映画評「アリバイなき男」

☆★(3点/10点満点中)
1952年アメリカ映画 監督フィル・カールスン
ネタバレあり

IMDbでの平均点は7.4と、信じがたい高評価を得ているが、この映画は特にお話が良くないだろうと思う。

発端はクェンティン・タランティーノの「レザボア・ドッグス」(1992年)に影響を与えたような感じで、なかなか好調。
 即ち、正体不明の中年男プレスタン・フォスターが、犯罪歴のある三人の男ジャック・イーラム、リー・ヴァン・クリーフ、ネヴィル・ブランドを、その弱みを握って一人一人呼びつけ、マスクを被った状態で相手を脅迫、銀行の現金輸送車を襲わせる計画に強引に参加させる。実行の当日には全員がマスクを被っているので、互いを知らず、実行犯の一人が逮捕された時の予防線を張るのである。

フォスターが銀行の前にあるホテルに陣取って、輸送車の様子を時計で測る前段も面白く、この調子で行ってくれたら、スタンリー・キューブリック監督「現金に体を張れ」(1956年)のような本当の秀作になったと思う。

目撃者証言から、犯行に使われたと思われる車を運転した花屋の運転手ジョン・ペインが逮捕される。警察の厳しい取り調べに堪えるうちに本当の車が発見された為に釈放されるが、前科がある上に冤罪で仕事も奪われたペイン氏としては憤懣やる方なく犯人一味の鼻をあかしてやろうと考え、(多分服役中に知り合ったと思われる)友人たちを恃むことにする。
 かくして彼らからもたらされた情報を基に、実行犯三人の一人イーラムが向かったらしいメキシコの町を訪れ、賭け好きの旅行者を装って接近したイーラムを脅して集合場所の情報を得る。
 都合良く(!)イーラムは警察に射殺され、ペイン氏は彼の名前を騙って集合場所へ赴く。

ペインが動き出してから疑問百出である。
 まず、前科者が冤罪で仕事を失って困るのは生活と社会復帰であるというのが現代的感覚であろう。しかるに、ペイン氏はどこで得たのか、メキシコでイーラムを探す為にお金を湯水のように使うのである。貯金していたか、友人たちが与えてくれたのか解らないが、そんな大金があれば、強盗犯に接近するより生活をしながら仕事を探すというのが、生活感情を伴うお話というものである。

僕はそれが気になってこの後一向に楽しめなかったのであるが、しかし、それでは後が続かないので、そこを一歩譲ることにして次のもっと大きな疑問を提示したい。
 即ち、イーラムの名前を騙れば、三人を集めた主犯に知られ(復讐計画を失敗に帰し)てしまうのは必定で、ペイン氏は頭が良いようでかなり抜けている。主犯の見た目と違う目的の為に結果的に上手く行くだけで、こんな出鱈目な計画はありえない。これをもって本作のジャンル映画としての作品価値は極めて低くなったと言うべし。

主犯は実は盗んだ大金ではなく、実行犯を密告して賞金を得ようという作戦らしい。主犯の計画だけはなかなか良く出来ているが、前述通りペイン氏は行動原理にもとる行動を取って甚だ妙ちくりんだし、クリーフとブランドは周辺をうろちょろしているだけで実に間が抜けている為、甚だ興醒める。

実行犯三人が後年バイブレーヤーとして人気を得る顔ぶれなのが、映画ファンとしては一応魅力ではある。お話の紹介で触れなかったので、コリーン・グレイという1950年代に活躍した女優が助演していることを述べておきます。彼女は「現金に体を張れ」にも出演している。

【カイエ・デュ・シネマ】辺りの影響からか、映画サイトの投票では、フィルムノワールというだけで高評価を得る風潮がある。しかし、お話に致命的欠陥のあるこの映画を褒めてはいけないよ。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント

