映画評「人間失格 太宰治と3人の女たち」

☆☆★(5点/10点満点中)
2019年日本映画 監督・蜷川実花
ネタバレあり

2010年に太宰治の自伝的小説「人間失格」が映画化されているが、9年後のこれは戦後の自堕落な太宰本人の伝記映画。映画は“実話を基にしたフィクションである”と予防線を張っているが、少なくともお話の経緯は事実そのものである。
 去る春に「斜陽」を再読したばかりなので、モデルになった太田静子(沢尻エリカ)が出て来た時にピンと来た。実はモデルどころか、本作でもある程度示されている通り、あの作品の中でヒロインにより書かれた日記は静子の日記のほぼ丸写しらしい。つまり本作の中で彼女が主張するように「斜陽」は静子との共著とすべきなのである。

静子の利用に成功したものの、妻・美知子(宮沢りえ)に遅れて静子が妊娠すると彼女から遠ざかり、今度は、恐らくこれも作品の肥やしくらいのつもりで、"何もない女性”山崎富栄(二階堂ふみ)と懇ろになる。富栄は太宰が肺浸潤の症状を発すると懸命に看護をし、自殺癖のある太宰と共に死ぬことを念願するようになり、1948年6月13日彼女の強い押しで二人は玉川上水で心中する。残された妻美知子は取材陣の前で明るく洗濯物を干し始める。

映画サイトへの投稿で、恋愛映画で中身がないとか、不倫は悪だという文章を読むと悲しくなる。
 一般論として不倫は大した問題ではない。但し、美知子のような賢妻で特段の問題のない伴侶を持ちながら愛人を持つ太宰は責められても仕方がないが、まあ彼は女性関係を肥やしにするタイプの作家であるし、一般人とは違う。また、恋愛は人間にとって重要なことであるから、恋愛映画=中身がないというのは何と狭量な映画観・人間観でありましょう。

映画については、お話は、毒舌の坂口安吾(藤原竜也)や若くて熱い三島由紀夫(高良健吾)が出て来てたりするので、その辺の知識があれば世間で言われるほどつまらなくはない。「斜陽」や「人間失格」の成立過程もかなり解るから、太宰に関心があるがさほど詳しくない人には興味深く見られるのではないか。
 これをごく一般の人生ドラマと見ては面白く見られるものも見られない。アプローチを間違えてはいけない。

ただ、監督が原色と美しい花を多用する蜷川実花ということで、前述した「人間失格」の荒戸源次郎と同様に、華美に過ぎるのが不満である。敗戦直後の人間も何もかも荒廃した感じが希薄になってしまい、些かテーマと齟齬する印象を禁じ得ない。虚飾を意図し、敢えて華美に見せたのかもしれないが。

本作で美知子が産んだ娘が作家となる津島佑子。今日の東京新聞の書物欄(文芸欄とも違う)に彼女の娘つまり太宰治の孫娘・石原燃(いしはらねん)が写真付きで紹介されていた。目元に太宰の面影がある。

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この記事へのコメント

モカ
2020年08月08日 17:33
こんにちは。

太宰治は昔から読まず嫌いというより何故かまるで興味の湧かない作家の一人です。 
津島祐子と太田治子はそれぞれに物書きになりましたが、純文学系の津島さんは太田さんに較べるとあまり世間一般に露出することなく、書き続けてもう鬼籍に入ってしまわれましたね。
太田治子はエッセイストで婦人雑誌なんかによく登場していましたね。
昔「夜の光に追われて」を読みましたが、それはもう重い読書でした。 息子さんを小さいうちに亡くした体験と古典の世界とを行ったり来たりする、読み終えるのに物凄いエネルギーのいる作品でした。 お読みになりましたか?
事実かどうかは分かりませんが息子さんは確か浴槽で亡くなっていたとか・・・・
邪魔が入りました。暗い話で終わります。すいません。ではまた。

オカピー
2020年08月08日 22:46
モカさん、こんにちは。

>太宰治は昔から読まず嫌いというより何故かまるで興味の湧かない作家

そうですか。太宰は短編が得意で、一人称のひねくれた内容のものが多いので、面白いと思いますが。

>純文学系の津島さんは太田さんに較べるとあまり世間一般に露出する
>ことなく、書き続けてもう鬼籍に入ってしまわれましたね。

新聞の文芸欄によく取り上げられるので、僕には津島佑子のほうがなじみ深いです。と言いつつ、まだ彼女たちを読むところまで到達していないのですが。全部読むことにした芥川賞もやっと70年代に入って来たばかり。

>昔「夜の光に追われて」を読みましたが、それはもう重い読書でした。

(頭の中に)メモしました。後で読みましょう。

>事実かどうかは分かりませんが息子さんは確か浴槽で亡くなっていたとか

Wikiには呼吸発作で死亡とあります。そのせいで浴槽で亡くなったのかも?
2020年08月09日 09:02
蜷川実花のあの絵のかんじは、私には子供の頃読んでいた少女マンガ雑誌を思い出させるのですね。少女マンガの場合は華やかだけど日本的キッチュ感があって、それがこちらの庶民的な感覚を慰撫してくれていいというかね、でも、映画で見せられるとちょっとうっとうしいかんじもするのです。
浅野佑都
2020年08月09日 21:09

蜷川実花の作品については、僕は「評価せず」とさせていただきたいです(笑)
同じ原色を多用する寺山修司の作品群のようなセンスを全く感じないですね・・。一言でいえば"幼い”!
なんとなくですが、サディスティック・ミカバンド解散後に加藤和彦がソロで出した「ヨーロッパ三部作」のデザイン金子国義の絵みたいな世界を描きたいのか。という気がしますが・・。



