映画評「惡の華」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2019年日本映画 監督・井口昇
ネタバレあり

「悪の華」と言えば、文学愛好家にはボードレールの詩集である。コミック・ファンには押見修造なる作者のコミックということになるらしい。
 しかし、そのコミックはボードレールの「悪の華」がモチーフになっているので、間接的にコミック・ファンもボードレールを知っているということになる。

最初の舞台はわが群馬県。桐生市がモデルで、協力もしている。
 中学生の春日(伊藤健太郎)は同級生の奈々子(秋田汐梨)に恋慕していて、一人でいる放課後、偶然落ちた官女の体操着入れを思わず持ち帰るが、密かにそれを目撃していたアナーキー少女・佐和(玉城ティナ)に脅迫され、奈々子をめぐって色々と難しいことを強制させられる羽目になる。
 その流れのうちに、二人で夜間に教室に忍び込むと、教室を “糞” の文字だらけにする(後の掃除が大変だったと思われる)。
 奈々子は事実を知っても受け入れるが、春日は今や地元の閉塞感、人生の虚無感という共通点を持ち運命共同体のような意識をもつようになった佐和に走り、やがて祭りの時に焼身心中をしようとするが、果たせない。
 3年後埼玉県の高校に進学していた春日は、小説執筆を考えている、佐和の面影を持つ同級生・文(飯豊まりえ)と意気投合、それまでの全てを告白すると、やがて届いた情報を基に、千葉県の母親に引き取られた佐和を訪問する。二人は彼女との接触にそれなりの充実感を覚え、帰るのである。

よくある中二病的思春期映画をぐっとアブノーマルにした内容で、共感も同情も出来ないところが多々あるが、僕は共感だけを基にドラマ映画の評価を下すのは積極的に賛同できない。嫌な人間や不愉快な行為を見させ何かを観客に考えさせるのが、多くのドラマ映画の目的であるはずだからである。共感を理由を評価を下すのはその映画を観ていないのに等しいのではないか。
 その一方、僕はかように複雑で屈折した心情を覚えたことがないので、多少の普遍性を感じさせるところがあるとは言え、彼らの心理を真に理解したとは言い難い。ただ、こんなアブノーマルな中学生はこれまで見たことがない為、その点において実に興味深い作品と思う。

監督は井口昇。SMアダルト・ビデオの監督(出演も)からスタート、ある時期から並行して一般映画も撮るという変わったスタイルを暫く続けていた人だ。文字通りスカトロ・ビデオに絡むことが多かった彼らしく、糞という言葉ががやたらに出て来るのが楽屋裏的に面白い。

空に現れるあの大きな目は、原作由来か、コミック由来か? 「悪の華」を読んで暫く経つので解らない。もう一つの代表作「巴里の憂鬱」なら書棚にあるのだが。

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この記事へのコメント

モカ
2021年08月18日 17:08
こんにちは。

>空に現れるあの大きな目
コミックもボードレールも全然知りませんが、空に目が浮かぶと言えば、プロビデンスの目かもしれませんね。
最近「悪の華」の挿絵の髑髏なんかがある種の若者のファッションアイコンになっているらしいです。

昔「小さな悪の華」というのを観たのを思い出しました。
オカピー
2021年08月18日 22:23
モカさん、こんにちは。

>プロビデンスの目

キリスト教絡みですか。
アラン・レネに「プロビデンス」という映画があり、映画館で観ました。

>挿絵の髑髏なんかがある種の若者のファッションアイコンになっているらしいです。

モカさんも、色々とご存知ですねえ。

>昔「小さな悪の華」というのを観たのを思い出しました。

ありましたねえ。僕はTVで観たような観ていないような。
【スクリーン】を買い始めた頃の作品なので、よく憶えています。
モカ
2021年08月19日 22:12
こんばんは。
アマゾンプライムで早送りしてどんな「目」なのか確認してみました。
ラストシーンですね。目が現れる直前のシーンで、砂浜に3人が放射線状に三角形を作るように寝転んでいましたが、あれはキリスト教で言うところの三位一体を現しているつもりかも?ですね。
ついでにアニメの方の初めの1〜2分を観ましたがこちらも街角の「塩」の看板やら聖書の句やらがありました。

ボードレールには縁がありませんでしたが、ロートレアモンの「マルドロールの歌」ならうちの書棚にありますよ。
 まあ、こういうのを読むのは旬があって二十歳まででしょうかね…(笑)

 すいません、名前だけ送信してしまいました。削除願います。
オカピー
2021年08月20日 17:09
モカさん、こんにちは。

>あれはキリスト教で言うところの三位一体を現しているつもりかも?