2021年05月26日 14:03
>【カイエ・デュ・シネマ】辺りの影響

これはあるみたいですね。
私は映画ファンといっても「スクリーン」「ロードショー」などのファン向けの雑誌や本でいろいろ知って、という洋画ファンだったので自分とはちがうのですが、映画ライターなんかに時々いますね。
カイエ・デュ・シネマ、アメリカでは大衆娯楽として消費されていたようなジャンルの映画をあらためて評価しなおす、というのは意義があったでしょうが、フランスの場合、自国ではなかなか見られないような低俗さを妙に珍重して見当はずれなことを言ったりもしているので注意が必要です。
そういうところもおもしろいというか、フランスのインテリ男の癖としておもしろがればいいんでしょうけどね。
むしろ、あんな映画観てこんな文章書けるなんて、フランスのインテリすごい! というべきなのかな。
オカピー
2021年05月26日 21:04
nesskoさん、こんにちは。

>フランスの場合、自国ではなかなか見られないような低俗さを妙に
>珍重して見当はずれなことを言ったりもしているので注意が必要です。

淀川さんが“スクリーン”で、批評家(淀川さんは評論家はいないと言っていたような気がします)の中に、敢えて褒めなくても良いような作品を褒める連中がいる、と言っていましたが、多分この手の人々のことでしょう。

>あんな映画観てこんな文章書けるなんて、フランスのインテリすごい!
>というべきなのかな。

しばしばそう思います。
まあ、僕は、お経みたいな文章と揶揄っていますが(笑)
モカ
2021年06月08日 16:17
こんにちは。

先生! 3点とは厳しすぎやしませんかぁ? 赤点ですやん?
落第しますがな。追試なしですか? (優等生だったオカピー先生には赤点の怖さがわからないんだわ・・・)

これはフィルムノワールなんて気取ったモンじゃないでしょう。
ご都合主義だし場違いな美女を絡めてくるし、子供の頃によくテレビでみたアメリカ製ドラマのB級感満載でした。
タランティーノ少年も面白がって観ていたんだと思いますよ。

招集された3人の小悪党も漫画的悪党の面構えの弱っちい奴らで、2往復ビンタで倒れるって、どんだけ弱いねん? 吉本新喜劇か? と思いましたけど・・・せめて5点にして及第させてあげましょうよ。

これは「幻の女」目的で買った「サスペンス映画コレクション」という10枚で¥1800 のセットに入っていたのに「幻の女」以外観ていませんでした。
「幻の女」はやはり原作が良い分映画はイマイチで、そういう意味では本作のほうが良くも悪くも面白かったです。
あと9作品を観なければ・・・フランス語の課題もあるし・・
急に蒸し暑くなって弱ってます。こういう時期にワクチン注射をするべきか迷いますね。

オカピー
2021年06月08日 21:53
モカさん、こんにちは。

>3点とは厳しすぎやしませんかぁ? 赤点ですやん?

赤点ですね(笑)。
 僕は、科学的に間違っていてもさほど問題にしない一方、行動心理学的に、或いは行動原理(最近はこちらを多用)としておかしいと思われる映画は認めないんですよ。ジャンルを問わず、人間の出て来る映画はこれが基本です。えっへん(笑)。

>これはフィルムノワールなんて気取ったモンじゃないでしょう。

狭義のフィルム・ノワールには入れられないでしょうが、低予算で作られた犯罪映画を指す広義のフィルム・ノワールではありましょう。本作に似ている「現金に体を張れ」が典型的なフィルム・ノワールとされているようですので、当たらずと雖も遠からずでは?
 多分カイエ・デュ・シネマはこの辺りも含めて論じていると思います。

>タランティーノ少年も面白がって観ていたんだと思いますよ。

カイエ・デュ・シネマが必要以上に褒めてシネフィルに定着したフィルム・ノワールに対する評価に、タランティーノが好きだということが加わって、この作品など実力以上の高得点を得ているのでしょう。
 タランティーノ自体が過大評価されていると思っている口ですからねえ、僕は。

>せめて5点にして及第させてあげましょうよ。

以上総合的に考慮して、4点かな。追試(再鑑賞)したら更に下がってしまうかもしれないので、止めましょう(笑)

>これは「幻の女」目的で買った「サスペンス映画コレクション」

なかなか良い作品が入っていて、全部観ています。
個人的に偏愛しているのは「街の野獣」。

>「幻の女」はやはり原作が良い分映画はイマイチ

僕も全く同じように感じました。しかし、映画的にもっとしっかりしていた記憶はありますよん。