映画評「最後の億萬長者」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1934年フランス映画 監督ルネ・クレール
ネタバレあり

そろそろジャック・フェデーも取り上げてみようかと思ったが、忙しいので短い作品が多いルネ・クレールをまた取り上げる。本作を初めて観たのは東京のフィルムセンターにおいて。その後WOWOWで観ていると思う。その時の録画でまた観る。

モナコを思わせるカジノ立国その名もカジナリオ王国。破天荒な都市計画を遂行するに足りない資金を募る為に、大昔に同国を出て大銀行家になったその名もバンコ氏(マックス・ディアリー)と交渉する。彼の交換条件は女王(マルト・メロー)の孫娘イザベル(ルネ・サン=シール)と結婚すること。
 渡航してきたバンコ氏は行政長官として独裁体制を敷こうとする為、地位を失いそうな閣僚たちと、王女の恋人である宮廷楽長(ホセ・ノグエロ)率いる楽団員たちが、夫々バンコ氏を寝室に襲おうとして鉢合わせ、怪我をしたのは襲撃者だけというズッコケ。
 しかし、その騒動を調べていた探偵(刑事のこと、マルセル・カルペンティ)のせいでシャンデリアを頭に受けたバンコ氏は正気を失って椅子の排除、髭のある男性は半ズボンを穿くなどの珍妙な法令を公布、その間に世界恐慌で自分の銀行を破産したことも気づかない。
 今度はその珍策にさすがに困った女王が家臣を使ってバンコ氏を襲撃、銃で頭を打たれた(撃たれたではない)ショックで氏は正気に戻り、銀行が破産したことも知る。王女は既に楽団長と結ばれて駆け落ち、破産の事実を知らぬ女王は自分を犠牲にバンコ氏と結婚・・・したつもりが、彼は財産がないことを告白、年金を要求してくる。

クレールには元来そういう傾向があるが、本作は極めてスラップスティックに接近したシチュエーション・コメディーとして相当可笑しい状況を観客に見せてくれる。王女と楽団長のロマンスの進展が女王とバンコ氏の動向によりシーソー状態になる様子が繰り返されるのが、傍流的な扱いながら、とりわけ楽しい。
 バンコ氏は王女が恋人を持っているとは知らないし、女王は彼が破産したことを知らない。その両者の情報の欠如が混乱に拍車をかけ、終盤のドタバタは爆発的な状態になる。

女王が孫の王女をだしに銀行家と交渉する博打を打って失敗に終わるというお話は、賭博への風刺という側面もあるが、一番の眼目は狂った独裁者を抱える国家が如何に愚かしいことかを示すこと。1934年の製作だから当然ヒトラー風刺である。ヒトラーのやっていることは、閣僚に犬の真似をさせるに等しいという痛罵するのである。
 そこには、ヒトラーへの風刺を超えて、国家なるものへの徹底した諧謔精神が見える。但し、狙いが先に出て、バタバタしすぎて完成度は少し落ちる印象も伴う。

丁度一か月前に観た「幽霊西へ行く」(1935年)の洗練度に差がある次第であるが、一般の日本人観客には本作のほうが笑え、楽しめるだろう。IMDbの平均点が 6.2 と出来栄えに比べて極めて低いのは、欧米人特にアメリカ人にこういうギャグを低劣と思い込む意識が強いということを示していると思う。

カジナリオ王国にバンコ氏、ネーミングが馬鹿らしくて愉快。

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