映画評「サンセット」

☆☆★(5点/10点満点中)
2018年ハンガリー=フランス合作映画 監督ネメシュ・ラースロー
ネタバレあり

オーストリア=ハンガリー帝国の政治体制と第一次世界大戦の発端を知らないと本作は多分解らない。

世界大戦発端一年前の1913年。妙齢美人ヤカブ・ユーリ(ハンガリーでは日本と同じで姓⇒名となっているので、ヤカブが姓)が、今は亡き(事件で亡くなった?)両親の創設したブダペストの高級帽子店に雇って貰おうとやって来る。店の人間は採用しようとしないが、現在の店主ヴラド・イヴァノフ(彼はスラブ系なので、イヴァノフが姓)は下へも置かない態度は取ってくれる。
 結局同地に居座るうち、彼女が知らなかった兄がアナーキストのグループを先導してターゲットの貴族を殺し、帽子店も焼こうとしていることが判って来る。同時に、顧客をオーストリア皇妃であったり、貴族とする帽子店は彼らと少々いかがわしい取引をし、容貌の優れた店員を競わせて選ばれた者を差し出しているらしいことも判明、アナーキストの活動もそれと関係しているらしい。
 兄を探し出そうとして見つけ出せない閉塞感の中ユーリが男装して街に繰り出すと、暴動者が活気づき、街は火の海になっていく。暫くして塹壕の中に相変わらず男装している彼女がいる。

帽子店のデザイナーになろうとして結局アナーキストの先導者(扇動者か?)になってしまう、というお話だが、初監督作「サウルの息子」が見応えたっぷりだったネメシュ・ラースローにとっては、意外ではない展開なのであろう。
 つまり、帽子店にやって来るのは親のない彼女にとって仕事探しというより、自分のアイデンティティを再獲得する為であり、存在を知った兄の行方が解からない為そのアイデンティティに同化することでその目的を達成しようとする。言わば必然なのである。恐らくは二重帝国と言いながら実質的にオーストリアに隷属していたハンガリーに彼女のアイデンティティ獲得の旅を重ねているだろう。

このアナーキスト連中が実行するわけではないが、この作品に出て来る皇太子夫妻は翌年ボスニア人により暗殺され、世界大戦が起こる。オーストリア(ハプスブルク家)が欲を書いて汎ゲルマン主義などと言って版図を広げた結果の悲劇でもあり、結局大戦により二重帝国は終焉するのである。歴史ミステリー的な印象も濃厚。

しかし、展開の一々が解りにくく、どう気持ちを映画に集中していいのか解らず退屈することは必定。幸い、この監督は、背後からバストショットで主人公を追うという独自のカメラワークを駆使するので、独自の酩酊感を覚え、同時に何のためにこのカメラワークなのか考えることができ、映像と主題・物語の関係性を探るのが好きな僕は眠くはならない。お話でしか映画を観ようとしない人はきっと眠気を催すでしょう。

前回の「サウルの息子」ではこのカメラにより主人公がナチスの命令により動かされているように感じる効果があると思ったが、今度は逆にヒロインの意志が強く感じられる。この差は実に面白い。
 で、最後に雨降る塹壕にカメラが入っていき、最後に浮かび上がるのは彼女の正面の顔。背後と正面というこの対照は実に映画言語的に能弁である。その前の場面でも正面と背後を使い分け、映画言語としてこの最後の伏線にしていたように思う。

しかし、話は凡そ理解できたと思う一方、ヒロインの行動の意味がよく解らず、周囲の言動もただただ謎めき、観客たる僕が混乱する箇所が甚だ多い。通俗千万なのも困るが、余りに高踏的なのも困る。

サイレント映画に「サンライズ」(1927年(という秀作がある。本作を以って対になりました。「屋根の上のバイオリン弾き」と併せて観よう^^

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