映画評「パラサイト 半地下の家族」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2019年韓国映画 監督ポン・ジュノ
ネタバレあり

2019年度カンヌ映画祭のパルム・ドールとアカデミー賞作品賞を獲って大いに話題になったポン・ジュノ監督のブラック・コメディーである。

チェーホフの「中二階」ならぬ半地下アパートに下層階級の一家が住んでいる。依然大学志願を続けるフリーターの長男チェ・ウシクが、留学を決めたエリート大学生の友人から、企業社長イ・ソンギョンの令嬢の英語家庭教師の代打を打診される。
 大学生の振りをして見事仕事を得た彼は、他人の振りをして妹パク・ソダムを天才肌の息子の美術教師として紹介、彼女は不正な手段を使って運転手の父親ソン・ガンホが採用されるように画策する。次は、うるさい家政婦チャン・ヘジンを追い出して母親イ・ジョンウンを家政婦にする作戦を敢行。家政婦の桃アレルギーを利用するのだ。
 かくして一家を挙げて上流階級から搾取する目的を達成し、家の持主一家がキャンプに出た隙をついて一家で金持ち気分を味わっていると、前の家政婦が忘れ物と取りに現れる。仕方なく入れたところ、彼女の忘れ物とは何と地下シェルターに残した夫のこと。弱みのある前の家政婦は下手に出るが、一家の詐欺行為を知った彼女は逆襲に転じる。多勢に無勢で下層一家が勝利を収めるが、そこへ今度は大雨で持主一家が舞い戻った為母親以外の三人が姿をくらますのにてんやわんや。

この映画が断然良いのはここまでで、一昨日の「愚行録」に似た上層階級と下層階級との経済格差というより階級格差を、臭いに象徴させ、ブラックに表現したところが実に面白い。したたかな下層階級と純真な上層階級という具合に、階級の描写も類型に落ちず立派なものだ。上層階級の純真さには知らず下層階級を傷つけるものもあるというところに言及したのも鋭い。
 本当の家族と疑似家族という違いがあるが、我が邦の「万引き家族」と似た社会派下層家族映画という印象もあり、「愚行録」と「万引き家族」を足して2で割ると本作になると言えば、凡そ内容の予想が付きましょうか。

やや落ちるのがこの後で、大雨の最中から後にかけての描写が些か冗漫であり、子供の誕生パーティーにおける大混乱から幕切れまでユーモアをすっかり失ってしまうのが韓国映画らしい。大衆映画寄りの作家の中ではポン・ジュノは大いに認めたい監督だが、出来ることなら韓国流を突き破って欲しかった。
 しかし、前半の笑いのパワーが圧倒的である為、シリアスな終盤のパワー感との間でムード的に齟齬する感じがなく、水準的な韓国大衆映画と違って二つの映画を観ているような印象に陥らないのは評価に値する。全体としてアイデアの勝利と思う。

富豪息子のモールス信号は最終盤への布石。

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この記事へのコメント

モカ
2020年11月12日 17:37
こんにちは。

>子供の誕生パーティーにおける大混乱から幕切れまでユーモアをすっかり失ってしまうのが韓国映画らしい。

 そうなんですね~ 韓国映画では、ワーイ、ワーイと楽しく乗っていたつもりのジェットコースターから気づいたら振り落とされたような気分を味わうことが時々あります。
 自分の感性の振り幅の狭さ故か相性が悪いのかと思っていましたが、そういう事なんですね。

 それにしてもあのお金持ちの家はゴージャスでしたね!
  

 「中二階」といえばニコルソン・ベイカーの変てこりんな本を思い出しました。読書の王道を行くオカピー先生からみたら蛇の道を行くモカです。(ヤフーの記事によると”モカ”は雌犬の名前では人気があるらしいです。ビッチか・・・笑)
モカ
2020年11月12日 17:43
訂正です。

お金持ちの家は広くてお金はかかってそうですが住人の個性が感じられない「ザ 金持ち」の記号みたいに感じました。
半地下の家のほうが楽しそうに見えましたけど・・・
浅野佑都
2020年11月12日 21:56
 韓国映画の泥臭さ、垢ぬけなさは、プロフェッサーが南高梅の古漬けのように口を酸っぱくして言及され、その都度、この僕もコメントで同意してきた経緯がありましてで(笑)・・。

ここまで言っても変わらないのは、もうそれは民族的なものといううよりも韓国独特で世界的にも珍しいことではないですかね?

