映画評「幽霊西へ行く」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1935年イギリス映画 監督ルネ・クレール
ネタバレあり

この作品を皮切りにドイツの敗戦まで10年間ルネ・クレールは英米で映画を撮っているが、この作品が一番上出来だろう。35年ぶりくらいの再鑑賞。

18世紀。スコットランドのグローリーの城主が宿敵マクラガン家に侮辱されて憤死、息子マードック(ロバート・ドーナット)が跡を継ぐが、ぐうたら息子で父親の無念を晴らせないまま戦争で呆気なく死に、その為に煉獄に留まり、幽霊として城を彷徨うことになる。
 200年後子孫のドナルド(ドーナット二役)は借金に追われ、たまたま訪れたアメリカ実業家マーティン(ユージーン・パレット)に売ることにする。

この序盤でクレールらしいとぼけた面白さが一番発揮されているのは、あたかも債権者たちを侍従のように働かせるところ。現実にはあり得ないにしても、彼らも借金を返してもらいたいからそれなりに働くわけで、結構説得力をもって見せ切ってしまう。

マーティンは城をばらしてアメリカで再構築するが、その為幽霊もアメリカに渡ることになり、好色な幽霊が実業家の娘ペギー(ジーン・パーカー)に色目を使い、結果的にペギーだけでなく彼女に好意を覚えるドナルドを翻弄する。

このロマンティック・コメディーの部分も最後まで実にうまく繋がっていく。エリック・コウンなる人の小咄を脚本化したロバート・シャーウッドの貢献度が高いと思う。

船中からアメリカへ渡ってからがいよいよルネ・クレール調と言うべき場面が多くなる。
 例えば、ニューヨークのギャングと官憲の撃ち合いを見た幽霊が昔の戦争の方がまだ良いと思って閉じこもり姿を見せなくなるという米国風刺の一方で、マーティンのこてこての商売っ気にドナルドがうんざりするところは経済至上主義への皮肉である。「自由を我等に」に近い皮肉で、面白可笑しく軽快に展開し、さりげなく扱うから嫌味にならない。

マーティンのライバル会社の社長が実はマクラガン家の子孫というのも気が利いてい、幽霊の仇討と現代のロマンス部分とを同時に解決する幕切れが鮮やか。

本作が嚆矢と言えるかどうか定かではないが、この後幽霊映画(と「リリオム」流の天使映画)が戦後にかけて流行することになるのは事実。因みに、僕は「幽霊紐育を歩く」(1941年=「天国から来たチャンピオン」のオリジナル)と本作とを混同してしまうのだ。

ナチスの台頭はドイツ圏だけでなく、フランスの映画人をも英米に逃走させた。フランス人は多く戦後に帰って来るが。

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この記事へのコメント

モカ
2020年09月29日 19:20
こんにちは。

これは割と最近観ましたがあまり覚えていません。
9点という先生のお墨付きがあるならもう一度観なおさないといけませんね。
そもそもR・ドーナット目当てで観たのがいけなかったのかもしれません。(ドーナットがあまり素敵じゃなかったか?)
10代の頃、A・J・クローニンの「城砦」を読んで、いつか映画版を見たいと思っていたので、やっと見ることができた時にドーナットと「城砦」の主人公を同一視してしまってファンになってしまったのでした。
「三十九夜」や「チップス先生」は好きなんですがこれは印象が薄かったです。 先生の解説を頭にたたき込んで再挑戦いたします。
オカピー
2020年09月29日 22:45
モカさん、こんにちは。

>これは割と最近観ましたがあまり覚えていません。
>そもそもR・ドーナット目当てで観たのがいけなかったのかもしれません。

いかにも英国っぽいドーナットとフランス流の飄々とした作劇がモカさんの感性には合っていない・・・と感じられたのかもしれませんねえ。

>ドーナットと「城砦」の主人公を同一視してしまってファンになってしまったのでした。

ああ、確かにあの映画はなかなか良かったので、その気持ち解ります。ビデオに残してあったような気がしますが、どうかなあ。
モカ
2020年09月30日 13:53
こんにちは。

>いかにも英国っぽいドーナットとフランス流の飄々とした作劇がモカさんの感性には合っていない・・・

 なるほど、言われてみればそういう事ですね。

「城砦」は映画で観たときはあまりに端正な二枚目なので、少し原作からのイメージとは違うように思いました。
 嫌味のない、少し薄口の男前ですね。

 もう少し後の時代に再映画化されていたら、トム・コートネイあたりが適役でしょうか。
 苦労人をよく書いたクローニンの作品には苦労人が似合うトム・コートネイ(貧相な体で長距離走者になった孤独な苦労人の印象が強くて)ですか・・・
オカピー
2020年09月30日 21:26
モカさん、こんにちは。

