映画評「イエスタデイ」(2019年)

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年イギリス=アメリカ=日本=中国合作映画 監督ダニー・ボイル
ネタバレあり

そのつもりもないのにアマゾン・プライム会員(一ヶ月無料、その後継続すれば有料)にさせられてしまったので、来月もWOWOWに出る予定のない本作を観ることにした。無料会員の無料は会費であって、全ての作品が無料で見られるわけではないので、要注意。

さて、昭和20年くらいから40年くらいまでに生まれた洋楽ファンには、なかなか興味をそそられる作品だろう。

売れないインド系英国人のシンガー・ソングライター、ヒメーシュ・ペタルが、12秒間の停電で真っ暗になった時に交通事故に遭い、目が覚めたらビートルズが存在しない世界になっているのに驚愕すると共に悪魔の誘いに抗し切れず、彼らの曲を自分の曲として次々と発表、人気シンガー・ソングライターのエド・シーラン(ご本人が本人役で出演)に気に入られ、それを契機に米国の音楽エージェント、ケイト・マッキノンに注目され、大手レコード会社と契約する。
 しかし、その為に彼は米国を拠点とする必要が出、為に子供の時代から愛してきた元マネージャーで女教師リリー・ジェームズとの仲を諦める瀬戸際に追い込まれる。

他人の曲を自分の曲として発表する罪悪感との葛藤と、ミュージシャンとしての成功を優先しリリーとの恋愛を諦めるか否か(何故そうなるかは少々疑問)という選択という煩悶をドラマ上の肝とした内容で、ビートルズが存在しないパラレル・ワールドは寧ろそれを引き出すギミックに過ぎない感じがする。
 だから、ギミックのほうにばかり関心が向かうと、設定のあらを感じることになる。

とは言え、このギミックについて少し説明していおく必要もあると思う。この映画のパラレル・ワールドは本格的なSF映画とは少し違うと考える。ビートルズが存在しないところまでは普通のパラレル・ワールドなのだが、そこに記憶の問題を絡めている。余りにご都合主義と言えばそれまでなのですがね。
 リリーがペタルを好きになったのは彼が彼女の好きなオアシスを演奏したことにある。しかし、ビートルズ消滅の余波でオアシスもいなくなる。ところが、彼女が相変わらずペタルに関心があるのは、物理的になくなったものと直接関わらない停電前の記憶は万人にそのまま残っているという理屈・・・と考えると辻褄が合う。
 世界の大半の人がそういう状態の中で、主人公と英国の70代の男女二人だけが100%停電前の記憶を持っているのであり、他の映画とは些か違う記憶の扱いを加えたパラレル・ワールドと思えば良い。ご都合主義も甚だしいが、恋愛映画として見れば罪のないご都合主義である。

個人的に感慨深いのは、ビートルズが存在しない世界ではジョン・レノンが78歳まで生きているという可能性への言及。この間拙ブログコメント欄でその類の話(小野洋子と知り合わなかったらジョンは死ななかったか、等)をしたばかりで、心が揺さぶられる。

全編をビートルズの曲が覆う映画では、傑作「アクロス・ザ・ユニバース」(2007年)に大分及ばない。その一つの要因が、ヒメーシュ・ペタルが原曲の持つ優秀性を生かしていると言えるほど歌いこなせていないこと。

歌われるのがポールの曲ばかりではないかというファンからの批判がある。しかし、「イン・マイ・ライフ」「ヘルプ!」「愛こそはすべて」と、完全な共作と認定されている「抱きしめたい」が歌われている(歌われない曲には多数あり)し、特段にビートルズ・ファンでない方も観ることを考えれば、キャッチーなポールな曲が多く選ばれたのは、まあ妥当だろう。

因みに、ビートルズとオアシス以外に消えたのは、コカコーラ(ペプシはある)とタバコ。タバコがなくなるのは、ジョン・レノンがタバコを新大陸から持ち帰ったウォルター・ローリー卿に怒りをぶつける「アイム・ソー・タイアード」からの発想にちがいない。

イエスタデイ、ジャイアンツの四連敗で日本シリーズが終わりました。無念。

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この記事へのコメント

浅野佑都
2020年11月27日 08:15
 この作品に限りませんが、説明的な流れをテンポよく描き切るダニー・ボイルはやはり、映像力の高い作家だと感心します・・。

