映画評「ロマンスドール」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2019年日本映画 監督タナダユキ
ネタバレあり

初めて観た「百万円と苦虫女」(2008年)での感覚が大いに気に入った女性監督タナダユキは、僕の印象ではその後同作を超える作品を作れていない。良い部分は相変わらずあるが、自分の小説を映像に移した本作も少し足りない気がする。

美術大出身のフリーター高橋一生が、大学の先輩に紹介された企業の仕事にびっくり。ラブドール(昔流に言うとダッチワイフ)を作る会社だったからだが、結局勤め始める。
 造形担当のベテランきたろうの発案で、実際の女性を使って作ってみようかということになり、高橋君はそれに応じてきた美術モデルの蒼井優に一目惚れし、結ばれる。
 ここで夫婦間で問題になるのは、会社が医療用人工乳房製作の為と詐称してモデル募集をし、高橋君は結婚後も嘘をつき続けたことである。それと関連があるのかないのか、彼女が突然父の病気を見る為に実家に行くと嘘をついて家を空ける。
 ここでお互いに一度の浮気を打ち明ける仕儀になり、彼は加えて仕事の真実をも告白するが、実はどちらも傍流の問題に過ぎないことが判明。彼女の外泊は、癌の検査入院だったのである。
 で、彼女は子供が作れなくなったことを主たる理由として離婚を切り出すのだが、妻に不満などない彼は断固としてはねつけ、最後の日々を性愛に明け暮れるように過ごす。
 その死後、生前の彼女の希望に沿って書き残したスケッチを基に彼は一体型のラブドール(これは法律に抵触するらしい)を完成させ、社長以下関係者を感嘆させる。案の定警察がやって来て警官上がりの社長ピエール瀧は後輩に逮捕されるが、その反響が妻の失った彼の喪失感を慰藉する。

異色の夫婦愛映画であろう。彼女が子供云々と言い出すのも家庭の形を重視する振りをしただけであって、恐らくは仕事の内容を恥じて嘘をつくしかない繊細な彼の、自分の死後における孤独を考えたのではないか。胃がんのステージ2である段階で彼女は既に自分の死後のことを考えていたような気がする。
 その意味で、離婚した妻が引き取った7歳の娘に“さん付け”で呼ばれるという経験をし、孤独な半生を生きて来たきたろうの独白が胸を打つ。

全体的に、きたろうの配置がうまく機能した作劇と思うが、その一方、彼の役柄を些か喜劇的にしすぎた印象がある。どうもトーン的に落ち着かない。しかも、彼が急死し舞台から消えてから、映画は多分に夫婦ドラマ、死病映画の型に落ちて、タナダユキの才能を考えると、少々物足りないものを覚えるのである。

主人公が悲しみを乗り越える形で終わるのは良い。彼女が人形のモデルになる心境は些か解りにくいが、他の人に利用されると知りつつも自分を形として残す妻の思いが一番だろうか。夫の成功を考えたということもあるかもしれないが、それなら確かにどなたが引用した「華岡青洲の妻」の心境である。

同時に、人形の具体的なイメージが完成に近づくに彼女が連れ痩せ細っていくのが悲しいという主人公のモノローグを聞いて、僕はオスカー・ワイルドの「ドリアン・グレイの肖像」を思い出していた。あちらは本人が享楽するに連れてその肖像画が老醜化していくのだが。

夫婦もエロエロ、もとい、イロイロ。

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