映画評「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2020年日本映画 監督・豊島圭介
ネタバレあり

昨年は三島由紀夫没後50年なのでもっと騒がれるかと思ったが、それほどでもなかったような気がする。しかし、こんな映画も紹介されていたのだ。【キネマ旬報】の文化映画ベスト10に選出されていたので題名は知っていた。プライムビデオ無料枠にあると、常連の浅野佑都さんが紹介してくれたので、早速観ましたデス。

僕は学生運動には大分遅れた世代であるし、60年前に言われたのとは少し違う意味でノンポリで、リアルタイムの政治の本は読まないから、学生運動のことは殆ど語れない。

1969年5月に東大の全共闘が右翼の代表的言論人として当代一の実力派作家三島由紀夫を呼んで討論を行った。一触即発かと思いきや、三島が単細胞な右翼ではなく、ユーモア精神を発揮して彼らの言論を受容するように応答したことから、意外なほど和やかに終始するのである。

僕らは、52年前にあの席にいた諸氏と違って、この18か月後に三島が自決することを知っている為、もっと複雑な心境でその言動を見守ることになる。
 個人的には、どちらかと言えば、超一流の文学者としての三島に興味があるので、本作にインタビュイーとして登場する作家平野啓一郎に近い立場で見たと思う。
 三島由紀夫ほどの才能はそうそういないので、あのような形で世を去ったのは日本文学の大損失であったとずっと思ってきたが、最近は彼の人生という作品の仕上げにはあの死に方しかなかったのだ、と何とか思えるようになってきた。この作品からではなく、この映画以前に色々と見聞きした平野氏の三島論の影響ではないかと思う。

余分な説明やインタビューは要らないから討論を全部見せるべきだという否定的な意見があるが、いくら商業映画ではなく文化映画としてでもそれは余りにニッチである。それは映画でなく別の機会を(に)求めるべきだ。討論の前に序説的な解説か入る作り方から推して、本作がターゲットにしているのは初心者か中級者にぎりぎり入れるかどうかという人々であろう。

全共闘の連中に対する頭が悪いという意見にも少々反発を覚える。こうした意見を放つ人々は反共的な右派に近い立場の人が多いと推測するが、ニ十歳前後の経験の浅い彼らだけに経験豊富な三島に比べて稚拙な部分はあるとしても、やはり優秀な人材であると思う。
 映画が紹介する限りにおいて討論会で一番活躍するのは当時から演劇の人であった芥正彦で、三島に色々と突っ込む。赤ん坊を抱えながら話すのがユニークで非常に面白い。彼の言葉が借り物であると批判する人がいるが、借り物であろうとなかろうと、三島の反論に間髪を入れず突っ込み返すのは、その根拠や論拠となっているものをしっかり理解していないと為せるわざではない。哲学的思考を普段から行っていないとできるものではない。それに対して三島が黙るところがあるのは、必ずしも相手に屈したということではないと思うが、それなりに三島を感心させるところもあったのではないか?

だから、三島は全共闘全体に対し”熱”という点で共通するものがあると言うことで総括、会場を去るのではあるまいか。

幕末を主題にした映画特に「竜馬暗殺」のような作品を観ると、この時代の学生運動を想起する。逆に、この映画を観て維新を想起した瞬間もある。三島と全共闘は反米即ち攘夷というところで一致していたからだ。 

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

浅野佑都
2021年06月12日 16:11
 これはまさに、ドキュメンタリー映像でなく、編集のストーリーテリングの巧みさも含めて1本の作品としてよくできていると思い、ご紹介しました・・。

討論会前は、「三島を壇上で論破し、立ち往生させ切腹だ!」と全共闘は息まき、三島側は警察の警備を断るも、(自衛隊で実弾訓練も受けた)縦の会メンバーがボディガードとして会場に潜伏するという物々しさだったようです・・。

>三島と全共闘は反米即ち攘夷というところで一致

序盤こそ対立構造に注視しているけれども、その後は、共通項である「あいまいで卑猥な日本国(作中の芥談)」と対立する全共闘と三島由紀夫、という構図が浮き彫りになり、実は考えている部分は近いものであった、というような落とし所にしているのが、巧かったと思います。
最終的には全共闘側からの共闘の誘いに対し、三島が「甘美的だけれども拒否します」というユーモアある回答でオチを付ける、というのもドラマ的で実に面白かったですね!

 実際の映像は壇上を映すのみですが、絵的な面白さが随所に入ってくるのも良い。
最初に聴講していた芥が、急に話に割って入るのも意外性があったし、「三島を殴りに来た」と野次を飛ばして壇上に上がってくる学生のシーンでは、急に色収差が乱れた画面になるのは偶然でしょうが、妙に演出チックでした(笑)

三島は、この当時好んで着用していた半袖Tシャツ一枚になり、鍛え上げた上腕で煙草をくゆらせる・・対する全共闘きっての論客、芥氏は(これもテレビ局側の演出か、本人のファッションでしょうが)実子を小脇に抱えて応戦。
シーンごとで全共闘側の論客が変わるのも、三島由紀夫が高倉健さながら、切った張ったで戦っているように見えてくる。

芥正彦には、助演男優賞をあげたいですね(笑)最初は嚙み合っていたように見えた時間と空間論や、
三島由紀夫とお互いに煙草を分けたけれど、自分が一本多く貰ってしまったことに対して、現在の70歳を過ぎた芥が「ヤツに借りがある」と言うくだりとか、監督の「全共闘は敗北したのか?」の質問に対し「あなたのいる日本には俺は存在しない(だから負けたことにならない)」と、青臭く負け惜しみを言うのにも・・。

