映画評「私の知らないわたしの素顔」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年フランス=ベルギー合作映画 監督サフィ・ネブー
ネタバレあり

中年シングルマザーの孤独な心理をなりすましができるネットを手段に描き出した心理サスペンスである。

前半はサスペンス性は殆どなく、二人の男児の母親である文学・文学史の教授クレール(ジュリエット・ビノシュ)が、年の離れた恋人に捨てられ、やがてその男性の家に間借りしている写真家アレックス(フランソワ・シビル)にアプローチを敢行、SNSで24歳の美人クララのふりをする、その心理を描いている。
 セラピストのカトリーヌ(ニコール・ガルシア)に語るという形式で進行し、途中で当然ポートレイト(写真の女性はマリー=アンジュ・カスタ)を要求されたり、彼が勝手に彼女の住む町まで逢いにやって来るなどしてサスペンスが生れるが、これは観客ではなく、ヒロインに生じるサスペンスである。

女優もしているらしい作家カミーユ・ローランによる原作小説はミステリーに分類される内容らしく、それらしくなるのは後半クララに夢中になる余りアレックスが自殺をしたと判明してからである。

自責の念にかられるクレールが駅ですれ違った時に別の行動を取ったという仮定により書かれた小説もどきを書き、彼と情熱的な関係を築いた末にヒロインたる彼女が自動車事故で死んでしまうというお話にして、自らを懲罰する。
 それだけなら仮定のお話だから大したことはないが、仮定のお話の中の自分まで悲劇的に扱う必要はないのではないかというセラピストに対し、彼女がクララ用に選んだ女性の謎について打ち明ける。

この事実をずっと秘めていたことにより彼女の孤独がぐっと浮かび上がるという作劇になっている。写真の女性が誰かということに未見の方が想像する以上にミステリー(的犯罪)性が潜んでいるところがなかなか面白い。

カトリーヌの尽力の甲斐あって療養所からめでたく退院したヒロインにとってはハッピーエンドである幕切れは両義的であり、人によってはぞっとするのではないだろうか。敢えてそこを恐怖的にせず、両義的に解釈できる程度に留めたのは賢明なのかもしれない。

”私”と”わたし”とに分けたのは評価に値するアイデア。最近の邦題のなかのグッド・ジョブと思う。

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