映画評「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年イギリス=アメリカ合作映画 監督ジョージー・ルーク
ネタバレあり

スコットランドの女王メアリー一世の伝記映画である。彼女と年齢は近いが(従姉ではなく)叔母に当たるエリザベス一世との会見を描いたフリードリッヒ・シラーの戯曲「マリア・スチュワルト」はなかなか感動的であった。

メアリー(シアーシャ・ローナン)は、夫のフランス王フランソワ2世が亡くなった為、故郷のスコットランドに戻り、王に復位する(生れて早々に女王となるが、イングランド勢を怖れてフランスへ逃亡)。メアリーはカトリックである為国教会(内実がカトリックの新教)のイングランドと仲が悪く、イングランド勢は彼女を排除したいと思い、彼女に近付く貴族勢も王位を狙っているだけというのが実情。
 親戚筋に当たるダーンリー卿(ジャック・ロウデン)と再婚するが、彼の性格が悪いので、イタリア人音楽家リッチオを可愛がる。その隙をついてイングランドと手を組んだ異母兄マリ伯(ジェームズ・マッカードル)が謀反を起こすが、ボズウェル伯(マーティン・コムウェル)率いるスコットランド軍に降伏、メアリーに帰順する。
 しかし、この後、リッチオが殺害され、さらにダーンリー卿が暗殺される。直後に王位を狙ってボズウェル伯が彼女に結婚を迫ることを考えると、彼が単独犯に近い首謀者であるというのが本作の立場である(通説では、メアリーも加担している)。
 史実ではこの後も色々あるが映画はぐっと単純化し、1567年にボズウェル伯一味の画策で廃位され、エリザベス一世(マーゴット・ロビー)と会見した結果軟禁生活に入ったメアリーは、20年後エリザベスの暗殺を企てた容疑で死刑に処される。

英国と結婚し自分は男になったと自虐的に語るエリザベスより、子供を持つこともできたメアリーのほうが女性としては幸福だったのではないかと読める内容。そこに女性対男性という図式を透かしている。歴史劇にふさわしく堂々たるカメラワークをもって実に端正に堅実に作っていて、その点は満足である。

不満は、イングランド大使が何と黒人であり、王族・貴族しかなれないはずの侍女に有色人種が交じっていること。これはどういうことか? 僕が心配していた歴史改竄が既に起きているではないか! ハリウッドのポリ・コレ的新基準により「ブレイブハート」のような周囲に黒人のいなかった時代の歴史劇にも人種配分の問題で有色人種(黒人とは限らない)が出て来るのではないかと述べた事に対し、 ”映画製作過程における配分に過ぎず、映画の中味には適用されない” と反論を食らったが、その基準が出来る前に既に起きているではないか。歴史に疎い人が500年前のイングランドに黒人の大使がいたと思うではないか!
 英国単独ならこうしたことはなかったかもしれないが、アメリカとの合作でそういうことになったのだろうか?

因みに、大使(servant)は名前をジョージ・ダルグレイシュという実在する人物。内実としては、この人物が黒人であったと設定を変えたというより、白人を黒人に演じさせたということなのではあるまいか?

上っ面だけを良くしてもダメだと僕は思う。コロナ関連で色々と罰則を設けるらしいが、陽性の可能性のある人が罰を食らうのは厭だと潜伏してしまうと、却ってコロナ蔓延を抑えるのにマイナスになる。ポリ・コレの考えではなく、行動(日本では言葉狩り)はこの罰則に近い。

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この記事へのコメント

モカ
2021年01月20日 19:57
こんばんは。

これは見たいリストに入っていますが、なかなか見る決心がつきません。なぜかと言いますとメアリー・スチュアートの映画は大体最後にロンドン塔での処刑の場面で終わるだろうと予想されるので、気が重いのです。 
どうでしたか? やっぱりそうでしたか?