もとより、本作(この映画も過大評価ですが)みたいなトラジック・コメディが得意なポン・ジュノをはじめ、キム・ギドク。パク・チャヌク、イ・チャンドンの四天王の”瞬間最大風速”は侮れないものがありますが・・。

に、しても、韓国映画は全般的に過大評価され気味ですね。
小泉今日子がこの作品の受賞を受けて、「邦画はあっという間に韓国映画に抜き去られた」発言をした時には、「十年一昔、光陰矢の如し」万年演技の進歩がみられない女優が何をユーか!と思いましたね(笑)
関係ありませんが、早見優のカップヌードルCMの「♪イカじゃない~」というのが耳にこびりついています(僕は、あの手のユーモアが好きですね)‥(笑)


バイデンが勝利宣言した途端にニューヨーク株が上がり、大統領選の5日後に、ファイザーがワクチン開発で結果を出したニュースが世界を駆け巡りました。(トランプは恨み節ですが‥)

ロートルのバイデンにあまり期待できませんが、少なくとも、環境保護政策には前向きでしょうね。トランプは、無関心というよりもむしろ(環境保護を)憎んでさえいましたからね・・。
バイデンだけに、太陽光”売電”事業”が再び脚光を浴びるか(笑)

ただ、日本では、同時期にのニュースで女川原発再稼働が伝えられ、環境保護よりもベースロード電源に頼りたい日本の思惑が垣間見えたと思います・・。

何にせよ、ワクチンは光明ですし、日本も、相変わらず死屍累々の屍(感染者の数)を数えるのでなく、この機を逃さず、頑張ってもらいたいものですね。
チャイナは、とっくの昔にコロナ禍以降の世界を見据えて、着々布石を打っていることでしょうし・。




オカピー
2020年11月12日 22:41
モカさん、こんにちは。

>自分の感性の振り幅の狭さ故か相性が悪いのかと思っていましたが、そういう事なんですね。

寧ろ逆でして、韓国映画の大きな振幅を評価するほうが鈍感なのだと思います。
 とにかく、韓国大衆映画の千篇一律の作り方に疑問を呈するのは、僕以外に殆どいないのはどういうこと?(笑)
 昔から、映画に限らず、一つの作品において二つの作品を見るようなのは良くないというのは金科玉条なのですが。

>お金持ちの家は広くてお金はかかってそうですが住人の個性が感じられない

住人が次々と変わるようない住宅ですから、個性がない人が住むのでしょうね。

>「中二階」といえばニコルソン・ベイカーの変てこりんな本を思い出しました。

チェーホフのは正確には「中二階のある家」というのですが、そのものずばりの作品があったのですね。
 そのベイカーなる作家の作品は、フランス文学に特化していたイメージのある白水社から出ている。きっと蛇の道ではないでしょう(笑)
オカピー
2020年11月13日 21:21
浅野佑都さん、こんにちは。

コメント欄が不調でして・・・

>プロフェッサーが南高梅の古漬けのように口を酸っぱくして言及

あははは。まあそうですね。韓国大衆映画を観るたびに言っています。しかし、相変わらず変わらない。
 浅野さんとかモカさんのように、僕の発言を理解もしくは自らそう思われる方もいらっしゃる一方で、単なる(差別的な)悪口と思っている人もいる。しかし、僕は韓国が嫌いなわけではない。東京オリンピックに決まる前は、在特会のような輩が嘘を根拠にデマをするのに耐え切れず、そんな輩のいる東京への招致に反対していたくらい。決まった後は逆にオリンピックを理由に差別がなくなる方向に進むかもしれないと思うようになりましたが。

