映画評「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2018年フィンランド映画 監督クラウス・ハロ
ネタバレあり

盲目の聖職者と元女囚の交流を描いた「ヤコブへの手紙」(2009年)という作品に甚だ感心させられたフィンランドの監督クラウス・ハロの最新作。モチーフ的に前述作と重なるところがある。

72歳の老画商オラヴィ(ヘイッキ・ノウシアイネン)は、アナログな手法と続けている為に、オンライン化の進む絵画売買の現状に取り残され先行き厳しい状態、最後にひと花咲かせて引退と考えている。
 ある時暫く音信不通の娘レア(ピルヨ・ロンカ)が現れ、そのミドルティーンの息子即ち孫オットー(アモス・ブロテルス)の評価シートを書いてくれと頼む(詳細はよく解らないが、姻族が問題のあった子供の評価をするものらしい)。
 ある時オークションに出される中に拾い物と思われる絵画を発見、署名がないので調べるうちにロシアの肖像画の大家イリヤ・レーピンの作ではないかと考え出し、小間使いをさせていたオットーに協力させた結果、少年は昔の美術関連書籍にその絵画が載っていたことを突き止める。でかしたぞオットー!というわけで、この二人の関係は良くなっていく。
 これに反し、その絵を最終的に購入する資金1万ユーロ+α が足りず、レアの要望に応じて三人での会食の後融通を彼女に切り出したところ大反発を食らう。娘は自分達も食うのに精一杯なのだと言い、絶交状態になってしまう。
 老人は、それでもめげず “馬ににんじん” 式にオットーを抱き込んで彼の学校資金を降ろして購入を果たすが、後で絵がレーピンのものと気づいた美術館のマネジャーが購入予定者に嘘を言った為に商談が流れてがっかり、遂に最後の大商いは空中楼閣と消える。
 が、画廊を売り渡した老画商は、美術館の学芸員から、その絵に署名がない理由が恐らく作者が絵が聖画(事実その絵は「キリスト」というタイトルだった)であるからだろうと告げられる。これに精神的にいたく満足した老画商は亡くなり、孫に「キリスト」と最高評価を残す。父親を敵視していた娘もその最後の真情に納得する。

終わってみれば、老画商の最後の商いとは、信念をもって一枚の絵を買ったことでやがて娘と孫を理解し、その信頼も買った、ということになるのではないかと思う。
 老人と若い世代の交流を描く作品の例に洩れず、本作もアナログとデジタルのジェネレーション・ギャップが重要な要素として扱われると共に、ディスコミュニケーションの問題も出して来る。父と娘の間にはずっとディスコミュニケーションの問題が横たわり、その隔壁をアナログとデジタルの世代間ギャップがあった祖父と孫との協力関係が最終的に(死んだ後ではあるが)突き破る、というお話ではないか。

昨日の作品に続いて本作もまた全ての登場人物が善意の塊のようでないのがよろしく、「ヤコブへの手紙」同様心の交流の重要さに改めて思いを新たにしてじーんとさせられる。

僕が映画ファンと知ると、「スター・ウォーズ」の話を始める人が多い。全く興醒めるなあ。「スター・ウォーズ」ばかりが映画じゃないっちゅうの。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ナイス

この記事へのコメント

モカ
2021年09月16日 15:47
こんにちは。
邦題が「鑑定士と顔のない…」に似ているのが何だかなぁ…ですが。

オットーがおじいさんの店を手伝うのは学校のカリキュラムに職業体験があるけれど
、彼には補導歴があるので普通の商店などでは受け入れてもらえないからでしたかね。
何年か前の日本生命のCMを思い出しました。確か「愛情はお金であがなえないけれどお金に愛情を込める事はできる」(by 谷川俊太郎) 大意ですがこんな一節が印象的でした。 
「ヤコブへの手紙」の監督とは知りませんでした。傑作とか名作と騒ぎ立てるようなタイプじゃなくて、世界の隅っこで静かに待ってくれているような名作ですね。
2021年09月16日 20:32
 フィンランドの長い冬の弱々しい日差しのように、主人公の画廊に明るい絵はほとんど無かったですね。
彼が居なくなった後にカラカラと回る椅子が、仕事にも家庭にも、空回りし続けた人生を象徴しているようでした・・。

 実は、この映画を大学生の姪にも観てもらい、感想を聞いたところ、
「孫のオットー」アートマーケットの現実、絵画商の厳しさとビジネス成功の紙一重さ。
オークションの駆け引きのシーンや絵画売却までの困難や苦難は見てて胸が苦しくなります。
老絵画商の孫や仲間たちとの何気ない知的な会話は絵に興味がある方には相当な面白さです。
殺人や派手などんでん返しが見どころではないですが、
サスペンスと推理劇としても隙のないストーリーは文句のつけようがないです。
浅野佑都
2021年09月16日 20:47
 ↑のは浅野のコメントです。名前と姪の感想、飛ばしてしまいましたが、振るってるので書きますね。
 
「すごく良かったけど、孫のオットーが美術商として成功した姿を観たかった!もしくは、そのシーンから始まって回想するみたいな・・」(笑)
ちょっと、ハリウッド的過ぎるけれど、頭は悪いが人間力の高いオットー君のような逞しさを彼女に感じましたよ(笑)
オカピー
2021年09月16日 22:11
モカさん、こんにちは。