それにしてもシアーシャ・ローナンはメアリー・スチュワートの肖像画に似ていますね。似ている度は歴代1位だと思います。

有色人種が配役されているとの事でちょっと調べてみたら、監督が舞台の人でシェークスピア劇などは人種に関係なく優秀な役者が配役されるようになってきているとか。そうでないと古典劇などは優秀でも出る幕がなくなってしまうのでしょうね。

私は昔アントニア・フレイザーのメアリー・スチュワートの伝記を読んだだけなので今度はツヴァイク版を読んでみたいです。
この映画の元本は最近の本みたいですね。 
やっぱりメアリーは魅力的で人気ありますね。
モカ
2021年01月21日 08:41
おはようございます。訂正です。

処刑場所はロンドン塔じゃなくて何とかいうお城でしたね。
すいません。24時間以内なので減点無しということで、よろしく…

昨夜勇気を出して予告だけ観ました。 やはり二人が対峙して話している場面がありました。 二人の女王は手紙のやり取りはあったが直に会ったことはないと言われていますが、後世まで想像力をかき立てるお二人です。
オカピー
2021年01月21日 16:50
モカさん、こんにちは。

>アリー・スチュアートの映画は大体最後にロンドン塔での処刑の場面で
>終わるだろうと予想されるので、気が重いのです。 
>どうでしたか? やっぱりそうでしたか?

大体そんなところですね。直接の描写はありませんが。

>シアーシャ・ローナンはメアリー・スチュワートの肖像画に似ていますね。

シアーシャは凄く古典的な容貌をしていますね。史劇に重用されるかもしれません。

>監督が舞台の人でシェークスピア劇などは人種に関係なく優秀な役者が配役されるようになってきているとか。

大衆は映画をリアリズムの見地から見ますから、演劇でできることもできないです。黒人の声楽家も多いですし、演劇やオペラなら僕も全然気にしません。
 白人のアメリカ人がドイツ人を演じただけで怒る人もいます。以前そのことについて“どっちも似たようなもんじゃないか。日本人がチェーホフの芝居をやっても誰も文句を言わない”と言ったところ、“映画は舞台とは事情が違います”と言われましたよ。
 まして、ポリ・コレの映画への関与が問題になっている現在、歴史劇でこれをやったらいけません。監督は映画を観る観客層を考えないと。シェークスピアと違って、歴史など知らない連中も相当観るのですから。
浅野佑都
2021年01月22日 00:27
 僕にとってエリザベスといえばケイト・ブランシェットですが、メアリーは、もしかしたら、シアーシャ・ローナンの当たり役になるかも・・。ただ。この作品に対する評価は、愛憎半ばする(笑) というのが適切かと・・。

憎む最大の理由は、歴史の改竄ともいえる作り方にとどめを刺しますね・・。

プロフェッサーの言われるように、演劇と映画は自由度が違う。
そもそも、演劇小屋のような限られた空間、もしくは、野外でリアルタイムで行われる演劇では、開幕と同時に観客は、決められた約束事を肴に、自らの想像力をもって鑑賞しますからね。
映画と比べて、より実験的な事も可能なのは自明です。

彼らのやっていることを拡大解釈すれば、日本の時代劇もダイバーシティを取り入れて
広く実力派外国人俳優に門戸を開き「忠臣蔵」の浅野内匠頭はトム・クルーズ 、妻の阿久里にナタリー・ポートマン。大石内蔵助とその妻大石りくには、デンゼル・ワシントンとメリル・スチュアート。堀部安兵衛ヒュー・ジャックマン、吉良方の剣客清水一学にダニエル・クレイグ、吉良上野介はジャック・ニコルスンか、ベン・キングズレーにやってもらわねば
(一応、男は裃、袴で女は打掛姿にヅラをつけてもおかしくない人をえらんでいますが 笑)

改竄といえば、メアリーの夫のダーンリー卿が男色家なのもお話のためのお話ですね・・。メアリーの息子のジェームズ1世はそうだったですが。

愛したといえるのは、競演した二人の主演女優で、特にすっぴんに天然痘のあばた面でエリザベスを演じたマーゴット・ロビー。
彼女の出演作品は、トーニャ・ハーディングとナンシー・ケリガンとの確執を描いた「アイ、トーニャ史上最大のスキャンダル」シャロン・テート役の「ワンスアポンアタイム・イン・ハリウッド」と本作しか観てませんが、全て、別人格で演じ分けていて、カメレオン女優の面目躍如と思います。
モカ
2021年01月22日 13:59
こんにちは。

確かに演劇と映画は違いますものね。 了解いたしました。

浅野さんの配役案、面白すぎです! 開拓時代のアメリカを舞台に翻案して映画化する企画を売り込んだらいけるかも? 残念ながら出演料が莫大過ぎてボツでしょうね。(笑)妄想映画館。