>「邦画はあっという間に韓国映画に抜き去られた」

パワー感だけはそうかもしれませんが、映画は洗練度が大事。洗練度は断然日本ですよ。
 日本映画ばかり当たる時代に、逆行するような日本映画をけなす意見が多いのも変です。

>チャイナは、とっくの昔にコロナ禍以降の世界を見据えて、着々布石を打っていることでしょうし・。

コロナ禍に関してトランプが自分のことを棚に上げて中国批判をするのも何だかなと思いつつ、90%がとこ間違っていないでしょうね。昨年12月の段階で独裁の強みを発揮して武漢をロックダウンしていれば、ほぼ中国国内だけで終わった病気でしょう。その時点でデマと言って医者の警告を無視したのは、中央ではなく武漢市当局でしょうが、これは独裁の悪いところが出た忖度の結果。今年になってロックダウンした時はもうイタリアに広まっていた。遅かりし由良之助!
 それはともかく、中国はやり手です。中国だけではないですが、ワクチン外交も進めるでしょう。香港市民をあそこまで虐めるのは、実質的な世界征服という野心があるからでしょうね。そこまで欲をかいて何が面白いという気もしますが。
モカ
2020年11月15日 13:06
こんにちは。

>、韓国大衆映画の千篇一律の作り方に疑問を呈するのは、僕以外に殆どいないのはどういうこと?(笑)

 そんな事もないと思いますよ。
 「南高梅の古漬け(食べた事ないです!)がキムチを叱る!」 

 ジョセフ・ロージーの「召使」と「恋」のDVDが欲しくてアマゾンを見ていたら面白いレビューを見つけました。
 「召使」の”スメルジャコフ”なる方のレビューが本作に言及していてなかなか的を得て辛辣でした。 
(スメルジャコフ様、勝手に紹介しましたが、共感した故ということでご了承くださいね。)
浅野佑都
2020年11月15日 20:39
スメルジャコフ 我が同士よ!失礼、先にコメントさせていただきました(笑)

ご自分の振り幅の狭さ、と謙遜されたモカさんも含めて、この映画の欠点を挙げたのはプロフェッサーと僕とこの方だけみたいでねぇ、プロアマ問わずネットの意見は?
日本人がいかに権威に弱いか、という古くて新しい問題を突き付けられたと思います。
確かに、安倍さんは、カンヌの時に是枝監督を称賛しませんでしたね・・もともと、(桜の)花より団子で芸術には理解が薄いお人でした(笑)
マスゾエ氏は理解があるほうでしたが・・。

>香港をあそこまで虐めるのは世界征服の野望があるから

RCEPへの15か国の署名は間違いなく中国にとってバーゲンセールですね。
トランプが「対中20パーセントの関税」をかけて、もうアメリカ市場に旨味なしと、中国の方から距離を置きながら空いている左手でRCEPを取り纏めた・・。役者が一枚上手でした!

TPPの時は死ぬほど騒いだマスコミは今回は大人しかったですね(わかってはいましたが‥)。

指導部は今頃、マオタイ酒で祝杯を挙げていることでしょう。彼らにとってただ一つの懸念材料は、人口でほぼ中国に並ぶインドが今回の署名に加わらなかったことでしょうね・・・。

日本がRCEPの舵取り役になれればいいのですが・・。
オカピー
2020年11月15日 22:57
モカさん、こんにちは。

>「南高梅の古漬け(食べた事ないです!)がキムチを叱る!」 

キムチ(韓国のことではないですよ)は嫌いです(笑)

で、この映画に関しては、かなり甘くなったような気がしますが、“ポン・ジュノよ、お前もか”という残念な感は否めず、絶賛はできない。今年の一年遅れのベスト10選出にも入るかどうか?

