映画評「野のユリ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1963年アメリカ映画 監督ラルフ・ネルスン
ネタバレあり

多分3回目だが、2回目ということにしておきましょう。いずれにしても最初に観たのは1970年代の地上波(ある人の情報によれば、淀川長治氏の解説による “日曜洋画劇場” だったらしい)吹き替え版。上映時間が94分しかない作品なので、ほぼノーカットだったはず。

アリゾナ。流れ者の黒人シドニー・ポワチエがオーヴァーヒートした車を冷やす為にドイツ系修道女が生活する地所へ入る。水を貰えたのは良いが、厳格な修道院長リリア・スカラに代わりにごく小さな修道院の屋根を直せと半強制された後食事にありついて結局そこで夜を明かし、次々と命令に服すうちに住み着くことになってしまう。
 大工道具を持っている彼は教会を作る羽目になる一方、夜には院長以外は英語を解さない修道女たちに英語を教える。近くにはメキシコ系のコミュニティーがあり、一人こつこつ教会を作るポワチエに支援の手を伸ばして来る。

この映画には、面倒をもたらすメキシコ人は出て来ない。この当時でも現在の麻薬ギャングのような人々はいたかもしれないが、今ほどひどくはなかったであろう、と本作には余り関係ないことをまず述べまして、以下本論。

ポワチエ扮する主人公のやや謎めいた行動とそこから継起する物語は極めて寓話的である。特に、黒人、ドイツの白人修道女たち、メキシコ人たちが一致協力して教会を作るという事柄が人種和合を象徴し、その頂点となる。
 いずれにしても、本作の基調はヒューマニズムである。リリア・スカラの院長は信仰にこり固まり、その心情が人間に直接傾むことはない。だから、何をやってくれても相手に“有難う”という言葉を放たない。彼女の感謝は常に神に向けられる。
 その頑固さがポワチエにも伝染したのか、教会建築に関しメキシコ人の支援を強硬に断り続けるのだが、最終的に彼らのペースに乗せられてしまう、という展開・描写は極めてユーモラスで、本作の中で最も楽しいところである。
 彼らの間に生まれた友情が、今度は院長に伝染したかのように、彼女は最後にポワチエに“有難う”を言う。人間万歳という内容と思えば良いと思う。

アカデミー作品賞候補基準から敷衍してアメリカの一部における「風と共に去りぬ」の放映停止(をするポリ・コレ)に文句を言ったら、名無しの権兵衛さんから(人種、恐らく黒人に関する)差別心を指摘された。ポリ・コレ批判は必ずしも反ポリ・コレではない。解っていますか? 寓話的とは言え黒人が頑張る「野のユリ」を観て心温まる気持ちを抱く僕のどこに差別心が? 文章が拙いのは認めますがね、証拠もないのにそう安易に邪推するのはいけないと思いますぞ。

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この記事へのコメント

2020年10月04日 12:11
十年前に何回目かの鑑賞後に記事にしてました。

一つ疑問が残っています。
教会が完成した後の主人公の浮かない顔の意味です。
「独力で建てたかった」だけではない別の意味があるような感じを受けたんですが・・・?

「♪Amen」を唄いながら去って行く青年。爽やかでした。
オカピー
2020年10月04日 20:33
十瑠さん、こんにちは。

>教会が完成した後の主人公の浮かない顔の意味です。

よく解りませんねえ。
あるいは、長くいるうちに修道女たちやメキシコ人たちといることに居心地の良さを覚えつつ、やはり自分の生き方として役目を終えた以上留まることができない、というちょっとした懊悩だったかでしょうか?
2020年10月05日 00:53
この映画は、人間の「善の可能性」を描いた寓話ですね~。
十瑠さんの疑問に、プロフェッサーが完璧なお答えをしてるので何にも補足するところはありません(笑)

僕はこの作品で、カトリックは「アーメン」プロテスタント(パブテスト協会)は「エイメン」と発音するのか・・と知りました。

>何をやってくれても相手に“有難う”という言葉を放たない。

「すべては神の御心」だとして、神への感謝しか示すことのない修道院の院長が、終盤、ポワチエに対して、ハッとした表情をしたところをカメラは捉えて見せます。

おそらく、彼女は自分の口から「Thank you」という感謝の単語が出たことから、これまで目の前の黒人男性が与えてくれたものを自覚したのかもしれません。「神の業は人に宿る」のだと・・。
この辺の感覚は、一神教の信仰のない日本人にもよく理解できるのでは?
モカ
2020年10月05日 10:25
こんにちは。

