映画評「37セカンズ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年日本映画 監督HIKARI
ネタバレあり

生れる時に37秒間呼吸をしなかった為に脳性麻痺になりずっと車いす生活を送る23歳のユマ(佳山明)は、親友の人気漫画家(萩原みのり)のアシスタントをしているが、内実はゴーストライターである。自分の名前で発表したいという夢を持つ彼女は思い切ってアダルト漫画誌に行ってみるが、編集者(板谷由夏)に素質を認められながらも実体験がないとリアルなものは書けないと断られる。
 これに発奮したユマは、過保護が甚だしい母親・恭子(神野三鈴)に黙って風俗街を訪れる。結局男性経験は果たせぬものの、そこで車椅子の男性を相手をしていた風俗嬢・舞(渡辺真起子)と知り合う。彼女は所謂きっぷの良い女性で、障碍者に対し何の偏見もないし、人間関係についても精通している。
 余りに縛られるのを嫌って家を飛び出した彼女は、舞の知人である介護士の俊哉(大東駿介)の家に泊めてもらった後、記憶の全くない別れた父親がいるかもしれない海岸の町へ連れて行ってもらう。ここで出会った中年紳士(尾美としのり)は叔父に当たる人物で、彼女の父親は5年ほど前になくなったと言う。さらに言うには、ユマにはタイで教師をしている双子の姉・祐佳(芋生悠)がいる、と。
 二人はタイに駆け付け、語り合う。色々な物事を見聞きしたユマは精神的に著しく成長して家に帰る。

序盤の展開を見ると、先月の「タッチ・ミー・ノット」に似て障碍者の性について語り、障碍者も他の人と変わらないのですよ、という主張がなされるのかと思ってうんざりしかけたが、渡辺真起子の風俗嬢が出て来てから、障碍は、誤解を恐れずに極論すれば、ツールに過ぎないと思えるようになって来る。

少なくとも僕が本作に見るのは、親離れ・子離れの物語である。その両方の立場を理解するのが中年の風俗嬢で、彼女の多彩な人間関係が結果的にヒロインを素晴らしい冒険(!)旅行に駆り立てるのである。
 発端こそ障碍者であるが故に起こるエピソードが多いのだが、こうした物語は障碍の有無に関係なく起こる。と言いますか(笑)、人間には何か欠けているのが普通であり、だからそれをどう克服するなりそれに負けるなりするドラマが作られるのである。
 障碍者だから、親離れ・子離れを難しくする部分は確かに多いが、それは程度の問題にすぎない。

会うのを怖がったと告白する双子の姉を慰める時、あるいは涙を流す母親に体を寄せる時、あるいは厳しい要求をつきつけた編集者に感謝する時、彼女はもはや弱い人間ではない。ここ数年の日本青春映画の中では類を見ない爽快な後味と言うべし。

相対的に好評のこの映画に対して(障碍者に対して)上から目線という指摘を読んだ。健常者対障碍者という見方をしている時点で既に読み違えていると思う。

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