という命題を突きつけるかのように、鳥を始め様々な動物を出して来る。全く生易しくない映画でござる。

農夫(ウド・キアー)が間男をした雇用人の両目をえぐるショットがあるなど描写には残忍なものが多いが、それをモノクロで撮ったのが殊勲。モノクロにするとどこか現実離れしてそうした残忍な場面を見るに耐えられる。カメラ自体も頗る秀逸で、2021年の僕の選ぶ撮影賞は、後3カ月を残すが、これで決まりである。

思いのほか日本の映画ファンによく知られた俳優が出て来る、ある意味豪華な配役でした。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 6

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
ナイス ナイス ナイス

この記事へのコメント