映画評「サイレント・トーキョー」

☆☆★(5点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・波多野貴文
ネタバレあり

サスペンス映画を作ると日本映画はどうしても情が絡み過ぎて成功しない。「感染列島」はサスペンス要素は多かったのに情が絡んで矛盾だらけになって話が成立しないレベルに終わった。その点本作は話は辛うじて成立しているが、少なからず点出される情以上にプロパガンダ性が強すぎて、サスペンス映画としてはつまらない出来栄えと言うしかない。

中年美人・石田ゆり子の連絡を受けて爆弾が仕掛けられたという現場に向ったTV局報道関係者二人(金井勇太、井之脇海)が、テロ事件に巻き込まれる。
 爆発は起こるが殺傷は目的ではないらしく、真犯人の指示に従って動く主婦と一緒に行動する羽目になった契約社員の井之脇が政府との対話を求める動画をアップさせられる。戦争をできる国にした首相・鶴見辰吾はこれを無視し、その結果渋谷のハチ公前で大爆破が起こる。
 これに巻き込まれるのが妙齢美人二人(広瀬アリス、加弥乃)で、軽傷で澄んだアリス嬢が重傷になった加弥乃に交際を勧めていたIT技術者・中村倫也が現場にい、かつ、事件の映像をしっかりと収めているのに気づいて犯人と思い、捜査中の刑事・西島秀俊に連絡する。
 これらに元自衛官の佐藤浩市も絡んで、犯人らしき人々、巻き込まれる人々、捜査陣という三者が群像劇のようなバランスで進行していく。

序盤はなかなか興味深い。前半までは犯人らしき人物が数名ちらほらしても実態が解らないミステリー性が散りばめられ、サスペンスとしての興味を維持する。
 ところが、首相の主張への疑問提示が段々表立ってくると俄かに先行きへの不安がよぎり、やがて元自衛官が前面に出て来ると、サスペンスはすっかりなくなり、純然たるプロパガンダ映画に落ちる。

一言にまとめれば、戦争について何も知らない人が戦争を云々するな、ということである。この映画の首相は、実際の前首相の言動を投影した人物と言うべし。そのメッセージ自体は軽視してはいけないが、サスペンス性を犠牲にせず高く維持したまま同じ主張が出来ればぐっと良い映画となったことは言うまでもない。

日本人には映画におけるゲーム性を軽んじ、声高にメッセージを打ち出すのが良い映画と思う傾向がある。特に非映画ファンに多い。しかし、本作が政治的批判だけでなく、国民の平和ボケによる戦争に対する無関心を取り上げたのはちょっと興味深い。

四半世紀くらい前に「スピード」をTVで観た女性が“ゲームのような映画でがっかりした”と投稿した。しかし、あれはゲーム感覚のある純道の高い優れた映画である。僕もゲームそのもののような映画は好きではない。「スピード」には人間の死への恐怖を内包しているから、ゲームそのもののような映画ではない。ゲームそのものの映画からは人間のそんな感情も感じられないのである。

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