今はまだ観る元気が出ないので今日の所は「魔術師」を楽しみたいと思います。

そういえば「ドクトル・ジバゴ」はロシア人は出ていませんけれどモチロン許容範囲ですよね?
オカピー
2021年01月22日 21:08
浅野佑都さん、こんにちは。

>歴史の改竄

モカさんの情報によれば、監督にその気はなかったようですが、しかし、映画と演劇の違いをもう少し考えないと、歴史の改竄と取られても仕方がないことになりますね。

>日本の時代劇もダイバーシティを取り入れて

映画なら大コメディーになってしまいますね。しかし、結果的に本作はそれと似たようなことをやってしまったと言えないこともない。

>男色家

あの時代は洋の東西を問わず、男色家は無数にいたわけですから、事実からの乖離のいかんはともかく、歴史的には変ではないですよね。
 同性愛が本格的に問題になったのは、産業革命によるマンパワーの要求が高まってからだと思います。要は自民党のあの女性議員ではないですが、生産性に寄与しないので。

>カメレオン女優の面目躍如と思います。

ストレートな美人役の「ターザン:reborn」の後に、妖しい女性役の「スーサイド・スクワッド」を観た僕は、本当に同じ女優なのかと思いましたよ。
オカピー
2021年01月22日 21:17
モカさん、こんにちは。

>開拓時代のアメリカを舞台に翻案して映画化する企画を売り込んだらいけるかも?

それは良いかも。アメリカだって、結構忠誠心のような精神はありますから、うまく翻案すれば案外良い映画になったりして。

>そういえば「ドクトル・ジバゴ」はロシア人は出ていませんけれどモチロン許容範囲ですよね?

何を仰る、ウサギならぬモカさん!
僕は相当寛容ですよん。だから、好き嫌いが少ない。
ロシア人のムードは独特で、ロシア語が醸し出す雰囲気も、それはそれで良いのですが、英語の「ドクトル・ジバゴ」は素敵でした。
残念ながら、ロシアでデーヴィッド・リーンのようにうっとりするように見せられる監督はいない。全盛期のニキータ・ミハルコフが本気を出せばかなり近いものが作れたでしょうが、当時の彼はチェーホフに傾倒していたし(また幻想映画館に入ってしまった!)。
モカ
2021年01月22日 22:50
ふと思いましたが、アメリカには切腹制度はなかったですね。それに47人はちょっと多いかも。馬もいっぱい必要ですしね。荒野の47人?ではモッサリしますわね。

この監督さんを援護する訳ではありませんが、ロンドンでもパリでもNYでもLAでもとにかく行ってみると思っている以上に人種のるつぼなんですよね。 だから日本にいる感覚とは乖離があるようにも思います。

ドクトルジバゴ、もちろん、分かっていましたけどちょっと書いてしまいました。
マストロヤンニの黒い瞳ってニキータさんでしたか? もう一度見たいのですが何処にも見当たりません。
モカ
2021年01月23日 20:44
またまたちょっと思い出したことがありましてお邪魔いたします。
博識な先生ですからご存じかもしれませんが、映画史上初めての殺人とトリック撮影の映像はメアリー・スチュワートの処刑場面なんですよね。ほんの20~30秒の映像で、これはさすがの死刑場面大嫌いな私でも平気で何回でも観られます。
ご存じない方はyoutubeで「メアリー女王の処刑」(だったと思います)で検索してみてください。首がぽろっと落ちます(笑)
あのリュミエール兄弟が工場から出てくる労働者や駅に入ってくる列車を撮って大衆を驚かせていた頃にこんな映像を撮ってる人がいたなんて驚きです。
オカピー
2021年01月23日 21:01
モカさん、こんにちは。

>アメリカには切腹制度はなかったですね。

これは戦闘中に次々に死ぬような格好にしないとダメですね。発端は「忠臣蔵」でも結末は違うものにしないといけませんねえ。

>だから日本にいる感覚とは乖離があるようにも思います。

現代劇やSFでやれば良いんですよ。
 現に、昨年のアカデミー賞の受賞の人種・民族配分についての新規定を賞賛した学者の先生も、現実・実際を大きく逸脱しない範囲でやることが肝要である、と仰っています。

>マストロヤンニの黒い瞳ってニキータさんでしたか?
>もう一度見たいのですが何処にも見当たりません。

そうです。好きな監督なので、映画館まで観に行きました。「小犬を連れた貴婦人」等チェーホフの幾つかの作品を合体させた作品と言われていますね。

>映画史上初めての殺人とトリック撮影の映像はメアリー・スチュワートの処刑場面なんですよね。

知っちょりますよ^^
 そう思っていない人が多いと思いますが、スタントマンも、これを発展させたSFX(特殊撮影)の一つです。