映画評「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年ウルグアイ=アルゼンチン=セルビア合作映画 監督エミール・クストリッツァ
ネタバレあり

アメリカや日本には共産主義に悪いイメージを持っている人が多い。 “持てる人” がそうなるのは解るが、貧民にも割合多いのは、一方で戦前の教育と、それを引きずって必要以上に左翼を監視する戦後の体制があり、一方で共産主義かぶれの過激派の暴力的傾向、ソ連や中国における圧政の悪い印象があるからであろう。

共産主義もその理想は悪いものではない。しかし、共産主義即ちプロレタリア社会主義は、その目標を達成するまでは統制的・全体主義的にならざるを得ず、為に独裁的になり、一度権力を握った限られた人々は権力にしがみついて圧政となり、中国やかつてのソ連・東欧のようなことが起きる。

翻って、現在、世界の先進国は、多かれ少なかれ資本主義体制下の(広義の)社会主義国みたいなものである。いずれの国にも、程度の差こそあれ、セーフティネットがある。
 中国の「管子」(大半は300年後くらいのものだが一番古いものは2600年くらい前に書かれたと思われる)を読むと、現在のセーフティネットも顔向けの主張が為されている。19世紀後半ヴィルヘルム1世統治下のビスマルクの社会保障政策よりさらに徹底した君主制社会主義とでも言いたくなるものである。
 君主制社会主義は勿論、プロレタリアート社会主義(即ち共産主義)とは全然違う。民心が離れないように国民に飴を与える手法であるからである。しかし、本作の主人公ホセ・ムヒカが5年間大統領として治めたウルグアイは極めて民主的な純社会主義国に近い共和国と言って良いのではないか。

これからの世界はウルグアイのような国家を目指すと良い。僕は資本主義を否定しないが、余り新自由主義的になって経済格差が広がると、税収・GNP等で損を蒙るのは国家であると政治家・高級官僚は気付くべきである。中間所得層が大きく減れば国は傾く。

ムヒカは為政者は庶民と同じ生活をすべきであると言う。世界の為政者が彼のような人生観・為政者観を持てれば、現在ミャンマーで、中国で、ロシアその他の国で起きている民衆への弾圧はなくなる。
 ジョン・レノンの「イマジン」を引用するまでもなく、人間に欲がなくなれば国境も消え去る(「イマジン」の歌詞を僕はこう理解する)。中国が尖閣諸島やウイグルに拘るのもそこに埋まっている資源を国家として得たいという欲の為である。結果的に平和も訪れる。欲こそ人間の敵でありましょう。

このドキュメンタリーはエミール・クストリッツァが作ったというだけで興味をそそられるが、尺が短く(74分)一夜漬けの感あり、映画的に特に際立ったところはないと思われる。但し、再現場面として撮られたにちがいない部分の、コスタ=ガブラスの政治映画を彷彿とする緊張感溢れるタッチは素晴らしい。

内容的に注目されるのは、あの穏やかに見えるムヒカに過激な活動家時代があったという事実。テロリストや過激な活動家にも色々あり、例えば今回のミャンマーのデモ参加者も、国軍側から見ればテロリストみたいなものであり、テロリスト(と呼ばれる人々)もそうせざるを得ない状況に追い込まれた人々である場合が少なくないと思う。
 ムヒカやその仲間たちはその類で、彼が言う“時に悪は善であり、善が悪にもなる”はそれを指すと僕は考える。テロリストや活動家と聞いて必ずしも目を吊り上げる必要はないのでござる。

経済格差が極限まで行くと、振り子の原理で修正されると思っていたが、人間の労力がロボットやAIに置換されると、振り子の原理が働かなくなる可能性があると最近気づいた。

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