映画評「健さん」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2016年日本映画 監督・日比遊一
ネタバレあり

僕が映画ファンになり立ての1970年代初め、昼間よくTVで高倉健の任侠映画をやっていたが、当時は洋画オンリーの子供だったので殆ど観た記憶はない。「幸福の黄色いハンカチ」(1977年)を最初に観たのもTVで(後年名画座でも観る)、映画館で高倉健をきちんと観たのは「駅 STATION」(1981年)が最初と思う。

本作は日比遊一による高倉健を色々な角度から分析するインタビュー・ドキュメンタリーで、どちらかと言えば編年体に近い作り方と思う。
 江利チエミとの結婚や、ビートルズ来日や学生運動があった60年代半ばから暫く続く任侠路線、76年に東映から独立してからの映画絡みの逸話の数々。と言っても、映画俳優としての遍歴を綴る作品でもない。

映画製作で関わった人々、東映時代の沢島正監督、東映時代からフリー時代を通して一番主演映画を撮った降旗康男監督、フリー時代の代表作「幸福の黄色いハンカチ」「遥かなる山の呼び声」(1980年)で関わった山田洋次監督、東映の後輩俳優の梅宮辰夫や八名信夫、共演者の中野良子等々、外国人では「ザ・ヤクザ」(1974年)の脚本を書いたポール・シュレーダー、「ブラック・レイン」(1989年)で共演したマイケル・ダグラス、同作で撮影監督を担当したヤン・デ・ポン、多大な影響を受けたと言う監督ジョン・ウー、「沈黙-サイレンス-」(2016年)で主演に起用しようとして丁寧に断られたというマーティン・スコセッシ、訪問を受けて以来高倉先生と呼称しているらしい韓国の俳優ユ・オソン、日本以外で一番人気のある中国の「単騎、千里を走る。」(2005年)で共演したチュー・リンといったところに、逸話のほか彼の人となりを語らせ、その人物像を浮き彫りにするのが目的である。

また、映画批評家の川本三郎によるクリント・イーストウッドとの比較を始め、映画俳優としての立ち位置に関する分析には納得することしばしば。

私人としての彼をよく知る人物では、実妹の森敏子さん、元付き人で今やガソリンスタンドを経営しているらしい西村泰治さん(いかに映画評と雖も、一般の人はさん付けにしないと居心地が悪い。但し、スポーツ選手や芸能人がリタイアして ”一般人” になってもその必要はない。一度有名になった人は引退しても一般の人として語られることはないので、さん付けは却って失礼である。同業者同士を除いて呼称なしが有名人や偉人の呼称だからである。スポーツ選手の記録の話をする時にさん付けする馬鹿らしさ! 王貞治さんも松井秀喜さんもプロ野球で本塁打を一本も打っていない。打ったのは王選手であり、松井選手である。まして歴史的偉人に “さん” を付けるのは論外)
 森さんは主に母親との関係に終始する。勿論、親子関係の話に弱い僕は感涙した。西村さんの話は、そこから彼の人情家ぶりが浮かび上がる話が多く、相当興味深い。

同氏を始め関わった人々の話を聞くと、彼が地で言った言葉に映画の台詞と重なるものが多い。ある人曰く、彼は撮影現場に入る直前から高倉健を演じていたと言い、ある人は彼は常に高倉健(もしくは小田剛一)であると言う。またある人は、相対する人によって高倉健と小田剛一を演じ分けていたのではないかとも言う。最後の人の意見が正しいとすれば、矛盾するような前二名の意見も納得できる次第。

以上を総合した僕の印象では、映画とりわけ「幸福な黄色いハンカチ」以降の作品に見せる人物像がほぼ素の高倉健であったような気がする。

三島由紀夫の伝記映画に出演する話に乗り気だったらしい。周囲の人がイメージの問題があることを理由に断らせたらしい。偶然にも今日「三島由紀夫VS東大全共闘50年目の真実」というドキュメンタリー映画を観ることになった。二人は世代が近いし、風貌も割合似ている。体格は大分違うが。

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この記事へのコメント

nessko
2021年06月05日 20:21
>同業者同士を除いて呼称なしが有名人や偉人の呼称

これはそうなんですよね。私はこれ習ったんですが、もっと学校できちんと教えた方がいいです。

高倉健ですが、わたしも映画館で観たのは「駅 ステイション」だけかな。菅原文太はトラック野郎とかいくつか観てるんですけどね。個人的には文太の方が好きです。
オカピー
2021年06月05日 21:31
nesskoさん、こんにちは。

>これはそうなんですよね。私はこれ習ったんですが、
>もっと学校できちんと教えた方がいいです。

一般の人は、犯罪者になると新聞等で“さん”という呼称がなくなるのですが、そこから勝手に類推して有名人や偉人にさんを付けないのは失礼と思う人がある時から増えたんでしょう。誤解なんですけどね。
 日本で一番多い苗字は何ですか、という問題に応える時に“佐藤さん”と答えるのも変だなあ。苗字には人格がないので、さんは要らないでしょう。その苗字を持っている人に配慮しているということでしょうが、馬鹿げています。

