映画評「海軍特別年少兵」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1972年日本映画 監督・今井正
ネタバレあり

東宝8・15シリーズ第7作(最終作)。

1970年代に一度観て、登場人物と同年代だった僕は義憤を禁じ得ず、同時に生まれるのが30年遅くて良かったと安堵の溜息をついたものである。

昭和20年2月の硫黄島。戦闘が一段落し見回っていた米兵たちは倒れている兵隊が15歳くらいの“子供”であることに驚愕する。
 そこから映画は、およそ14歳の少年たちが、神奈川県の武山海兵団に入隊する2年近く前に巻き戻される。彼らは東北の貧農出身で、多く教師である父親や僧侶や周囲の大人たちに言われるまま入隊、スパルタ式の教班長=上等兵曹(地井武男)に鍛えられ、お国の為に命を捨てることを何とも思わない兵隊=年少兵になっていく。

年少兵候補たちの背景が随時挿入され、あるいは教官たちの会話の間から、無垢な子供たちをそうした兵隊たちに仕上げていくことに少なからぬ大人たちが後ろめたさを覚えていることが浮かび上がって来る。これが即ち映画の主題であり、スタッフたちの死んで行った年少兵たちに対する思いである。

一種の反軍映画であるが、本作に出て来る教官たちは相手が子供ということがあるにしても、単なるスパルタ式である者は一人も出て来ない。徹底したスパルタ式の上等兵曹は半端な情けは彼らの為にならないと考えている節があり、林という少年の送金を幾ばくか足しているようであるし、彼が帯剣を失った時も一人最後まで探してやる。林君はこれを苦にして自殺してしまう。上等兵曹は死んだ林君を殴るが、これも彼の一種の情けであろう。愛を以って育てるという少尉(辻萬長)と、見かけほどは違わない。
 そして、方法論こそ違え、死を恐れぬ兵隊に育てるという目的においては二人の間に何の違いもない。後ろめたさは彼らだけでなく、民間人にもあり、本作の語り手である江波という少年の父親(内藤武敏)は、教育者として数多い生徒を年少兵として送り出した後ろめたさに堪えかねて教職を辞し(母親の分析)、事故で死んで行くのである。

社会派と言われる今井正監督は、その肩書の正否に関係なく、本作を実にしっかりした戦争映画にした。これに比べると、ヒロイズムに傾きがちな近年の日本製戦争映画は不真面目である。いかにも戦争の内情を知らぬ者が考える戦争と言うしかない。

クリント・イーストウッド監督「硫黄島からの手紙」で、この映画の日本と正反対の個人主義を学ぼう。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

ナイス

この記事へのコメント

浅野佑都
2020年09月09日 18:07
 ええ、この作品には僕も泣かされましたよ・・。
ローマの昔から、「戦争は老人が始め、死ぬのは若者」です・・。
第二次世界大戦中、屈指の激戦地の硫黄島に関しての書物はけっこう読みましたが、中で、梯 久美子の「散るぞ悲しき」と一通信兵の書いた「十七歳の硫黄島」が印象的ですね。

硫黄島、沖縄戦で実際には、この映画のようなローティーンの特年兵の数は少なかったようで、二十歳前後の招集兵が主力でした。・・。すでに、二十代後半~三十代の歴戦の職業軍人はほとんどいなくなっていたのでしょう・・。

>方法論こそ違え、死を恐れぬ兵隊に育てるという目的においては二人の間に何の違いもない。

子供の憧れや家庭の貧困を利用し、下級将校に仕立て上げ最前線へ送るという、大人が生き残りたいばかりの特年兵制度にはプロフェッサー同様、僕も怒りを感じます。(予科練の場合には対象が大学生なので、彼らは単純に軍国思想だったわけではないでしょうが・・)

>彼が帯剣を失った時も一人最後まで探してやる。林君はこれを苦にして自殺してしまう。

林君を演じたのは、長じて刑事ドラマで茶の間の人気になる中村梅雀だったと思います。
連帯責任を問う軍隊で、天皇から賜った帯剣を失くせば、往々にしてこのような結果になったでしょうね‥。今でも、書類一枚で官僚が命を絶つような事案もありますからね・・。


 総裁選、誰になると思われますか?
菅さんと岸田さんは、阿部(お追従)政権と思われるのでつまらないですね!
オカピー
2020年09月09日 22:19
浅野佑都さん、こんにちは。

>梯 久美子の「散るぞ悲しき」と一通信兵の書いた「十七歳の硫黄島」が印象的ですね。

勉強家ですねえ。僕は戦争映画はかなり観ましたが、それでも邦画に関しては浅野さんに遠く及びません。

>林君を演じたのは、長じて刑事ドラマで茶の間の人気になる中村梅雀だったと思います。

どうもそのようですね。昔から大人だったような雰囲気を漂わせていますが、こんな時代があったと知って有意義(?)でした。

>総裁選、誰になると思われますか?

菅氏でしょう。岸田氏は実に中途半端。僕はかなり前から石破氏(石破氏を叩いて渡る菅氏という風刺漫画が傑作でした)をご贔屓にしていますが、今回も全く望みがない。彼が勝てないようにシステムを調整してしまいましたからね。菅氏には安倍氏ほどの強い支持層(彼には「美しい国へ」という著書によるバックボーンがありました)がないと思われるので、前政権よりかなり脆弱でしょうね。