これは公開時に劇場で観たのが最初で最後です。
推定小学5年生? ディズニー以外の洋画を劇場で観た最初の映画がこれか「奇跡の人」だったと思います。(当然大人に連れて行ってもらいましたが) 
正直言ってほとんど覚えていないです。
ポワチエだけが印象に残っていて、何年後かに「いつも心に太陽を」を自主的に観に行ったような記憶があります。
もう一度観たくなりましたが配信では見つからず、図書館にもなかったです。
私の場合、”Amen ”と言えばオーティスですね。
"this little light of mine"

余談ですが私が幼稚園から小学校時代に通っていたイギリス国教会派の教会では「アーメン」でした。
 「あーめん、そーめん、ひやそーめん」 これは誰のネタだったんしょうか・・・?
オカピー
2020年10月05日 22:12
浅野佑都さん、こんにちは。

>僕はこの作品で、カトリックは「アーメン」
>プロテスタント(パブテスト協会)は「エイメン」と発音するのか・・と知りました。

僕は、彼は英語圏の人だから「エイメン」で、彼女たちはドイツ語圏だから「アーメン」なのかと思いましたが、モカさんによれば、イギリス国教会系列でも「アーメン」だそうですから、発音規則上の関連ではなく、どちらかと言えば宗派なのかな。英国教会はプロテスタントとカトリックの中間のように僕は感じとりますが。

>「神の業は人に宿る」

そういうことなんでしょうね。
言葉を訂正する形でThank youと言ってしまうところが、マザーの表情を含めて、大変面白かったです。彼女が人間的になった瞬間で、僕がヒューマニズムの映画と述べた所以の一つであります。
オカピー
2020年10月05日 22:26
モカさん、こんにちは。

>もう一度観たくなりましたが配信では見つからず、図書館にもなかったです。

そのようです。
 僕は十数年前にNHK-BS2でやったのをブルーレイ・ディスクに収めたもので観ました。そう考えるとラッキーだったんですねえ。

>私の場合、”Amen ”と言えばオーティスですね。
>"this little light of mine"

最初から5枚目までCDを持っていますが、その中には入っていないようです。どのアルバムに入っているのかなあ。

>「あーめん、そーめん、ひやそーめん」 これは誰のネタだったんしょうか・・・?

自然発生的だったようですよ?
モカ
2020年10月06日 17:13
こんにちは。

>彼は英語圏の人だから「エイメン」で、彼女たちはドイツ語圏だから「アーメン」なのかと思いましたが、モカさんによれば、イギリス国教会系列でも「アーメン」だそうですから、発音規則上の関連ではなく、どちらかと言えば宗派なのかな。英国教会はプロテスタントとカトリックの中間のように僕は感じとりますが。

 今まで深く考えた事もなかったですが、少し調べましたがはっきりしませんね。amen はイスラム教やユダヤ教でも使うようですしね。私は何となくゴスペルではエイメンかなと思っていました。 
 私は自分の行っていた幼稚園(教会)が英国国教会系だと最近まで知りませんでした。親もプロテスタント系だと思っていたようです。実は大学もプロテスタント系なんですが、恥ずかしながらキリスト教に関しては何にも分かっとらんです、はい。

オーティスの「Amen」は「The Immortal Otis Redding」のB面のラストに入ってます。
アーメンは一応お祈りや讃美歌の最後にいうものなので、突然「エイメン」から始まる歌に最初は驚きましたが、レコードの最後の曲ではあります。そしてこのレコードは死の前に録っていた音源を集めたものです。
S・クロッパーの編集でしょうか・・・最後に持ってきた「エイメン」が何とも・・・


そういえば、十代の頃に流行った Sam&Dave 「Soul Man」も「ソーメン」に聞こえましたね。 関西人は素麺が好きなんでしょうかね。関東はやはり蕎麦ですか? 
オカピー
2020年10月06日 22:29
モカさん、こんにちは。

>オーティスの「Amen」は「The Immortal Otis Redding」のB面のラストに入ってます。

Allmusicに当たりましたら、なるほどその通りでした。
一応編輯アルバムに当たるようですが、未発表の音源を集めたなら、オリジナル・アルバムに準ずる扱いでも良いと思います。まあどちらでも良いですが。

>そういえば、十代の頃に流行った Sam&Dave 「Soul Man」も「ソーメン」に聞こえましたね。
>関西人は素麺が好きなんでしょうかね。関東はやはり蕎麦ですか?