全共闘の小坂修平(故人)が、天皇論を振ったときに「待ってました」とばかり三島が持論をぶち、例の「朕はたらふく食っている 汝臣民飢えて死ね・・御名御璽」に対しては、「そんな単純な天皇なら革命はラクなもんだ!」と切り捨て聴衆も思わず拍手でした・・。

総じて、三島の人間的魅力にあふれた佇まいに僕は感動しました・・。その、ただそこに居るだけで周囲に感じさせてしまう圧倒的な存在感を「(わざと)作ってる」と自分で言ってしまう親しみやすさ。
三島由紀夫から感じる寛容さがなければ、ラストシーンの全共闘側からのラブコールもまるで説得力がなくなってしまうわけですからね。
モカ
2021年06月12日 17:30
こんにちは。

このTBSが50年近く寝かせていた映像は何年か前から部分的にはTVで紹介されていたので知ってはいましたが、全部通して見るのはしんどかった~! 若かりし日の芥氏は忌野清志郎の若い頃みたいで可愛いけど、何を言っているのやらちんぷんかんぷんでした。

ここに登場する元東大全共闘という人達は一体どういう立ち位置にいた人達なんでしょう? この討論会が5月という事は4か月前に安田講堂は陥落していて東大全共闘の主要メンバーは逮捕されたか潜伏していたわけで、こんなTVカメラの前に出てきて面を晒しているという事はどういうこっちゃ?と思いました。
野次馬か三島への知的好奇心からの人が大半なのでは? 

三島が彼らのいで立ちを大掃除の手伝いと揶揄しているのが面白かったです。(私に理解できるのはこのレベル止まりです。)
あのタオルは確か催涙弾と公安対策でしたか。
そういえば70年代末くらいまでアパートローラー作戦というのがありましたね。

天皇について言及した学生の前歯が折れて?なかったのがリアルでしたね。機動隊か内ゲバで前歯を折られたという話は当時時々耳にしました。 「デモに行ったら前歯を折られた」
モカ
2021年06月12日 17:46
〆を書く前に送信してしまいました。

三島の言葉で印象的だったのが「行動の無効性」「そういう意味では君たちも僕も五十歩百歩」
翌年の決起は行動の無効性、もっと有り体に言えば観念に従って行動する事の滑稽さ? を百も承知で行ったのだな・・と思いました。
瀬戸内晴美が得度したように三島もああするしかなかったように思います。

何かで読みましたが近田春夫がレコード会社だったかで三島を見かけた時の印象から「ロック化する世界(日本だったか?)が我慢できなかったのか?」みたいに書いていて「なるほど、そうかもね」と納得したことがありました。
オカピー
2021年06月12日 22:10
浅野佑都さん、こんにちは。

ドキュメンタリーは映画の作りというより内容に傾きがちなので、評を書くのに難儀するジャンル。
 その意味で、浅野さんのコメントのほうが余程“映画評”でして、お株を取られました(獲られるほどの株は持っていませんが)。

これと似た構図に、田原総一朗が右翼と会合をもった“事件”がありますね。田原氏は、あの事件も、意外に、最後には結構意気投合しさえもしたと述懐していますね。

>「あいまいで卑猥な日本国(作中の芥談)」

三島の言う“反米”と同じ意味ですね。

>三島由紀夫が高倉健さながら、切った張ったで戦っているように見えてくる。

僕も、返した刀で云々という文章を考えましたよ。返した刀と丁々発止は意味が違うので途中で止めましたが。

>青臭く負け惜しみを言うのにも・・。

確信犯的な負け惜しみでした。
演劇畑の人で演技の実績もあるので、助演賞は正にふさわしいですね。

>三島の人間的魅力にあふれた佇まいに僕は感動しました・・。

そうですね。非常に魅力的でした。
昭和らしい日本語も良い。
また、学生たちが現代の人より皆早口なのが印象的でした。
オカピー
2021年06月12日 22:45
モカさん、こんにちは。

>何を言っているのやらちんぷんかんぷんでした。

殆どが形而上学でしたから、難しいですね。
ああいう連中が映画評を書いているのが“カイエ・デュ・シネマ”。やってられませんよ(笑)。

>ここに登場する元東大全共闘という人達は一体どういう立ち位置にいた人達なんでしょう?
>野次馬か三島への知的好奇心からの人が大半なのでは?

司会や発言をした人はそれなりに核にいた人物ではないかと思いますが、他の出席者は仰る通りかもしれませんね。

>天皇について言及した学生の前歯が折れて?なかったのがリアルでしたね

そうでしたね。
その後義歯をいれたに違いありません(笑)

>翌年の決起は行動の無効性、もっと有り体に言えば観念に従って
>行動する事の滑稽さ? を百も承知で行ったのだな・・と思いました。

なるほど。そうかもしれません。

三島が戦後に馴染もうと自らを変えようとしていた「金閣寺」の頃とスタンスを変え、日本社会をそれ以前の日本に戻そうとしていたとは言え、最後は「金閣寺」の主人公と同じような道を歩んだようにも思えます。

>近田春夫

懐かしい名前。大学時代にラジオでパーソナリティをやっていたのを聞いていましたが。ふーん、そんな洒落たことを^^
それほど聴いたわけでもないけれど、彼の音楽はピンと来ませんでした。