なるほど。
最初からキリスト教に注目していれば、そういう着想もあり得たでしょうが、目がキリスト教に結び付かなかったので、そこまでは思いつきませんでした。

>街角の「塩」の看板やら聖書の句やらがありました。

うーむ、益々説得力が・・・

>ロートレアモンの「マルドロールの歌」ならうちの書棚にありますよ。
>まあ、こういうのを読むのは旬があって二十歳まででしょうかね…(笑)

おおっ!
図書館にありましたので、僕は、読むつもりですよ(笑)

>すいません、名前だけ送信してしまいました。削除願います。

はい。やっておきました^^
モカ
2021年08月20日 22:50
こんばんは。

 ロートレアモン
私も図書館で調べてみましたが、私の手元にある昭和40年代出版の栗田勇訳はありませんでした。 新訳で文庫になっているんですね。
学生時分にこういうのやらルクレジオやら自分の頭の容量を考えずに難解な本に手出しして撃沈し続けた反動で、会社勤めをしだしたら創元推理文庫とハヤカワポケットミステリーに走ってしまいましたよ。若気の至りというやつですね。
(そういう意味で20歳頃に読むといいように思ったのです。)
今思い出しましたが昔ルクレジオがロートレアモンの事を書いた本があって、その表表紙にも目のような物が描かれていました。タイトルは…「来るべきロートレアモン」かな? 
読書意欲が旺盛でおられますね! 羨ましいです。 只今「ハワーズエンド」で手間取っております。小池滋訳と吉田健一訳を借りてきてしまって、しまった事をしてしまいました。はかどりませんわ。半分迄読み比べましたが小池訳が断然良いので、後半戦は小池一本で何とか乗り切るつもりです。
モカ
2021年08月21日 10:07
先生おはようございます!
あの空に浮かんだお花の中の目玉ですが、ここ2、3日既視感があるけれど思い出せずにいましたがわかりました。
99% オディロン ルドンが元ネタだと確信しました。 元々画家の名前すら覚えていなかったのですが、何とかたどり着けました。画像検索してみてください。
「パンズラビリンス」の手のひらに目玉のあるあいつの顔を一つ目にしたような絵もあって、あの映画の時も同じような既視感を覚えたのを思い出しました。

そういえば「眼球譚」というのもありましたね。当然読んでませんけども (笑)

とりあえずはご報告まで。
オカピー
2021年08月21日 20:58
モカさん、こんにちは。

>若気の至りというやつですね。

僕は、中学生の頃、(後にそれと知る)ニューウェーヴSFなるものを読んで全く難解でうんざりし、SF全体が嫌いになってしまいました。後で初心者が読むべきものではないと知って、もっと解りやすいSFはボチボチ読むようになりましたが、依然SFよりミステリーの方が好みかな。

>そういう意味で20歳頃に読むといいように思ったのです。

そこまではちょっと読めなかったなあ(笑)

>その表表紙にも目のような物が描かれていました。

それはまた面白い偶然です。

>読書意欲が旺盛でおられますね!

頭の方はそれで良いのですが、右目が異変を発症したので、近いうちに検査を受け、その結果次第では手術になりそうです。その手術次第で一ヶ月くらい本を読んだり、ブログ更新をストップさせられるかもしれません。

>99% オディロン ルドンが元ネタだと確信しました。

美術に関してはモカさんに敵わんです。僕も大博物館に収められているような大古典なら人後に落ちませんが。
こんな画家もいるのかあ(@_@)

>眼球譚

作者はバタイユですか。
哲学者の執筆初期の小説。ちょっと興味をそそられます。
モカ
2021年08月22日 13:20
こんにちは。

私もSFは苦手です。子供の頃はヴェルヌなんかは面白く読んでいましたが…
出版関係の仕事をしていた時、懇意にしてくれていた書店主から「絶対面白いから」と「星を継ぐもの」を押売りされて(笑)仕方なく挑戦しましたが20ページくらいで脱落…向いておりませんわ。ガニメデ星なんて興味ないです。殺人事件の方が面白いです。

目の不調ですか…お大事になさって下さい。
オカピー
2021年08月22日 22:20
モカさん、こんにちは。

>ヴェルヌなんかは面白く読んでいました

ヴェルヌはSF的要素のある冒険小説という感じだから良いのでしょうね。
H・G・ウェルズもまだ初期で難しくなっていないから、万人向けでした。

浅野さんがSF好きなので、余りくだくだ言っていると叱られるとこの辺で(笑)

>「星を継ぐもの」

Wikipediaでチェックしましたが、何だか面倒臭そうで、食指が動かない。
これも浅野さんに怒られるかもしれません(笑)
2021年09月19日 14:33
こんにちは。
山田五郎のYouTube オトナの教養講座でオディロン ルドンが取り上げられていました。花の中の目の謎が少し解けるかも、です。
夫によると彼の後ろの壁に掛かっているギターがめちゃくちゃ高いらしいです。
是非見てみて下さい。
モカ
2021年09月19日 14:34

モカです。毎度すいません。
オカピー
2021年09月19日 20:36
モカさん、こんにちは。

>山田五郎のYouTube オトナの教養講座でオディロン ルドンが取り上げられ
>花の中の目の謎が少し解けるかも、です

そう言えば、この間YouTubeで何かを探している時に右の方に勝手に山田五郎の番組が出ていました。何かの縁?

