映画評「オーソン・ウェルズ IN ストレンジャー」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1945年アメリカ映画 監督オーソン・ウェルズ
ネタバレあり

1990年代に衛星放送で観た。オースン・ウェルズの監督作品ながら依然日本劇場未公開だが、出来栄えは決して悪くない。同時代の日本で公開されなかったのは、恐らくGHQがナチスをテーマにしている本作の占領下日本での公開を嫌がったのであろう(ある意味日本側に配慮?)。

話の骨幹はシンプル。
 戦犯聴聞会委員エドワード・G・ロビンスンが、故意に元収容所所長コンスタンティン・シェーンを自由にして泳がす。渡米した元所長は、教師として小さな町に潜んでいる無名の元高官ウェルズに接近するが、ウェルズはすっかり信心深い男に変身していた相手が邪魔になるだけと思い絞殺する。

Allcinemaの梗概が例によって間違っている。ナチ再興を望まないのはシェーンの方であってウェルズではない。元所長は彼の転向を求めてやって来たのだ。

彼がやって来た当日ウェルズは判事の娘ロレッタ・ヤングと結婚し、その合間を縫って死体を埋めて披露宴に帰って来るが、後日彼女の愛犬が死体に気づいた為に毒殺する。
 時計好きという点などから教師が元高官と確信したロビンスンは、シェーンの死体が掘り起こされた後、本人を除く彼女の家族を味方につけて、ウェルズを追い詰めていく。追い詰められたウェルズは、委員の予想通り、綿密な計画を立てて殺そうと彼が好きな時計台に彼女を呼び出すが、思いがけぬ事件が起こる。さて、ロビンスンはこの後いかにウェルズに対処するか。

というスリラーで、後年のナチス残党狩り映画に似ているが、本質的には反ナチズム・キャンペーンに主眼を置いているような気がする。ウェルズ自身が余り気に入った作品と思っていない理由も案外その辺の無粋さにあるかもしれない。それはともかく、スリラーとして面白い。

前半は、派手さを抑えてしっかりお話を組み立てる丁寧な作劇で、移動撮影・仰角・俯瞰とカメラを駆使して巧みに展開する。この部分はカメラに注視して観るべし。お話がいよいよ面白くなるのは終幕まで30分を切った辺りからで、梯子を見上げる仰角、時計台から人々から集まる地面を見下ろす俯瞰(ウェルズの主観)などそうしたカメラが大いに生かされ、効果を上げることになる。

ウェルズがアリバイを用意し妻の殺害を事故死に見せかける策謀が、老家政婦の故意か偶然かヒロインの外出を阻止して、失敗に終わるといった展開は誠に僕好みで、大いに楽しめる。アリバイ工作を終えたウェルズが帰宅すると死んだと予想していた妻がいる、という場面での妻の影の使い方も上手い。

作品全体に配置した、時計の使い方も上手い。ウェルズが正体が特定されるのも趣味の時計好きからで、彼の策謀も時間絡み。こういう設定がスリラーを面白くするのである。

この後アメリカは急激に赤狩りに方向転換し、本作主演のロビンスンもかつての反ナチ活動を理由に共産主義者の疑いをかけられたらしい。アメリカという国は本当に極端で、日本の占領政策も途中から反共的政策へ大転換する。

1949年に立て続けに起きた国鉄絡みの怪事件三件は、反共政策の一環として転向後のGHQが画策したのではないかとも言われている。松本清張によれば、GHQが転向したというより、GHQ内の勢力に交代劇(自由主義派⇒反共派)があったらしい。

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