映画評「リンドグレーン」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2018年スウェーデン=デンマーク合作映画 監督ペアニル・フィシャー・クリステンセン
ネタバレあり

先年初めてスウェーデンの児童文学「長靴下のピッピ」を読んだ。楽しい児童小説だが、本作はその作者アストリッド・リンドグレーンの知られざる若い日々の苦闘を描いた伝記映画である。

因循な村に生活する少女アストリッド(アウバ・アウグスト)が、その生活に息苦しさを感じていたある日、地方新聞社の助手に求められ持ち前の文才を遺憾なく発揮、性格に問題のある妻との離婚問題に悩まされる編集長ブロムベルイ(ヘンリク・ラファエルソン)と男女の仲になって妊娠。
 姦通罪があり、市民と教会との関係により内密に生むことが出来ない国内事情を慮って、父親の名前なしでも子供の産めるデンマークに渡って出産し、その場でマリー(トリーヌ・ディルホム)という子供のある主婦に、姦通罪と離婚の裁判が決着して結婚ができるまでの一時的な措置として里親になってもらう。
 ブロムベルイが有罪になったものの刑務所には入らず僅かな金額の罰金で済むことを知ったアストリッドは、晴れて結婚を求めるプロムベルイの願いを拒否して離れ、自動車会社の秘書として懸命に生活する。やがて里親マリーが重病に陥って子育てが不可能になったのを機に息子を迎えることになる。
 しかし、長い不在で養母マリーを求める息子にやりきれなさを感じるだけでなく、彼の百日咳に困ってしまう。母親としての看病の苦労を知った上司リンドグレーン(ビョルン・グスタフソン)が彼女に無理やり休暇を取らせ、息子は回復する。眠れない息子にお話をし始めたのが児童文学者アストリッドの最初の仕事となりました、とさ。めでたしめでたし。

【Yahoo!映画】にある “モヤモヤする” という投稿にはこちらがモヤモヤする。ヒロインがずるいと言うのである。
 しかし、この映画のテーマは、当時のスウェーデンの宗教をベースにした保守性が子供と離れたくない少女ママにそうさせた問題を打ち出すことである。単にアストリッド一人の問題ではなく、今でも原理主義的なまでに保守的な場所や国家ではまだありうる話と理解しなければならない。米国の共和党支持層が堕胎を認めたがらない保守性もこの類である。米国のそうした保守的な州でも昔より多少進んで、レイプにより妊娠でごく早期であれば或いは母体保護を目的とする堕胎を認めるようになったが、もっと幅広く堕胎は認めるべきと僕は思う。

投稿者の彼若しくは彼女が説明不足と思ったらしいブロムベルイの求婚拒否の心理は確かに完全には解らないものがあるが、次のようなことであろう。
 彼が罰金で済むとは思っていなかったと言ったのは事実かもしれないが、彼女は父親の刑務所行きを嫌ってデンマークでの出産・育児を認めたのである。刑務所に行かない(ことを知る可能性があった)のに裁判に長く時間をかけすぎた、子供との別離機関が長くなった・・・許せない、と。デンマークでの里親による育児を自ら望んだのではなく、寧ろ忍耐した彼女のどこにずるさがあるというのだろう。

いずれにしても、お話の説明において総じて過不足はない。これ以上多ければくどくなるし、少なければ解りにくくなる。とりたてて注意して観なくても解る程度の匙加減で進行し、大いなる感銘を喚起する作品と言うべし。

もう少し具体的なところでは、三世代に渡る親子の情に胸打たれるところが少なくない。保守的すぎてヒロインには思わしくない両親も勿論嫌がらせで彼女を困らせたわけではなく、最後は孫と共に彼女を温かく迎える。こういう場面に僕は弱い。

児童文学には比較的疎い僕も、さすがにこの題名にはピンと来ました。

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この記事へのコメント

2021年07月24日 11:37
先月に観たばかりでした。
リンドグレーンは子供の頃に御贔屓だったので期待して観たんですが、期待したテーマで無かったからか辛口の感想になりました。

>ブロムベルイの求婚拒否の心理

理屈ではなく、裁判の結果を伝える彼の口調がアストリッドの苦労を想像できていないあっけらかんとしたものだった、ただそれだけで嫌になったんだと僕は解釈しました。こんな奴とこの後何十年も一緒にいられるか、と。

>三世代に渡る親子の情に胸打たれるところが少なくない。

僕はここも物足りなかったです。
もっとウェットに描いても良かったんじゃないかと書いております。
オカピー
2021年07月24日 22:16
十瑠さん、こんにちは。

>辛口の感想になりました。

映画観はそれほど違わないと思いますが、感覚的には結構違うところがあるのかなあ。僕は非常に気に入りました。アメリカのフェミニズム映画のような厭らしさがなく好感が持てました。

>こんな奴とこの後何十年も一緒にいられるか、と。

実質的には彼の性格の問題なので、さほど違わない意見かと。

>もっとウェットに描いても良かったんじゃないかと書いております。

いや、最近のセミ・ドキュメンタリーは全く即実的で遥かにドライ。そういう映画が多い現在、これでも相当ウェットです。僕は多すぎず少なすぎず、丁度良いと感じました。現在の頃本年度ベスト10候補。
 近年の映画は、僕の本来の基準からするとダメな映画が多く、相対的に甘くなる傾向がありますね。