映画評「テルアビブ・オン・ファイア」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年イスラエル=フランス=ベルギー=ルクセンブルク 監督サメフ・ゾアビ
ネタバレあり

上に記したように合作映画だが、実質的にイスラエル映画。嫌味のない風刺喜劇で、小傑作と言って良い。パレスチナとイスラエルの関係を知っていて、かつ、関心があれば面白く見られると思う。

昨年トランプ大統領が強引に米国大使館を置いてエルサレムをイスラエルの首都扱いにしてしまったが、エルサレム(東エルサレム)にはパレスチナ人も居住している。これが本作を楽しむ最低限の知識だが、尤も映画を観ているうちに大体解って来るので、事前に知らなくても大して問題ではないだろう。

エルサレムに住むパレスチナ青年カイス・ナシェフは、パレスチナの叔父がプロデューサーをするTVメロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」でヘブライ語の言語指導をしているが、ある時検問所の軍司令官ヤニブ・ビトンに脚本を見せたことから、脚本家と勘違いされる。司令官は、番組の大ファンという妻が満足するようにあれやこれや指示をし、その通りにならないとへそを曲げて色々嫌がらせをする。
 本当の脚本家が周囲による度々の変更に気を悪くして辞任、青年がピンチヒッターとして脚本家に昇進、司令官の要求を呑みつつ、時には脚本家ペアのように意見を交換する。しかし、保守的なスポンサーのゴキゲン取りが至上命題の叔父が何としてもルブナ・アザバル演ずるヒロインの女スパイにイスラエル軍人を殺すことを要求するので、主人公は、ヒロインと軍人が結ばれることを指示する司令官との間で板挟みになり、ピンチを迎える。

というお話で、まず興味深いのは、強面のイスラエル軍人たる司令官の方がヒロインと軍人を結ばせようとする点。即ち、パレスチナとイスラエルの和合を求めるわけで、恐らく風刺喜劇たる本作の立場はここにあるのだろう。しかし、映画は現実主義的に、脚本家となった主人公に第三の幕切れを用意させるのである。
 映画として安全パイを取ったとも言えるが、主人公が自らの危機を回避する至高のアイデアを披露する。政治風刺と個人の奮闘劇がうまく絡み合ったと思われる所以で、僕が一番買いたいのは、主人公と司令官との関係がスパイ・メロドラマの筋書きに影響を与えると共に、このドラマが主人公や司令官の私生活に影響を与えるという影響の二重奏の面白味である。
 特に恋愛に疎い主人公が司令官の知恵を拝借、ドラマが昔別れたガールフレンドとの仲を復活させもする辺り楽しく、全体として我が邦の三谷幸喜の喜劇を思い起こさせる。彼の作品よりあっさりと見せてくれる感じがあり、好印象。

七月に観た三谷監督作「記憶にございません!」は一般論的に政治風刺はしているが、長期政権への風刺は殆どなかった。他国と文化が違うと言えばそれまでだが、つまらないですな。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント