映画評「セルビア・クライシス~1914バルカン半島の危機~」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年セルビア=ギリシャ合作映画 監督ペータル・リストフスキー
ネタバレあり

日本劇場未公開のセルビア映画だが、2019年度アカデミー賞国際長編映画賞(かつての外国語映画賞)のセルビア代表になったということで、WOWOWでの放映で観てみた。

オーストリア大公夫妻がボスニア系セルビア人に殺された(サラエヴォ事件)のを契機に、オーストリア=ハンガリー二重帝国は、セルビアに宣戦を布告して戦争が始まる(第一次大戦の始まり)。
 帝国軍がある村を襲った結果、10歳くらいの少年モムチロ(イヴァン・ヴィッチ)は家族全員を失い、戦場に赴く。そこで初めて出征した若者マリンコ(ミラン・コラク)と知り合う。
 その母マクレナ(ダニカ・リストフスキー)は息子に渡し忘れた手袋を、国民思いで前線視察を欠かさない国王ペータル1世(ラザル・リストフスキー)に託して渡す。
 敗色濃厚で山を越えてアルバニア方面への撤退を余儀なくされた国王は、受け取った手袋をマリンコを渡すことを生きる目的とでも考えたのか執念を燃やし、国民も兵隊も雪の山道を超えるのに難儀する中、将軍たちを駆使して探し出そうとする。やっと探し当てた時マリンコは凍死しているが、その下に自ら伍長に任命したモムチロ少年を発見して救出する。
 二人に自分の食料を恵んだ親切な戦友ジオータ(ラトヴァン・ヴヨヴィッチ)は瀕死の体を横たえる海辺で王の関心を惹く。王の落としたJ・S・ミルの「自由論」を拾っていたのだ。
 終戦後、王はマクレナ(避難中に凍死)とマリンコの母子の記念碑を立て、1921年に崩御する。

3・11以来日本の為政者たちは ”国民に寄り添う” を連呼しているが、全然寄り添っていない。自分や属する党の利益ばかり考えている。それに比べると、この作品に出て来る実在の王は本物である。自分が死ぬかもしれない危険を冒して戦場に出(バルカン戦争の時にはバラバラになった戦友の死体を集めて運んだと言う)、落ちれば即死の狭隘な山道を超える。
 どの程度史実通りなのか解らないが、今でもセルビアで人気のある国王というのは事実らしい。

セルビアがかつて多大な被害を被った国であること、そして、国王の人となりを打ち出すのが眼目と思われるが、通奏低音とでも言いたくなるくらい配置されている運命の面白さが強く印象に残る。
 例えば、国王はマリンコに母親の手袋を渡す為に彷徨するうちに自ら伍長に“昇進”させたモムチロ少年を発見する。あるいは知らぬ間に落とした「自由論」を拾ったジオータと会う。

この辺の多くは多分に寓意的で恐らく創作であろうと思うが、なかなか面白く綴られている。戦場の酷烈な描写もリアリズム基調でしっかりしている。運命論的な部分に興味を喚起されない方には余り面白くないかもしれないが、立派な作品と言うべし。

太平洋戦争末期の米軍侵攻で沖縄は人口の四分の一くらい失ったと言われるが、人口比でセルビアも第一次大戦でそれに近い人を失ったらしい。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント