映画評「その壁を砕け」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1959年日本映画 監督・中平康
ネタバレあり

ご贔屓・中平康監督の倒叙ミステリー。
 脚本は新藤兼人、撮影は姫田真砂久、音楽は伊福部昭。オールスター・キャストならぬオールスター・スタッフである。

車修理工の小高雄二が3年かけて溜めた20万円で買った車を駆って、結婚することを誓った恋人・芦川いづみの待つ新潟市に向かう。途中で自分と同じ位の年齢の男・沢井保男を乗せ、何もない橋のそばで降ろす。暫く進んで小さな村に入るや否や警官に捕えられる。20分ほど前に起きた一家の強盗殺人容疑である。

という発端はフリッツ・ラングが渡米後作った「激怒」(1936年)に似ている。新藤兼人が観ていた可能性が高い。

後半、恋人の無実を強く信じるいづみちゃんの思いは芦田伸介弁護士を、そして彼と共に料理店で働き始めた彼女を見た容疑者逮捕の功績で警官から刑事に昇進したばかりの長門裕之を動かす。
 長門新米刑事は、小高が拾った男を降ろしたという橋に行くと若い男が何かを持って出て来るのに気付き、自転車でバスを追いかけ、彼の乗った電車に駆け込んで追跡する。
 ところが、その逃げ込んだ部屋に入ると男は殺されている。彼が盗まれた金額と同じ15万円を持っていたことが判明する。しかし、検察や警察重職は誤認逮捕となるのを嫌って起訴の方針を変えない。これを変えるのが、遂に始まった審理における裁判所(信欣三ほか)の判断で、詳細に渡る実地検証が状況を劇的に変えていく。

劇の構成がなかなか緻密で上出来と言いたいのだが、いかに60年前の警察とは雖も、初動が相当お粗末すぎるのが興ざめる。警察は、医者が起こすことすら懸念する意識朦朧の重傷被害者による犯人特定に頼るのだ。エドガー・アラン・ポーが「モルグ街の殺人」で指摘したように、健康状態にある目撃者の証言さえ当てにならないことが多そうなのに・・・である。しかも、実地検証でそれよりもっとひどいことが判明する。

これで主人公の無罪放免はほぼ決まりだが、一見関係のない隣の家に住む長男の未亡人ですぐに再婚する渡辺美佐子がもっと重要な証言をする。ミステリーとしてはかなり強引な設定なのであるが、事件証言に愛欲を絡めたところに新藤兼人らしさがあるような気がする。

画面的には、主人公が自動車を駆る序盤の一連の場面が素晴らしく、就中(なかんずく)まだタイトルバックにおける、主観と思われたカメラがぐるり回って走る車を前から捉えるところが圧巻。

幕切れについて。警察関係者が雁首を揃えて何もなかったように、主人公と婚約者を見送るが、現在ならこれでは済まない。この時代であっても少し能天気すぎるかもしれませんな。

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