映画評「無垢なる証人」

☆☆★(5点/10点満点中)
2019年韓国映画 監督イ・ハン
ネタバレあり

WOWOWが韓国サスペンス特集と銘打って4本放映するが、大衆映画にあっては前半笑い(問題なのはギャグであってユーモアではない)後半シリアスというパターンからなかなか抜け出せないことと、130分を超える長い作品ばかりである為、本作一本のみ鑑賞する。法廷ものに自閉症の少女を絡めるというアイデアが面白そうだからである。

サヴァン症候群の傾向を示す自閉症少女ジウ(キム・ヒャング)が、前の家で起きた富豪老人の自殺か殺人かはっきりしない事件を目撃する。後日家政婦もしくは介護士(ヨム・ヘラン)が容疑者となり、大手の法律事務所に勤め始めた中年弁護士スノ(チョン・ウソン)が弁護することになる。
 弁護側が行動の奇妙な彼女に証言させることで裁判員の心証を被告側に傾けようとする一方で、若手検事(イ・ギュヒョン)は人権的配慮もありジムに証言させないように図る。
 その対立を経た後、結局裁判に臨んだジウの証言は無効とされ、被告は無罪放免となるのだが、スノは彼女に証言させる為に無垢な彼女と交流するうちに自分の不純な仕事ぶりに気付いて悩むことになる。

ヒューマニズムを堪能するには最適な作品である。精神医学者ではないので断言しかねるが、自閉症スペクトラム障害を抱える人の描出もなかなか正確であると想像される。自分の世界がある為に他の人との交流が極端に苦手な彼らの狭い世界がよく表現されていると思う。
 そうした人と接すれば接するほど、犯人と分っていても、そこまでは行かないまでも被告に不審な点があっても、弁護して悪を放置することに加担する自分を後ろめたく思う弁護士の心情もよく解る。昔の知り合いである女性弁護士が人権弁護士として奮闘していることとのコントラストがその心情を照らして効果的。

ミステリーとしては、瞬間的に物を捉える能力が健常者とは比較にならないほど正確であり、進行中の会話を聞き取るといった物凄い聴力を発揮するところが興味深い。

全体として、弁護士のヒューマニズム復活やジウの無垢な魂に爽やかな気持ちになる。世評が高いのも理解できる。

が、映画の中で実際に処分されるように、弁護士が弁護する対象を弁護しないのは全く非現実的で、他の多くの部分における現実的な描出の中にあって浮いてしまい、ファンタジーとして理解する分には良いが、この内容では現実的に捉えるしかない以上、人間ドラマとして高く評価しかねるのが現在の僕の立場である。冒頭で指摘した韓国大衆映画の悪癖が殆ど観られないのは良い。

文語に普段触れない人間が題名に文語を使うと変な題名が生れる。本作は文法的には問題ない(近年この手の気取ったタイトルが多い)が、本作に影響を与えたような「母なる証明」は文語文法的におかしいと思ったほうが良い。多分口語で「母である証明」という意味であるはずだが、純粋に文語であるならば「母なるの証明」がより正しく、もっと言うならば「母たるの証明」のほうがベター。尤も「母である証明」というのも口語文章語としては間違いで、正確には「母であることの証明」が正しい。

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