Sam&Dave良いですねえ。ベスト盤を持っています。
個人的には蕎麦を余り食べませんが、確かに関東では蕎麦が人気ですね。
蟷螂の斧
2020年10月08日 19:18
こんばんは。この映画は数年前に見ました。修道院の屋根を直すけど報酬が無し。でも他に行くところもないし。

>今度は院長に伝染したかのように、彼女は最後にポワチエに“有難う”を言う。

シドニー・ポワチエの演技も良かったですが、マザー・マリアを演じたリリア・スカラも良かったです!1983年の映画「フラッシュダンス」で主人公(ジェニファー・ビールス)の良き相談相手であり、ダンスの師匠であるお婆さんハンナを演じた人だと知って驚きました。

>ユダヤ人が、今はパレスチナ人を虐めている

そしてトランプ大統領が・・・。

>どちらも癖が強くて苦手意識ができましたが。

脚本家も歌手も時代によって評価が変わります。

>台風14号

土曜日か日曜日。我らが愛知県は大変な事になるかも知れません。オカピー教授の地方は如何でしょうか?どうかお気をつけて下さい。
オカピー
2020年10月09日 17:51
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>でも他に行くところもないし。

シドニー・ポワチエの主人公は、アメリカ版寅さんでした。教会を作る仕事に便乗して居つきますが、それが終わればデラシネに戻らなければならない。実は理由がなくても居続けたいけれど、落ち着くのもちょっと怖い。

>そしてトランプ大統領が・・・。

あの人は選挙がすべて。ユダヤ人がアメリカ経済において強いので、彼らを味方につけたいという思い。

>>台風14号

現在は当初よりやや南寄りに変わっていますね。降雨量については何とも言えませんので、油断はできないです。風の影響が余りないと良いですが。
蟷螂の斧
2020年10月10日 09:16
おはようございます。昨日はジョン・レノンの誕生日でした。生きていれば80歳です。40歳で非業の死。オノ・ヨーコと出会わずに、ニューヨークにも住まなかったら、あんな悲劇は起きなかったのでは・・・と今でも思います。

>アメリカ版寅さん

言い得て妙です。根無し草。でも困ってる人達を助ける。人情味もあります。

>ユダヤ人がアメリカ経済において強い

やはり商売人の大統領です。

>現在は当初よりやや南寄り

それましたね。ホッとしました。

>人種和合

困った時に助け合う。それが人間らしさです。
オカピー
2020年10月10日 21:39
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>昨日はジョン・レノンの誕生日でした。

僕は、亡くなった日は忘れませんが、誕生日は憶えられません(笑)
蟷螂の斧さんは偉いものです。

>オノ・ヨーコと出会わずに、ニューヨークにも住まなかったら、あんな悲劇は起きなかったのでは

人生はどこでどうなるか解りませんねえ。
「バタフライ・エフェクト」という映画が、時間旅行により一つの不都合を乗り越えると、今度は別の不都合に襲われるという内容でした。
ジョンの場合、映画と違って悲劇を避けられた可能性が高いですが、時代は違ってもいつかどこかで二人は出会う運命だったのでしょう。
蟷螂の斧
2020年10月13日 19:55
こんばんは。昭和の歌謡曲を支えた筒美京平氏が亡くなりました。海外のヒット曲から良い影響を受けて数々のメロディーメイカー。天才だと言われています。筒美先生のご冥福をお祈り致します。

>時代は違ってもいつかどこかで二人は出会う運命だったのでしょう。

そして1980年12月8日の悲劇が別の日に起きてしまったかも?そんな悲しい事を思います。織田信長、坂本龍馬、ジョン・F・ケネディ、ブルース・リー・・・etc.も同じです。
オカピー
2020年10月14日 17:48
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>昭和の歌謡曲を支えた筒美京平氏が亡くなりました。
>海外のヒット曲から良い影響を受けて数々のメロディーメイカー。

そうですねえ。良い曲をたくさん書きましたねえ。
 歌謡曲しか聴かない人は彼(の曲)の面白さが解からない。とにかく、色々な洋楽から拝借をして換骨奪胎、とにかく作曲以上に編曲の拝借ぶりが楽しかった。
 ドナ・サマーを聴いていた人は、河合奈保子の「UNバランス」を聞いて驚いた、というよりニヤニヤしたでしょう。

合掌、

>1980年12月8日の悲劇が別の日に起きてしまったかも?

少し話が違いますが、僕は、あと1秒以下の差の幸運で死なずに済んだのであろうという経験を三回くらいしています。