映画評「下女」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1960年韓国映画 監督キム・ギヨン
ネタバレあり

僕が1970年頃映画を本格的に観始めて以来1986年の「桑の葉」まで韓国映画が正式に日本に輸入された記憶がない(それ以前のことは解らない)。「桑の葉」は官能映画で、一般的な映画は1999年の「八月のクリスマス」「シュリ」辺りまで待つことになる。ここに韓国映画のブームが起き、現在に至る。
 ポン・ジュノの「パラサイト 半地下の家族」に影響を与えたことがよく伺える、1960年製作のこのモノクロ映画も正式には日本で公開されていないと思う。韓国では(韓国)映画史上ベスト1と言われることが多く、監督のキム・ギヨンは大巨匠に位置づけられるらしい。

紡績会社音楽部を指導する作曲家キム・ジンギョは、家を持ちがたっていた妻チュ・スンニョの願いを実現する為にマイ・ホームを建てる。収入を得る必要があり、会社の女工オム・エンナンのピアノの個人指導を引き受ける。足の悪い娘イ・ユリと意地の悪い息子アン・ソンギを抱え、家政婦を必要とするので、彼女の連れて来た妙齢美人イ・ウンシムを採用する。
 その頃彼にラブレターを書いたことを咎められて会社を辞めた女工が自殺する事件が起きたショックで動揺する作曲家にエンナンが激しく迫り、それを見た家政婦が脅迫して無理やり関係を結ぶ。細君の妊娠に続き、彼女も妊娠する。
 その事実を夫に告白された妻はやがて家政婦に堕胎を指示し、故意か偶然か彼女は階段から落ちて流産する。妻が無事に子供を産んだのが面白くない家政婦は子供二人を次々と殺鼠剤で毒殺することで脅迫、まるで主婦であるかのように一家に君臨する。

という調子で進むニューロティック・スリラーで、「サイコ」(1960年)以降の言葉を使えば、サイコパスの女性を家政婦に迎えた夫婦がその為にとんでもない目に遭うと一言でまとめられる。異常心理を描いて相当強烈であると言うべし。
 「パラサイト 半地下の家族」と雇い主家族の構成が全く同じで、外部の人間が家族の生活を破壊する、という構図はそのまま。

モノクロ映画で窓を通して家の内外を何度か出入りするカメラを始め、飲み物を持って階段を上がる「断崖」(1941年)を意識していると思われるショットなど、ニューロティック・スリラーの先駆者アルフレッド・ヒッチコックを勉強しているように感じられる画面が多い。

劇的に最も効果を上げているのが、殺鼠剤の置かれた食器棚の奥から食器などを取り出す人を写す手法で、ヒッチコック映画よろしく殺鼠剤があることを事前に知っている観客は、このアングルで見せられる度に否応なく殺鼠剤の存在を思い起こさせられ、サスペンスを感じる次第。ヒッチコック自身はこういうカメラ・アングルによる見せ方を“私はしない”と言っているが、カメラではなく観客の知識を利用するところが似ているのである。

さて、映画の序章の部分で、細君が新聞を読み始めるのが本作の仕掛けで、最後はそれに呼応する。と書けば、これからご覧になる方にもこの映画の終わり方は想像がつくでありましょう(そのまま全てを言うのは、古い映画と雖も観ていない方が多そうなので、この手の映画のエチケットを考量して避ける)。当時の韓国社会の倫理観に照らしてこういう構成をしたのだと推測するが、映画論的には余り感心できない・・・とだけ言っておきます。

韓国映画が当たり前のように入ってくるようになってまだ20年。最初の十年は選ばず観たが、近年は話題作しか見ない。本ブログ常連の方はその理由を知っている。

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この記事へのコメント

vivajiji
2021年02月22日 09:51
「ハウスメイド」(韓国2010)は、本作のリメイクだったの
ですね。プロフェッサーはご覧になりましたか?
未見であればアマゾンプライムで観れますので、ぜひ!
09,5,31貴記事にありました「シークレットサンシャイン」の
チョン・ドヨンが下女を演じています。圧巻のラストご覧あれ!!
「下女」酷い差別語ですねぇ。平気で使われてました、その昔。
ま、下男というのもありましたし。
どうでもいいですが、その「桑の葉」観ました。
全く覚えておりませんが。(笑)


オカピー
2021年02月22日 22:21
vivajijiさん、こんにちは。

>「ハウスメイド」(韓国2010)

観ていないです。どうリメイクされているか興味があります。

>「下女」酷い差別語ですねぇ。

言葉狩りは余り好ましいとは思わないのですが、下女は言葉自体が差別ですね。この言葉が家政婦等に置き換わられたのは当然です。

>その「桑の葉」観ました。

1980年頃にTVで劇場未公開の韓国映画を一本観た後、初めて観た韓国映画が「桑の葉」でした。当時韓国映画は珍しかったですから、興味津々観ました。