>ジョセフ・ロージーの「召使」と「恋」のDVDが欲しくて

偶然ですが、昨日デジタルVHSのビデオのインデックスを眺めていたら「恋」を発見しました(「初恋」ではなかったと思う)。機械が壊れていなければ、観ることができるかもしれません。

>”スメルジャコフ”

「カラマーゾフの兄弟」の訳あり登場人物をハンドルネームにするとは、彼の性格同様、一筋縄で行かない感じですね。
オカピー
2020年11月16日 21:10
浅野佑都さん、こんにちは。

遅くなりました。

>日本人がいかに権威に弱いか

余り天邪鬼になるのも何ですが、審美眼や鑑賞眼を磨いて評価する必要はあるでしょうねえ。

>役者が一枚上手でした!

トランプの政策は、一時的には中国を苦しめても、長い目で見ると中国を利するものが多いとずっと思っていました。自国第一主義は結局のところ自国の為にならない・・・ということは歴史が証明しているのでは? ましてこのグローバルの時代には。
 外国勢が貿易でアメリカの金を盗んでいるというのは殆ど嘘で、アメリカの努力が足りなかっただけでしょう。日本人がアメリカの映画や音楽にどれだけ金をつぎ込んだことか。

>人口でほぼ中国に並ぶインドが今回の署名に加わらなかったことでしょうね・・・。

確かに問題。両国間の国境問題が影を落としているのでしょうかねえ。
モカ
2020年11月17日 13:52
こんにちは。

>デジタルVHS   
 これはテープですか? 円盤ですか? (笑)

 「恋」はレンタル落ちのVHSを持っていましたが再生装置が再起不能です。
 
浅野さんは韓国映画の泥臭さは民族的なものじゃないとおっしゃっていましたが、私は身近かな韓国系の人たちを見ているので「なんか分かるわ、この感じ・・・こんな人いるいる・・」ですよ。
 すごくサバサバとした人も多いですが、所謂瞬間湯沸かし器的攻撃力を持っている人もいますね。でも仲良くなるととっても情の厚い人が多いです。
 隣同士でいがみ合っている韓国系の2軒の家がありまして、私は陰で「南と北かなぁ」なんて思ってますが、まぁ映画のネタになりそうな、端目には面白いブラックな戦いを繰り広げておられます。(梅崎春生の「ぼろ家の春秋」をもっと過激にした感じ)

 邦画も韓国映画もほとんど観ないで言うのもなんですが、小泉今日子の発言は何をいまさら、と思います。 もう20年くらい前ですか、「子猫をお願い」を観た時、日本の若い女優(?)はあかんな・・自分を可愛く見せることしか考えてないのとちゃうか?と思いましたよ。
 可愛く見せるにはとうの立った人達は、北欧にいって食堂をやってみたり、京都で豆腐屋やら喫茶店やったり(あんたのこっちゃで今日子さん)嘆かわしい!・・ということで、やはり私の感性の振幅幅は狭いというよりは基準線が世間一般の線からずれていました。 悪しからず・・・

 スメルジャコフとムルソーが近代文学の神なき世界の2大殺人者ですかね? 
 
 

 
オカピー
2020年11月17日 20:56
モカさん、こんにちは。

>>デジタルVHS   
>これはテープですか? 円盤ですか? (笑)

デジタルのVHSですから、テープです。
DVDとほぼ同じ(もしくは少し早い時期に発売されたもので、こちらのほうが画質が良いと聞いて買ったわけですが、テープ代も高い(一本2000円くらい)し、円盤式と違ってアクセス性が悪いので、数年後にDVDを買いました。

>所謂瞬間湯沸かし器的攻撃力を持っている人もいますね。

これは、映画を観ると圧倒的に多く出てきますよねえ。日本人にはあそこまでの人はそうそういない。いることはいますが、比率が全然違う。

>基準線が世間一般の線からずれていました。

浅野さんではないけれど、余り権威主義・王道大好きでも困ります。自主的に好きになる分には王道で一向に構わないですが。僕のビートルズ好きなんて、他人は関係ないですもん。

>スメルジャコフとムルソーが近代文学の神なき世界の2大殺人者ですかね?

実存主義的には、そういうことになるのかな。
因みに、僕が初めて観たヴィスコンティが「異邦人」です。