映画評「女吸血鬼」

☆☆★(5点/10点満点中)
1959年日本映画 監督・中川信夫
ネタバレあり

タイトルは客寄せの為のインチキで、女吸血鬼なるものは出て来ない。女性の血だけを吸う偏った吸血鬼(西洋のものも何故か圧倒的に女性が吸われる)が出て来るだけである。

新聞記者の和田桂之助が婚約者の池内淳子の誕生日祝いの為に、その父親たる科学者中村虎彦の豪邸にタクシーで向う途中若い女性を轢いたと思いきや、車の下や周辺に女性はいず、あろうことかその女性が豪邸の中にも現れる。20年前に長崎で拉致された妻・三原葉子が年を取らずに現れたのである。しかし、彼女は昏睡した後なかなか覚醒しない。
 後日、美術館で婚約者たちはその母親そっくりの女性を描いた作者不明の肖像画が特選に選ばれたことを知り驚くが、さらに驚いたことにその絵は盗まれて屋敷に届けられ、覚醒してその絵を見た若いままの母親は慄く。
 ホテルでは従業員が殺される。犯人は月に弱い日本流の吸血鬼・天地茂で、その正体は350年前に島原の乱で滅びた天草四郎の娘(三原葉子二役)の血を呑んで吸血鬼となり不死身化した家臣である。そんな理由で姫を追い求める彼は姫の血を引く科学者の妻を拉致したわけだが、彼女は20年間逃げ出す機会を狙っていたという次第。
 しかし、再び拉致された彼女即ち婚約者の母を探すべく、別事件の窃盗犯の証言をヒントに、記者は婚約者を連れて警察と共に長崎の山地へ急行する。

大体こんなお話で、吸血鬼が日光ではなく月光に弱いという新鮮と言うか珍なるアイデアで、しかし、弱いと言っても狼男ならで吸血鬼に変身するだけで滅びるわけではない。彼自身が吸血鬼に変身したくないというだけである。
 科学者の妻は不老になったわけだから吸血鬼化したのだろうが、それ以外は人間と何も変わらない。とにかく、これもまた珍なるご都合主義と言うべし。女吸血鬼は出て来ないと言ったものの、彼女こそ名目上は女吸血鬼にほかならない。

全体的には、異形の者や怪奇現象を色々と繰り出すなど江戸川乱歩の怪奇小説群に似ていて、正にエロ・グロ・ナンセンスの世界である。
 終盤には記者と天草残党一族との対決というアクションが待っている。しかるに、これが相当珍妙で、些か頼りなさそうな小柄な記者が異形の者たちより強いのも首を傾げさせる。それを考えると、拠点の山に記者が警察と一緒に向うという設定にするくらいなら、最初から彼をもう少しがっちりした刑事にしたほうが良かったのではないか。

基本的には疑問百出のテキトーなお話に過ぎないが、それでも監督が中川信夫だけに画面がしっかりしていて見応えあり、それ以上に黒沢治安による美術が優れている。

配役では、天地茂の色気を見るべきであろう。

指摘される方がちらほらいらっしゃるように、本作はホラー(恐怖)映画と言うより、怪奇映画である。 Wikipedia は怪奇映画がホラーと呼ばれるようになったと書いているが、僕の記憶では違う。昔【スクリーン】誌で公開映画をジャンル分けしてい、恐怖映画と怪奇映画がきっちり分けられ併存していた。恐怖映画がホラー映画と呼ばれるようになった時に怪奇映画は吸収されたのだと思う。

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この記事へのコメント

2021年06月25日 17:18
>恐怖映画と怪奇映画がきっちり分けられ併存していた

ああ、そうだったですね、ホラーというカタカナ語が一般化するまでは。
怪奇映画とかSF映画とか、昔だとはっきりとお子様向けで、でも私は今でもお子様ランチたまに食べるとけっこういいねみたいに楽しめますが、ああいうのをおもしろがるということ自体が廃れたような気がします。

ホラーだと、最低限ショック保証みたいなところはあるんですね。でも、そこが無粋というか、野暮天を増やしたんじゃないかと思ったり。
オカピー
2021年06月25日 22:02
nesskoさん、こんにちは。

>怪奇映画とかSF映画とか、昔だとはっきりとお子様向け

だから、お金もかかっていなかった(笑)

>ああいうのをおもしろがるということ自体が廃れたような気がします。

多分メジャー映画になったんですね。
SFは「2001年宇宙の旅」と「猿の惑星」でメジャーに昇格しました。
ホラーは解らない。但し、人気ジャンルになったのは「13日の金曜日」によってですね。1980年頃ですから、まだ恐怖映画と言っていたかな。

>ホラーだと、最低限ショック保証みたいなところはあるんですね。
>でも、そこが無粋というか、野暮天を増やしたんじゃないかと思ったり。

そうかもしれないですね。
必ずしも怖くなくて良い怪奇映画が、ジャンルとして衰退した理由がそこにあるかもですね。