太宰治の作品は、常に「未完成」だと思います(三島由紀夫が言っていたように・・)なにか、、あと少し足りない。
文章は上手いですが軽いでしょうね。
太宰研究で有名な奥野健夫は、「太宰の小説は、読者への手紙」と言っています。
訴えかけるような文体が読者をして魅力的に映るのでしょう‥。でなければ、さしてイケメンとも思えぬ太宰が、机に頬杖ついただけで女性がホイホイついて来るわけがない(笑)

芥川龍之介とも比較されますが、、芥川が一文に十行くらいを入れ込んでいるのに比べ、彼の一文は一文でしかない。
永遠に未熟であるというのは、女性にとって一面、魅力なのでしょう。
オカピー
2020年08月09日 21:48
nesskoさん、こんにちは。

>蜷川実花のあの絵のかんじは、私には子供の頃読んでいた
>少女マンガ雑誌を思い出させるのですね。

少年マンガ雑誌の代りに数年間少女マンガ雑誌を読んだ僕には、その感じが解ります。言葉で説明すると馬鹿がばれるので、敢えて言いませんが(笑)

>でも、映画で見せられるとちょっとうっとうしいかんじもするのです。

そう思います。馬鹿がばれるので…(以下省略)。
オカピー
2020年08月09日 22:28
浅野佑都さん、こんにちは。

>蜷川実花の作品については、僕は「評価せず」とさせていただきたいです

写真の延長で、映画としては物足りないところが多いのは確か。彼女の今までの作品で、本作が一番その特徴と合っていないです。しかし、物語は案外退屈ではなかった。太宰さまさまでしょう。

>太宰治の作品は、常に「未完成」だと思います
>なにか、、あと少し足りない。

そんな感じがしないでもないです。短編では“よくこんな変なお話を考えるな”といった感じで面白いが、空虚感が覚えることが多い。

>文章は上手いですが軽いでしょうね。

上手いですね。僕は漱石、荷風、太宰の文章が好きです。

>太宰研究で有名な奥野健夫は、「太宰の小説は、読者への手紙」と言っています。

行間に読者を強く意識した、甘ったれた感じがありますね。こんな作家は他に殆どいないでしょう。

>永遠に未熟であるというのは、女性にとって一面、魅力なのでしょう。

モカさんは、そこがダメみたいです。
モカ
2020年08月10日 13:04
こんにちは。

>永遠に未熟であるというのは、女性にとって一面、魅力なのでしょう。

 モカさんは、そこがダメみたいです。

 そういう訳でもないんですよ。(ここから、真面目な切り返しです。もう毎日暑くて頭が回りませんので、洒落たことの一つも浮かんできませんのです。)
 
 実際、ダメと言えるだけのネタの持ち合わせすらないのです。
 小学校時代に「走れメロス」を読んだのと、例の頬杖写真と、玉川上水心中くらいしか情報を持っていませんが、とにかく興味がないとしか思えないんです。 縁がないんですね。
 最初の出会いが「走れメロス」というのが悪かったかな、という気もしますが・・
 そういう意味では浅野さん押しの芥川のほうが、最初の出会いの「蜘蛛の糸」でちょっと脅されて萎えたものの、同時期に読んだ「蜜柑」「トロッコ」でグイっと掴まれてしまいました。
 初対面の印象は大事ですね。初めて会ったその日からです!(このネタ関西限定ですかね? ((´∀`))

 余談ですが何年か前のネットニュースで中学生が自由研究かなんかでメロスの走行時速を割り出したとありました。
 結論はメロスはまともに走ってなかった、と。
 「ちょっとは走れよ、メロス」(笑)
 

 

オカピー
2020年08月10日 22:04
モカさん、こんにちは。

>最初の出会いが「走れメロス」というのが悪かったかな、という気もしますが・・

敢えて言いませんでしたが、そんな感じを持っていました。しかし、「走れメロス」は太宰にしては例外的に優等生的な作品。クイズの定番にもなっていますね。
 女性を主人公にした一人称小説が多いのは、やはり女性遍歴の多さのなせるわざかなあとも思います。

>初めて会ったその日からです!(このネタ関西限定ですかね? ((´∀`))

うん? 何かのコピーですか?

>「ちょっとは走れよ、メロス」(笑)

こういう子供は大物になる(かも)^^
2020年08月11日 20:51
走れメロスは最後のオチがなかなかよくて
太宰治はああいうところがうまいなあとは思いますね。
個人的には、あの文章の独特のリズム感みたいなのが合わなくて
あまり数は読んでないんですが、
そういう個人的好き嫌いの前に、うまいなあと認めざるを得ないうまさがある。
三島由紀夫とはそこがちがいますね、小説はうまいですよ。
でも、極私的には三島由紀夫を偏愛しております、とにかく私はこれ好きよ!ってね😉

オカピー
2020年08月11日 22:13
nesskoさん、こんにちは。

>あの文章の独特のリズム感みたいなのが合わなくて

彼の作品は、超口語という感じですかね。自身を相対化するような、他の純文学作家の一人称とは違います。

>極私的には三島由紀夫を偏愛しております

三島由紀夫の文章も僕は好きです。人気作家は、やはり人気を得るだけのものがありますね。本作で二人が対峙する場面があり、それが示すように、太宰とは人間的に極めて対照的ですよね。