誤解と言えば、“そうですか”“そうなんですか”の”か”を疑問と思って、初めて聞いた人が“そうなんですね”という言い方をする人が営業やTV局の人を中心に増えていますね。一定以上に増えそうもないので安心していますが。
 この場合の”か”は感嘆なんですよね。勘違いが言葉を変える。
 言葉が変わるのは問題ないのですが、現在の変化は話す人に便利に、聞く人に不便(解りにくい)なのが多く、良くないと思うわけです。

>個人的には文太の方が好きです。

僕は菅原文太(の主演映画)は多分映画館では観ていないと思います。「仁義なき戦い」の頃は邦画を観なかったし、「トラック野郎」はどうもそそられませんでした。俳優としては良いと思いますが。
2021年06月06日 11:24
ことばは変わりますけれども、たとえば新聞やテレビなどで使う標準日本語といいますか、あれは一定させないと日本人同士でも意思の疎通が不便になるんですよね。

著名人へのさんづけですが、小説の文庫本だと、解説を書くのが著者と面識のある同業者だったりするので、そこでさんづけしてたりするんです、あれは知り合いの同業者だからなんですが、ああいうところからも誤解が広がってるのではというのがあって、解説書くのは評論家に頼むようにしてほしい。

高倉健は「健さん」というのが愛称、ニックネームみたいになってしまっているんですよね。映画の話してても「健さんと文太が」みたいな言い方になる。あれはおもしろい例だと思うし、映画スター高倉健の特性をよくあらわしてる愛称になるんでしょうか。

東映といえば、健さんや文太みたいな映画スターのイメージはないですが、松方弘樹はすばらしい役者でしたね。大人になってからすごさがわかりました。どんな役でもできて、時代劇なら殺陣もきまりますしね。
モカ
2021年06月06日 22:09
こんばんは。

高倉健という俳優にはまるで興味がなくて、吉永小百合と高倉健が「日本が誇る名優」のように書かれているのを見るたびにテンション下がってしまいます。 
とれはともかくとして、うちからそう遠くない所に「健さんの愛した喫茶店」があるのを思い出しました。 私はファンでもないので当然行ったことはないのですが、このご時世ですしまだ操業されているのかと検索してみましたらちゃんと営業されていました。
ネット上で画像検索して見ていましたら店内に”健さん”がプレゼントしたというジャン・ギャバンの大きなポスターが飾られていました。 なるほど・・・先日のジャン・ギャバンと健さんが繋がって見えてきましたよ。演技云々というより存在感で勝負するところなんかが共通点でしょうか・・・
「花の木」という珈琲屋さんです。 ちなみにそこから道を挟んだ町内に故宮川一夫の家があります。私は見たことがないのですが、実家が同じ町内だったという人によると「そこらの家とはちょっと違う素敵な家」とのことです。

高倉健ってニーナ・シモンが好きだったらしいです。

 
オカピー
2021年06月06日 22:40
nesskoさん、こんにちは。

>解説を書くのが著者と面識のある同業者だったりするので、そこでさんづけしてたりするんです

それで誤解が生じるというのは、一理ありますね。
 そこで思い出すのは松本清張の「日本の黒い霧」という著書。ある人物を巡る怪事件について述べる時は“さん”なしで記述し、面識のある人としてその人物の人となりを述べる時は“さん”を付けている。これが正しい呼称の考え方と思います。

>映画の話してても「健さんと文太が」みたいな言い方になる。

僕もこの表現は印象に残りました。
 一作年くらいに「世界ふしぎ発見!」で、ゲスト解答者として出たさかなくんを別のゲスト解答者が“さかなくんさん”と訳の解らない言い方をしていました。確かに少し考えさせる芸名ですが、さかなくんで問題ないでしょう。

>松方弘樹はすばらしい役者でしたね。大人になってからすごさがわかりました。
>どんな役でもできて、時代劇なら殺陣もきまりますしね。

殺陣は素晴らしかったですね。
 ただ、市川雷蔵が急死したのを受けてピンチヒッターで眠狂四郎をやったのはどうも(笑)。雷蔵の虚無と比べると、いけません。雷蔵がいなくなった時に大映は眠狂四郎を諦めるべきだったと思います。多分実際に見れば、そんなに悪くないのでしょうけどね(食わず嫌い)。
オカピー
2021年06月07日 09:11
モカさん、こんにちは。

>先日のジャン・ギャバンと健さんが繋がって見えてきましたよ。
>演技云々というより存在感で勝負するところなんかが共通点でしょうか・・

存在感という点でその通りと思います。台詞の印象だけで判断される方には、高倉健という映画俳優をうまくないと思う人もいるでしょうね。演技力というのは、数学的正しさだけで歌唱力が判断できないように、台詞の棒読み的か否かで判断できないと僕は思っていますが。

>「花の木」という珈琲屋さんです。
>ちなみにそこから道を挟んだ町内に故宮川一夫の家があります。

いいですなあ^^

>高倉健ってニーナ・シモンが好きだったらしいです。

いいじゃないですか!
高倉健の趣味性は、なかなか面白そうです。この映画の中でも彼の好きなものに触れた部分があったような記憶があります。最近は“すぐ忘れる課”という部署に異動になりましたので、すぐに忘れてしまって甚だ心もとないのですが。