後で見たらもう一度何か書きますが、“目からうろこ”ならぬ“目からルドン”ということになるかもしれません(例によって意味不明)。

>モカです。毎度すいません。

これはWebryが悪い。前は記名しないとメッセージは書き込めなかったのですよ。モカさんがここにいらっしゃる少し前にシステムの変更がありまして。
文句を言う人がいないのかなあ。僕は面倒くさがり屋なので言わないけれど(笑)
改善点の一つは、恐らくコメントの文字数制限がなくなったらしいこと。
浅野佑都
2021年09月19日 23:18
 こちらは原作未読で映画は最近観ましたが、普遍的なことに対して異常な嫌悪感を持つという、誰にでもある思春期特有の心持ち(所謂、中二病ですか)を描いた(と思われる)原作漫画の面白さが出ていない、表層的な感じでした。

原作を読んでいないのに何故、言い切れるかといいますと、最近多い漫画由来の邦画で、出来の良い作品は極めて少ないからです。
理由はいくつもあると思いますが、端的に言えば(漫画原作に関しては)アニメのほうが総合芸術として実写を超えているからだと思いますね・・。
実写が何も、わざわざ相手の土俵で勝負することもないでしょうに・・。

>アブノーマル
映画的に大仰に作ったと思いますが、自分にもあるという共感もやはり大事でしょうね。そこから、ぞわり、とした恐怖感や、自己肯定感も生まれ、より、お話は面白くなったのになと感じました。


プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]は、本編もさることながらコメント欄が面白いのが伝統ですからね(笑)

モカさんの
>懇意にしてくれていた書店主から「絶対面白いから」と「星を継ぐもの」を押売りされて

お気に召さなかったようですが、一世を風靡した作品で50ページまで読み進めてらっしゃれば‥(笑)
僕が勝手にエステリーと呼んでいるもので、SFとミステリー間の子みたいな感じ、僕は強くはお勧めはしないですが・・・。

>山田五郎の高いギター

彼は、弾き語りも玄人はだしですね!
後ろにあるギターで高いのは、僕らが子供のころ憧れたマーチン製で、スティングが使っているモデルだと思います(女性が小脇に抱えても似合うウクレレの兄貴みたいなヤツ)
vivajiji
2021年09月20日 08:13
その山田さんのYouTube動画拙記事
ちょこっと書いてましたので。⤵️
http://blog.livedoor.jp/vivajiji/archives/52280420.html

浅野さん、モカさん、プロフェッサー、
みなさま、ほんと博学でいらっしゃるから
浅野さんのご指摘通り、知的興味あふれるコメント欄。
実にけっこうなことですね。

SFもの。
私もモカさんの苦手意識、とてもわかりますよ。
ただ諸手あげて推薦するわけじゃありませんが
ブラッドベリやディックなどSF原作の映画化作品に
やたらと傑作がゴロゴロあるのよねぇ。SF嫌いと公言
していたトリュフォーでさえ「華氏451度」ですもの。

ボードレール「悪の華」は
まっことその昔読みました。青き本読み族の
あの頃は当たり前の登竜門でしたから。
ほとんど忘れましたが「蛇」がどうしたこうした
っていう記述だけ覚えてます。(恥)

本作、未見ですけれど
「悪」が旧字体なのは何か意味がありますの?
オカピー
2021年09月20日 22:19
浅野佑都さん、こんにちは。

>漫画由来の邦画で、出来の良い作品は極めて少ないからです。

原作ファンによる比較による評価ではなく、映画として、それは実感します。

>(漫画原作に関しては)アニメのほうが総合芸術として実写を超えているからだと思いますね・・。

鑑賞絶対数は少ないですが、これも何となく解りますね。

>自分にもあるという共感もやはり大事でしょうね。

青春映画では、一般ドラマと違って、そういう面はあると思います。しかし、浅野さんの言う共感と、映画サイトで映画経験の浅い若者の共感とでは、明らかに次元が違います。

>「星を継ぐもの」
>エステリー

僕は読み始めれば最後まで読むので、読ませるところまで行かせるのが大事です(笑)

>僕らが子供のころ憧れたマーチン製

浅野さんも色々と知っていますなあ。
僕はエレキなら多少は解るのですが、アコギはちと解らない。
オカピー
2021年09月20日 22:24
vivajijiさん、こんにちは。

>ブラッドベリやディック

ブラッドベリは長編2作と短編集を読みましたが、いずれも抜群に面白かった。彼に関しては好きと言っても良いでしょう。
ディックは知名度は高いですが、未だに手付かず。いずれ読まないと。

>本作、未見ですけれど
>「悪」が旧字体なのは何か意味がありますの?

椅子からずり落ちること必至ですので、観ないことをお勧めします(笑)
最近の日本人の悪い癖で、一部だけ文語体にしたり、旧字体にしたり、格好つけているのでしょう。原作者が読んだ本が旧字体だったのかもしれませんね。