>苦労人をよく書いたクローニンの作品には苦労人が似合うトム・コートネイ

あはは。名は体を表すってか(外国人ですけどね)^^
 冗談はさておき、クローニンは実は読んだことがありません。「城砦」は読むべき本ということになっていましたが、長らく放置しております。
 トム・コートネイと言えば、「長距離ランナーの孤独」はそろそろ再鑑賞しても良い頃かな。

ところで、ニーナ・シモンの Here Comes the Sun には Silk and Soul をカップリングすることに。ところが、肝心の前者がアルバムとして構成されていず、色々なところから集めました。一曲"New World Coming"という曲だけ音質が全く合わず、合いそうなものを苦労して探しました。ここにも苦労人あり。
モカ
2020年10月01日 11:32
こんにちは。

>ここにも苦労人あり。

 完璧主義者ゆえの苦労でしょうか?
 
 フィリップス時代のアルバム「I Put A Spell On You」とコルピックス時代の「Fobidden Fruit」がfull album でupされていてどちらもお勧めです。
 「I Put A Spell On You」には表題曲と「Feeling Good」という有名な2曲が入っています。
「Fobidden Fruit」は隠れた名作でしょうか。浅川マキがこのアルバムから2曲カバーしています。 浅川マキはライブでよくビリー・ホリデイの事は話していましたが、実はニーナ・シモンのレコードを持っている写真もあり、ビリー以上に影響を受けていたように思います。このアルバムは何故か日暮れ時のドライブで聴くのが最高です。お試しください。

 「長距離ランナーの孤独」まだ取り上げておられなかった? チャーリーズエンジェルを観ている場合じゃありません!(笑)
 

 
オカピー
2020年10月01日 22:03
モカさん、こんにちは。

>完璧主義者ゆえの苦労でしょうか?

That's right!
 音楽に関して言えば、「サージェント・ペパーズ」故の完全主義と言って良いのかも。トータル・アルバムとしての側面が強くなった「ラバー・ソウル」や「リボルバー」でさえ、英米で編集の差があったのに、曲が繋がっているこのアルバムでそれを許さなくなった。こうなると曲順は勿論、曲間の秒数まで製作意図になってくるわけ。このアルバムの評価が高いのはそういうところもあると思う。世界で同じタイトルのLPは同じ内容になった。

オリジナルを持っていないことには曲間の秒数は解らないので、余程変てこ(たまに前後の音なしの部分が異様に長いものあり)なもの以外は受け取ったままにすることにしましたが。

>「I Put A Spell On You」とコルピックス時代の「Fobidden Fruit」が
>full album でupされていてどちらもお勧めです。

了解しました^^
他に作りたいものがいっぱいあるので、少し後になりそうですが。

>「長距離ランナーの孤独」まだ取り上げておられなかった?
>チャーリーズエンジェルを観ている場合じゃありません!(笑)

どうもすみません(笑)
なるべく良い画質で観たいと思っていたもので。画質を選ばなければ、家のライブラリーにあると思います。
モカ
2020年10月02日 22:47
こんばんは。

>サージェント・ペパーズ

  ビートルズのアルバムの中で一番ターンテーブルに載った回数が少ないんじゃないかと思います。 無条件に好きだったビートルズとの間に微妙な距離が出てきたのもこの頃でしたか・・・
 何だかんだ言ってもまだ幼稚な中学生でしたしね・・・
 ホワイトアルバムで少し挽回しましたが。
「サージェント・ペパーズ」を目にするたびに「ローリングストーン誌が選ぶ歴代第1位のアルバムが分からんとは感性の鈍い奴じゃ」と言われているような・・・気はしませんけど(笑)
 ま、音楽やミュージシャンに順位をつけるのは好きじゃないです。
 

 「長距離走者の孤独」当地の図書館にはありました。
 そちらにもあるんじゃないですか? 
 ついでに「城砦」も予約入れてしまいました。


 
オカピー
2020年10月03日 18:45
モカさん、こんにちは。

>音楽やミュージシャンに順位をつけるのは好きじゃないです。

個人的に順位を付けるのは、僕は意味があることだと思っています。例えば、同じ位の場合にどちらを上にするか下にするかで、傾向などが解かったりして面白い。映画の個人のベスト10もそんなつもりでやっています。

>「長距離走者の孤独」当地の図書館にはありました。

群馬県の全図書館に当たったところ、本はありますが、映画版がありません。本は自分でも持っていますから、いつでも読めるのですが。