映画評「TENET テネット」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2020年アメリカ=イギリス合作映画 監督クリストファー・ノーラン
ネタバレあり

文字通り時間がどんどん逆行して展開する映画「メメント」(2000年)を出世作とするクリストファー・ノーランとしては、自身頗る興味のあるテーマに再び取り組んだと言えましょう。しかし、何故か「メメント」に言及する人が少ない。
 アクションではないが、時間の順行・逆行をテーマにした作品にドニ・ヴィルヌーヴの「メッセージ」という秀作がある。あちらのほうが哲学的で面白いが、本作も娯楽作として充実した出来栄えである。

発端はキエフのオペラ劇場での騒動。テロに見えてテロではない事件におけるSWATの救出作戦である。この作戦に関与して敵に捕らえられた無名の黒人ジョン・デーヴィッド・ワシントンが救出された後、女性科学者から時間を逆行させる武器を見せられる。
 この武器を追う役目をこなすうちに、白人エージェントのロバート・パティンスンと協力し、贋作の大金での購入に関与するインドの老婦人ディンプル・カバディヤの説明を受けて、既に時間の逆行を利用している “TENET” と呼ばれる組織の陰謀を防ぐ大役を背負うことになる。
 組織の親玉はロシア人の在英武器商人ケネス・ブラナー。その妻の十頭身美人エリザベス・デビッキは子供を奪おうとする夫の横暴に耐え切れず、ワシントン等の協力者となる。

という物語だが、これでは何だか解るまいと思うので、補足しましょう。

陰謀というのは未来の武器である全ての時間が逆行する世界を引き起こすアルゴリズムを完成させ世界を滅亡させることで、末期がんになって自暴自棄のブラナーがアルゴリズムの完成を自分の死と結び付けたことが厄介なのだ。
 そこで終盤に繰り広げられる二面作戦は、一つはワシントン等のグループ(このグループがさらに3つのグループに分かれている)が設定された爆破前にアルゴリズムを奪還すること、そしてその時までエリザベスがブラナーの死をそれとなく妨害する、という同時進行の作戦である。

アルゴリズムの仕組みが解りにくく、結果的に最後の作戦にサスペンスを感じにくくなる憾みがあるものの、方向性としては極めて大衆的な作りである。
 面白味としては時間の順行と逆行の組合せで、それ自体の詳細に即時の理解を超える難解さがある一方で、前の場面が後段できちんと整合するところなど実に面白い。
 例えば、煎じ詰めると、主人公が戦略に加わる契機となった劇場テロ作戦も既に戦略の一部であることが解る。或いは、路上でのケースの引き渡しに出て来る自動車が実は別の時間軸からやってきた自分の運転するものであったり、エリザベスが見るクルーザーから飛び込む女性が彼女自身なのだ。
 この手のアイデアは、パラレル・ワールドものなどで頻出するので初めてとは言えないものの、見せ方が巧い。

最初の場面が既に戦略の一部であったことを考えれば円環する物語と考えて良いわけで、 “戻れない作戦” というのは実際にはその円環する時間の流れから外に出られないということを意味するのではないか?

絵的には、時間の順行と逆行が同時に存在するショット群が面白い。こんな芸当が比較的容易に完璧にできるのもコンピューターが映画に利用できる時代だからである。

TENETが回文であるのも、時間の順行・逆行を意味するデス。

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この記事へのコメント

2021年06月26日 09:54
わけわからなくて年間ワーストにしました。といっても昨年は映画館で12本しか見ていないので12位ですが。
わからなくても面白いものもありますが、つまらなかったので、喜んでワースト。
やはり論理的なアタマをどこかに置き忘れたようです。
オカピー
2021年06月26日 22:36
ボーさん、こんにちは。

>わからなくても面白いものもありますが、つまらなかったので、喜んでワースト。

理系的な理屈によく解らないところが少なくないのですが、二つの時系列を合わせ鏡のようにして娯楽的な映画を作ろうという狙いは掴みやすい。
 僕は、大半のアメコミの映画版より面白く見られました。理系的な理解の決定な不足の為に、最後のクライマックスにサスペンスを余り感じられなかったのが残念でしたが。