映画評「アマンダと僕」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2018年フランス映画 監督ミカエル・アース
ネタバレあり

採点以上にこのフランスのドラマ映画は良い。多くの人に見てほしいが、この手の、テクニカルでなく、そこはかとなく情感が込められた作品にはこういう採点が上品であると思うのだ。

パリで旅行者や引越しの人をコーディネートするのを主な生業としている24歳の青年ダヴィッド(ヴァンサン・ラコスト)は、7歳の娘アマンダ(イゾール・ミュルトリエ)を一人で育てている高校教師の姉サンドリーヌ(オフェリア・コルプ)と仲が良く、間もなく訪れる夏休みに、幼い時に別れて以来殆ど会ったことのない英国人の母親(グレタ・スカッキ)の住む英国でウィンブルドン・テニスを三人で観ることにしている。
 その間に彼は引っ越してきたレナ(ステイシー・マーティン)という美人と仲良くなるが、そんなある日公園で無差別テロが勃発、友人と免許取得祝賀会をやっていた姉が巻き込まれて死に、レナも負傷する。姉を失った悲しみの後、突然孤児同然になったアマンダをどうしようかという悩みが湧き上がる。24歳の彼には子育ては難しすぎるが、伯母の家に預けるなど往来するうちに彼に親しんでくるアマンダを養子にしようという気になって来る。ショックを和らげようと田舎の実家に戻り親の庇護の下に暮らすレナと会うと益々そんな気になり、一緒に育てないかとプロポーズめいたものをする。
 7月ダヴィッドとアマンダは英国へ行き、まず母親に会う。ぎこちないが悪くない再会を果たす。ウィンブルドンの試合を見ながら、応援している選手がマッチ・ポイントを取られると、アマンダは「エルヴィスはビルを離れた」という謎めいた言葉を吐き、ボロボロに涙を流す。その言葉は母親が教えてくれたアメリカの諺で「もう終わった」の意味。ところが、選手はそこから物凄い巻き返しをし、アマンダの微笑むのである。

この幕切れに余韻がないと仰る人がいる。びっくりだ。
 母親の死の直後でさえ懸命に涙をこらえたアマンダが、テニスの一試合にぼろぼろの涙を流す。その心は母親の言葉を思い出させ、母親への思いと共に、自らの人生の先行きをこの試合に重ねてしまったということであろう。しかし、ダヴィッドが「まだ解らない」と反応した通り選手は猛烈に巻き返す。彼女にとってこれは若い叔父さんが自分と末永く暮らしてくれるという希望と重なる。彼女の涙とその後の笑顔に僕は非情に感銘を受けた。二人に幸多かれと祈らざるを得なくなる。彼女の笑顔がもの凄い余韻を醸成する。
 その前のレナのメールはダヴィッドにとっても希望が持てる。二人ではなく三人に幸多かれと言うべきでしたな。

初めて観るミカエル・アースという監督のタッチは、エリック・ロメールを思い起こさせる。突然の無差別テロによりちょっと社会派めいたどころが出て来て一旦ロメールっぽいという印象から離れるが、再び彼らの生活に集中するとその感覚に再び近づいてくる。きっとロメールは彼が影響を受けた監督なのだろう。

先ほど映画関連のサイトを検索すると、やはりアース監督はロメールをご贔屓にしているそうだ。僕の勘は当たりましたな。

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この記事へのコメント

モカ
2021年03月24日 22:22
こんばんは。
ありました! すいません、気付きませんでした。
無印良心的な良い映画で、仰る様にこういうのは7点が妥当で、ささやかだけれど役に立つ映画ってやつです。
確かにロメールタッチでした。特にあのガールフレンド役の女優さんはロメール好みですね。 グレタ スカッキ登場にはビックリ… 分からなかったです。
これがロメール風だとしたら、もう1つのお勧め、「ベイビー ブラザー」はケンローチタッチでした。 それぞれお国柄が出ています。
オカピー
2021年03月25日 21:01
モカさん、こんにちは。

>すいません、気付きませんでした。

最近本ブログ内にある検索エンジンが全く役に立たない。以前から問題はあるにしても最近は全くひどい。題名だけでなく監督や俳優で検索しても、チェックしたい作品の9割方が出て来ない。

>ささやかだけれど役に立つ映画ってやつです。

素敵な表現。検索エンジンは役に立たないけれど、この映画は役に立ちました^^v

>グレタ スカッキ登場にはビックリ… 分からなかったです。

Me too.
もうグレタ・スカッキを知っている人も少ないでしょう。
「グッドモーニング・バビロン!」「熱砂の日」また観たいな。

>「ベイビー ブラザー」はケンローチタッチでした。それぞれお国柄が出ています。

今日観た英国映画「ワイルド・ローズ」もちょっとローチぽかったかな?
モカ
2021年03月26日 13:28
こんにちは。

>ささやかだけれど役に立つ映画・・・素敵な表現。

  これはレイモンド・カーヴァーの短編「ささやかだけれど、役にたつこと」から拝借しています。
 原題「A small, Good thing」 村上春樹訳
悔しいけれど(悔しがるレベルかというツッコミは心にお納めください)訳が上手いです。 
 R・アルトマンの「ショート・カッツ」の中の一番メインのお話だったように記憶しています。( これ以外は忘れました。) パン屋にケーキを注文していたのに子供の不慮の事故で取に行けなくなったら・・・というお話だったと思います。 
オカピー
2021年03月26日 21:17
モカさん、こんにちは。

> これはレイモンド・カーヴァーの短編「ささやかだけれど、役にたつこと」から拝借しています。
>原題「A small, Good thing」 村上春樹訳

さすがに作家は凄いなあ。“役に立つ”はなかなか出て来ない。

中学2年の時に
He is a good teacher.
という英文を訳す問題があり、
「彼は良い先生です」
と訳したら、一点引かれ、満点を逃しました。先生曰く、
「goodをいつも良いと訳すのではダメだよ」と。
中間・期末試験では3年間満点を通した僕も、通常の試験では何度か1点くらい引かれることがありました。ちょっと苦いが良い思い出デス。