映画評「とうもろこしの島」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年ジョージア=ドイツ=フランス=カザフスタン=チェコ=ハンガリー合作映画 監督ギオルギ・オヴァシュヴィリ
ネタバレあり

みかんの丘」をプライムビデオで観た時に、この作品の名前が目に入った。日本では一緒に上映されることが多かったらしいジョージア製ドラマである。「みかんの丘」同様にアブハジア人とジョージア人の紛争を背景にしている。

ジョージアとアブハジアの境を成すエングリ川に中洲があり、そこにアブハジア人の老人イリアス・サルマンがやって来て掘っ立て小屋を作り始める。両親を亡くした思春期初期の孫娘マリアム・ブツリシュヴィリを連れてきて、目的であるとうもろこしの種撒きを始める。雷雨があれば堰止めを作る。時々アブハジア軍人たちの乗るモーターボートが通り過ぎる。
 やがてとうもろこしは実を付けるが、茎と茎の間に老人は負傷したジョージア兵を発見する。まだジョージア兵が傷を癒している最中にアブハジア軍人が酒を飲みに訪れる。本作で一番娯楽的なのは、負傷兵が発見されるかというピンチを迎えるこの部分である

後に今度はジョージア軍人が負傷兵を探しにやって来る。既に彼は去っていたようである。
 そして再び、しかももっと大きな雷雨が発生、氾濫した川はとうもろこしを半分ほど根こそぎにした後掘っ立て小屋を倒壊させる。
 老人は死んだのか、その前にもろこしを積んだボートに乗って去った孫娘は無事だったのか、映画は全く説明しない。水が引いて島がまた現れると、別の人が島を訪れる。

簡単に言えば、こういう円環を見せる物語で、多分に寓意的である。中州に(特に国家に翻弄される)貧民の立場を、水の威力に厳しい一生を寓意させているような印象を覚える。

開巻後20分になって漸く最初の台詞が吐かれる。その後も台詞は最小限に留められ営々と働く二人をひたすら見つめ続ける。言わば生活詩である。
 新藤兼人が台詞を一切排して農民一家が黙々と働く姿を捉え続けた「裸の島」(1960年)にかなり近い境地の作品と思う。違うのは背景に紛争があることで、「みかんの丘」の老人と同じくこちらの老人も出身民族であるアブハジア人に敵対も味方もせず、ジョージア兵を助ける。作者はそこに国家(組織)と個人の関係を投影する。

映画が国家と個人の関係に言及する時その目的は必ず国家への批判である。戦争が絡めば戦争批判、反戦である。とは言え、この作品は「みかんの丘」ほどにも戦争そのものに言及せず、背景に揺曳させるだけである。

という次第で、画面を見るだけで作者の訴求したいことを正確に指摘するのは難しいが、僕が感じるのは上述したように、貧民の厳しい一生を短い時間に凝縮した生活詩のようなものということ。「みかんの丘」ほど一般的ではないが、詩としての映画の熟度は優るとも劣らない。

タイトルも「みかんの丘」と対になっているデス。

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この記事へのコメント

モカ
2021年03月08日 15:01
こんにちは。

>「みかんの丘」ほど一般的ではないが、詩としての映画の熟度は優るとも劣らない。

  「みかんの丘」は複雑な政治状況をシンプルな物語に凝縮していましたが、こちらはさらにシンプルに言葉までもそぎ落として尚且つ「詩」になっていましたね。 
 あまりに静かで何も起こらない開始後20~30分は眠気との闘いで、珈琲を淹れに立った隙に少女が現れていて慌てました。(笑) 眠かったですが最後まで観たら言葉にならない重い感情が残る不思議な映画でした。

 見ようと思いながら放置していたら先にレビューされたので慌ててアマゾンに走ったらもう ”島” が消えていて(笑)焦りました。 U-NEXTにあったので良かったです。
オカピー
2021年03月08日 20:00
モカさん、こんにちは。

>「詩」になっていましたね。

「みかんの丘」が小説であるなら、こちらは詩という感じがしました。映像詩と言って良いでしょう。

>アマゾンに走ったらもう ”島” が消えていて(笑)焦りました。

そうなんです。2月末までとあったので、慌てて見たのですよ。