>全編をビートルズの曲が覆う映画では、傑作「アクロス・ザ・ユニバース」(2007年)に大分及ばない。

映画的な引き出しの多さで「アクロス・ザ・ユニバース」に軍配が上がりますね。かの作品は、当時を知っている我々にはゴキゲンなサイケデリックな画作りで、ミュージカルとしても秀逸。
「ストロベリー・フィールド」を戦場に見立て、ポップでありながらベトナム戦争の苛烈な様子を確かに伝える比喩描写や、ジャニス・ジョプリンを思わせる女性を配置するなどなど、どの場面にも一工夫を感じましたから・・。

ただ、本作も悪くない。
「ラブ・アクチュアリー」や「アバウトタイム~愛おしい時間について」のリチャード・カーティスが、歌詞に合わせて上手く書いています。
主人公が車にはねられるシーンでは「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」の有名なエンディングのオーケストラによるクライマックスが流れますが、同曲の歌詞にもちゃんと交通事故の話があるんですよね。

>歌われるのがポールの曲ばかりではないかというファンからの批判がある
。いいですね!
なんと狭量な!(笑)
レノンマッカートニーでいいではないですかね?

余談ですが、「愛なき世界~ノーザン・ソングス」(他の歌手へのレノン=マッカートニーの提供曲をビートルズが演っていたら?をコンセプトに、ビートルズそっくりにカヴァーしたアルバム)がありまして・・。
曲としてのクオリティも抜群で、何故、ビートルズ名義で出さなかったのか不思議なくらいです。
僕的(笑)には、秀作「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」に収録された「Hello Little Girl」が好きですね・・。



PS
「アバウトタイム~」の未公開映像で面白いのがあったのでご覧ください・・。

https://www.youtube.com/watch?v=rhqBqjRFUwo&feature=emb_logo
モカ
2020年11月27日 11:35
こんにちは。

これは「面白かったね」という人とも「面白くなかったわ」という人とも無理せずに適当に話を合わせられるタイプの映画ですね。
「面白かったね~ コカコーラがなくてペプシがあるって~何でや?」
「そらペプシのほうが美味しいしや」
「昔、そういう事いう人いたな~判官びいきか?」
「いや、平和主義者はペプシやで」 
「そう言えばコーラなんてここ40年は飲んでへん」
「歯ぁ溶けるとかいう噂あったなぁ」 
「そうそう歯ぁ溶けたら怖いわ~」 とエンドレスに続くので
 面白くなかったほうは割愛させていただきます。
オカピー
2020年11月27日 21:55
浅野佑都さん、こんにちは。

>「アバウトタイム~愛おしい時間について」のリチャード・カーティス

そう言えば、あの作品も着想的には本作に似たところがありますね。SF的な要素を恋愛を成り立たせる為に彼なりのものに自在に利用する。

>ア・デイ・イン・ザ・ライフ」
>同曲の歌詞にもちゃんと交通事故の話があるんですよね。

上院議員が車中で気を失うか何かして交通事故を起こす。中学の時から結構気になっている歌詞です。
井上陽水の「傘がない」の冒頭が新聞なのは、この曲の影響かな?

>レノンマッカートニーでいいではないですかね?

いいとも!(笑)・・・古いな。

>余談ですが、「愛なき世界~ノーザン・ソングス」

このCD欲しいなあ。中学から高校生にかけて、これらの曲を結構聴いていたので殆どお馴染みです。

「愛なき世界」はピーター&ゴードンでヒットしましたね。メリー・ホプキンに提供した「グッドバイ」はポールのデモ・バージョンも結構素敵でして。「ラブ・オブ・ザ・ラブド」を歌ったシラ・ブラックは“自分ではヒットしないが彼らが歌えばヒットするんでしょうね”と自嘲したという話も聞いたことがあります。
「ハロー・リトル・ガール」小粋なラブソングで、良いですねえ。バディ・ホリーっぽいかな?
オカピー
2020年11月27日 22:08
モカさん、こんにちは。

>「そう言えばコーラなんてここ40年は飲んでへん」
>「歯ぁ溶けるとかいう噂あったなぁ」

去年の村の新年会で、30年ぶりくらいに飲みましたよ。
歯が溶けるという噂、確かにありましたね。

こちらの都市伝説で、瓶のしたにある丸の窪みと四角の窪みで中身が違うという噂もありました。今思うと、瓶を提供する業者が違うだけの話ですが、子供というものは変な噂をしますねえ。