映画評「カセットテープ・ダイアリーズ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年イギリス=アメリカ=フランス合作映画 監督グリンダ・チャーダ
ネタバレあり

ビートルズの「ゲット・バック」は当初パキスタン人差別を歌う内容であったと言う。パキスタン人を差別するのではなく、パキスタン人差別を皮肉るつもりだったらしい。しかし、それでも誤解を招いては困ると思ったのか、結局現状の内容になった。確かにゲット・バック・セッションの初期ではパキスタン人という言葉が聞き取れる。それがいつの間にか消えた。我輩、貴重な音源を持っているなあ(笑)。

話はそれから20年近く後の1987年。ビートルズが歌った時代以上にパキスタン人が押し寄せ排斥デモも行われる時代が舞台である。
 イスラム教徒である為思想の自由はなく不満を抱えていた16歳の少年ジャベド(ヴィヴェイク・カルラ)は、シーク教徒の生徒ループス(アーロン・ファグラ)に渡されたボスことブルース・スプリングスティーンのカセットテープ二本を聴いて、執筆業を目指す夢を持っていることもあり、若者の心情や社会の現状を歌うその歌詞に多大な影響を受け、田舎町から離れたマンチェスター大に進学しようとするが、イスラム教徒らしい保守性を大いに発揮する父親マリク(クルヴィンダー・ギール)の圧力により、コンサートのチケットが破られたように、くだかれようとする。
 しかし、文才が認められてインターンとして新聞社での働きが認められるなどするうち、最初の理解者である妹に加えて母親(ミーラ・ガナトラ)が彼の味方に付き、やがて父親も彼の目標を理解するようになる。

ブルース・スプリングスティーンはアメリカに比べて日本では評価されていないが、やはり素晴らしい歌詞が直感的に理解できないからであろう。その結果が、彼が肉体系ロッカーであるという誤解である。
 僕は、尾崎豊が彼の影響を相当受けていると思い、サイトでチェックしていると、彼の曲(のアレンジ)から戴いたところがあるという関係者(プロデューサーだったか?)の証言を読んだ。が、同時にそうした意見に対し“世界観が全然違う”という青臭い意見にも遭遇した。世界観の意味がよく解らないが、恐らく若者の怒りをぶつけるような尾崎とアメリカ万歳と歌うようなボスとは違うという主旨であろう。
 しかるに、それが全く誤解で、本作の中でも言われるように「ボーン・イン・ザ・USA」Born in the U.S.A はベトナム帰還兵の苦難を歌っているし、 「15の夜」を思わせる若者の怒りや閉塞感を歌った歌もある。このどこに世界観の違いがあると言うのだ。僕はそもそもアレンジの拝借(例えば「十七歳の地図」における「明日なき暴走」Born to Run)について言っているのだが、歌詞も案外近いのだ。

閑話休題。
 肝心の映画は、21世紀になってからぽつりぽつり作られてきたインド人パキスタン人移民を扱う作品の定石に則った作りで新味は薄いが、若者に元気を与えそうな内容をきちんと要領よく素直に展開させていて、ストレスを感じさせないのが良い。
 スプリングスティーンの曲(LP「明日なき暴走」収録の曲が多い)が色々と紹介されるのが個人的に嬉しく、加点という格好。

インドのコロナ感染爆発は収まったらしい。翻って、日本では(日本レベルで)感染が激増しているが、それを理由に五輪中止に言及する意味が解らない。五輪関係者が直接的に感染爆発に関与することがないのは自明。いずれにしても五輪開催の直接・間接の影響が判り出すのは五輪終了後の8月第2週からだ。メディアはそんな暇があるなら、現状ではワクチンの量が追い付かないものの、早晩打つ番が回って来る若者にワクチン接種を啓蒙する記事を頻繁に書いた方が良い。それを放置して泣くのは、病院と飲食店だ。

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