>邦題が「鑑定士と顔のない…」に似ているのが何だかなぁ…ですが。

何だかなぁ(笑)
あの映画を観た人がターゲットだったにちがいありません・・・あはは。

>彼には補導歴があるので普通の商店などでは受け入れてもらえないからでしたかね。

そうでした。

>「ヤコブへの手紙」
>傑作とか名作と騒ぎ立てるようなタイプじゃなくて、世界の隅っこで静かに待ってくれているような名作

そうですね。
いかにもフィンランドという地味な国にふさわしいデス。
オカピー
2021年09月16日 22:23
浅野佑都さん、こんにちは。

>フィンランドの長い冬の弱々しい日差しのように

おおっ、文学的ですね!
 僕の、この映画評は、相当手抜きでしたな。忙しさと頭の衰えのせいかなあ。

>サスペンス

いやあ、書く前は考えていたのに、内容の分析を考えるうちに、ここについて書き忘れましたよ。
 オークションの場面や、その後の顧客や美術館との関係がなかなかサスペンスフルでしたね。これを書かないのは大いなる片手落ちでした。

>頭は悪いが人間力の高いオットー君のような逞しさ

あははは。
人間力の高さは大事ですねえ。
姪御さんは、最初の部分は違うでしょう^^v
モカ
2021年09月17日 09:07
おはようございます。
昨夜ふと気づきましたが、この映画はこの監督の前作同様「小さくされた者」(本田牧師訳)、従来の訳なら「不幸な人々」が神及びキリストに出会う話なんだと思います。
「神はそのひとり子を賜ったほどにこの世を愛された。ひとり子を信じる者が滅びずに永遠の命を得るためである。」 これは小学生の時に日曜学校で出会った一説で心に残っていたのですがオラヴィはまさに「キリスト」に出会ったわけです。
誰もが見過ごす、それとは分からないキリスト像にただならぬ何かを感じたオラヴィ
ですが彼は「キリスト」を信じたんですね。仕事一筋で家族の情にも疎かったオラヴィがその一筋の頑固な道の最後に、頑固さゆえにキリストに出会ったという…そして亡くなって永遠の命を得る…深いなぁ… 自画自賛(笑)
モカ
2021年09月17日 09:59
何度もすいません。追記というか前のコメントの補強です。
レーピンをコレクションしているロシアの大富豪が正に聖書で言うところのラクダ以上に針の穴を通るのが困難な、神の国に行けない天国難民(笑)として描かれていました。享楽的な生活を楽しみ絵画も物欲と投資の対象でしかない人間はキリストに気付けないわけです。
オカピー
2021年09月17日 21:31
モカさん、こんにちは。

>頑固さゆえにキリストに出会ったという…そして亡くなって永遠の命を得る…深いなぁ… 自画自賛(笑)

実は、僕も“これに精神的にいたく満足した老画商は亡くなり”という表現で、それに近いことを考えていないでもなかったのですよ(負けず嫌い・・・笑)。勿論モカさんほど明確ではなかったですけどね。

>ロシアの大富豪・・・神の国に行けない天国難民(笑)

な~るほど。
作者は熱心なクリスチャンなんですね。アーメン。
vivajiji
2021年09月18日 08:46
http://blog.livedoor.jp/vivajiji/archives/51884711.html

プロフェッサーのコメント付き、約10年ほど前の
「ヤコブへの手紙」拙記事持参しました。
盲目牧師役の方、本作の老画商役でしたね。

>〜〜ばかりが映画じゃないちゅうの。

まさに御意、激しく御意!
「誰に向かって言ってるんじゃい!」と
お腹の中で百万回も叫んで下さいませ。
私の経験からも、映画をちゃんと観て、まして
それを語れる方はほとんどいませんでしたねぇ。
ま、すべてに関しても言えることかもですが
とどのつまり人は好きなものしか見ないし
そしてそれで良しとして生きてますから。(^^);

薄い記憶ですが「モンパルナスの灯」でしたか
画家の死を待って動き出す画商、あの映画では
リノ・ヴァンチェラだったような。あれは鮮烈。
それにくらべればいかにも地味な商い方のオラヴィ、
全面的挽回を狙ってのラスト・ディール。
静かにヒタヒタと迫るものがありました。

オラビィの眼に止まった、あの絵。
全ての懸念を払拭させるために、あの絵の像に
キリストを表出させた、オラヴィの力とみせかけて、
神のほうから彼に近づいてきた、と私は観ました。






オカピー
2021年09月18日 22:32
vivajijiさん、こんにちは。

>約10年ほど前の「ヤコブへの手紙」拙記事持参しました。

もうそんな前になりますかねえ。
僕にとって2010年代最初の5年は最明で、その後はまずまず良かった、といったところでしょうか。

>盲目牧師役の方、本作の老画商役でしたね。

名前をチェックしました(笑)
役柄のせいか、あるいはお年のせいか、痩せたような。

>とどのつまり人は好きなものしか見ないし

好きな作品やアーティストを否定されると、自分まで否定された気になる人が多い。これが事をややこしくする(笑)

>「モンパルナスの灯」でしたか
>画家の死を待って動き出す画商

鮮烈でしたねえ。
映画史上の最悪な画商。映画に出て来る画商は極めて限られていますが。

>神のほうから彼に近づいてきた、と私は観ました。

そう言われるとそんな気がします。


今回の映画評は穴だらけで、浅野さん、モカさん、vivajijiさんに補って貰った感じです<(_ _)>