映画評「ドロステのはてで僕ら」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・山口淳太
ネタバレあり

若者たちが歴史(と言っても個人的なことなのだが)を変えないように努力するタイムマシンものの傑作「サマータイムマシン・ブルース」(2005年)を生み出した劇団【ヨーロッパ企画】が演劇の映画化ではなく、オリジナルの映画として作ったという点が興味。またまた時間絡みである。

ヤクザの組も入居している雑居ビル。一階でカフェを営んでいるマスター土佐和成が仕事を終えて自室のある二階に戻ると、TVに映し出された2分後の自分から声をかけられ、やがてカフェのTVと自室のTVを介して未来と現在(あるいは現在と過去)がリンクしていることに気付く。
 従業員の女の子・藤谷理子がこれに興味を持って騒いでいると、その最中に友人たち(石田剛太、諏訪誠、酒井善史、中川晴樹、角田貴志)が訪れ、この原理を鏡合わせにして応用することで理論的には無限の未来(あるいは過去)と繋がることに気付く。
 しかし、その結果、隣の店の美人店主・朝倉あきをヤクザに拉致される事件が起き、この原理を活用して救い出す作戦を立てる。

一つの空間に二つ以上の時間が絡み合うというところが、三日前に観たばかりの「TENET テネット」と共通するが、理論はともかく、70分と短尺でお話自体はこちらのほうがぐっと解りやすい。

僕が注目したのは、「カメラを止めるな!」以上に存在する、ショットを切らないことの必要性である。脚本を書いた上田誠は、単に技術を見せつける為だけに長回しを着想したわけではない。
 2分という時間差のお話を破綻なくを見せるには、カメラが捉えるごく狭い範囲の空間にTV内を別にすると同一人物を二人存在させてはならず、それを観客に無意識のうちに知らしめるためカメラは限られた人物を追って延々と回り続けるのである。
 登場人物も(何故か)その事実に気づいている為2分以上TVに映ることを避けるというのも面白い。作者の作劇を知っているかように登場人物が行動するという、一種の循環論が成立している、という言い方もできる。

実際技術的にも相当難しい芸当をこなす必要がある。このIT時代であるから、コンピューターを使えば、撮影現場でショットを切っても巧く繋がるし、スタッフのミスで余分なものが映り込んでも消すことができるが、それに頼ったのでは面白味がない(尤も、観ている人にはその差は解らないような気もする)。映画サイトの解説によれば、アナログ方式で全て撮ったということである。

些細なことだが、左脳人間であるが故に、一点だけ非常に気になることがある。コメディーではあるし、余り突っ込まないほうが粋と承知の上で申します。二階のTVの電源コードが、予め大移動することを前提としたかのように長いことである。自由度の高いパソコン辺りのほうがかかる無粋な突っ込みを生みにくかったのではないか。

確かにこのお話は舞台では見せることができませんなあ。題名の由来であるドロステ効果とは、合わせ鏡のような現象のこと。

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この記事へのコメント

モカ
2021年07月17日 21:26
こんばんは。

これは面白かったです。 「運命じゃない人」を思い出しました。

>脚本を書いた上田誠

 全然予備知識がなかったのですが、「ヨーロッパ企画」という怪しげな名前が気になって調べてみたら上田誠とは同志社小劇場出身とのこと・・・懐かしいです。友人が女優?してましたよ。
あの頃は当時流行のアングラ系でしたが。

冒頭の画面で路上のバスを見て「えっ、このバス206? 千本通や~」となりましたが、後でみたウィキによると上田誠の実家がこの近くみたいです。

テレビの電源コードはどこまでもついてくるあの長さが面白かったですよ。あのアナログ感が良いと思います。確信犯ですよ、きっと。
オカピー
2021年07月18日 18:52
モカさん、こんにちは。

>テレビの電源コードはどこまでもついてくるあの長さが面白かったですよ。
>あのアナログ感が良いと思います。確信犯ですよ、きっと。

そう言われてなるほどと思いました。
気付く人は気付くあの不自然さが、笑いになる。逆に、その不条理に気づかない人は笑えないわけですが、大概気付くか(笑)