映画評「悪人伝」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2019年韓国=アメリカ合作映画 監督イ・ウォンテ
ネタバレあり

韓国映画は映画論的にはなっていない(洗練度が低い)ものが多いのだが、皮肉なことにそこに日本あるいは世界の大衆に買われる理由がある。
 例えば、韓国映画ではギャグとシリアスさが同じ作品に同居する。それらが適度にちらばっているのであれば、そういう性格の映画とみなすことが出来るが、大半の韓国映画は前半が喜劇的で後半が悲劇的あるいはシリアスという水と油のような作りが多く、こういうのは、昔からの演劇観・映画観では性格がはっきりしない作品と言って下(げ)と見なされる。日本に輸入される映画に限って言えば「猟奇的な彼女」以降その傾向が激しくなってきたように思う。
 好意的に取る人はかかる振幅に価値を見出すが、古くからの演劇・映画観を大事にする人は互いに相殺してしまうと考える。この落差は実に大きい。後者が正論なのは明らかであるが、足りないところがあることが韓国映画固有のパワーに感じられる主因と僕は理解する。正攻法に綺麗なだけな絵よりピカソやゴッホの絵が魅力的に見えるのに通じようか(同じとは言えない)。実際、僕も韓国映画の創造性とパワーについては一目置いている。以下暫し梗概。

刺殺事件が続発する。犯人は車を衝突させては降りて来た人物を刺すのである。ある時兄弟組織と一触即発的な暴力団の親分マ・ドンソクがこの手を食らう。しかし、鍛えている彼は刺されながらも反攻に転じ、犯人は逃げて行く。
 以前から同一犯の犯行と睨む直情径行の刑事(韓国映画でそうでない刑事を見る方が珍しい)キム・ムヨルは、親分の車を見て確信を持ち、脅したりすかしたりして親分と犯人探しに一致協力する。犯人と車を見た親分はそれに関連する情報を色々と与える一方、警察の科学力を利用するのだ。
 一致協力とは言うものの、着地点は違う。刑事は法により死刑(と言っても韓国は死刑を執行しない期間が長く、事実上の終身刑となる)を、親分はリンチによる復讐を目指すのである。

創造性という意味では、刑事と暴力団の協力という点が上げられる。欧米や日本の作品にもないことはないが、大概 “そちも悪よのう” というお互いが悪を栄えさせる為に協力し合う構図で終わる場合が多い。そうでなければ(刑事側から見れば)必要悪としての取引である。
 本作は後者に属する。その枠において、協力関係を発生させるサイコパスをうまく配置し、犯人を捕縛する直前までは協力するも、そこからまた対立関係になる、という辺りがひねりと言うべし。

その後もこの関係は色々と様相を変え、結果として犯人・刑事・ヤクザの三者を通して善悪の問題を提示し、面白味の増幅に寄与している。娯楽映画として見せる上での要素に過ぎないので、そこを過剰に評価するには及ばない。

この映画も韓国製らしく喜劇的に見えるところがままあるが、トーンを崩すような感じになっていないのがよろし。日本人のように感情を内に秘めない韓国人の表情や言動が時に極端になるので、笑わせるつもりがなくても笑ってしまうことが多く、日本人には狙いなのか否か区別が付きにくい。

WOWOWはすっかり1980年代もしくはそれ以前の映画(つまり真の映画ファン)に冷たくなっている。NHKは古い映画をそれなりの数で放映するが、95%は既にライブラリーにあって今一つである。かくして最近古い映画はプライムビデオに頼ることになった。できればもっと無償作品が増えると良いのだが。

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