映画評「真実」(2019年)

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019年日本=フランス=スイス合作映画 監督・是枝裕和
ネタバレあり

前作「万引き家族」でカンヌ映画祭のパルム・ドールを受賞した是枝裕和監督の新作で、昨年カンヌのオープニング作品に選ばれるという名誉を得た。1960年にブリジット・バルドーが主演した「真実」という作品があるので、題名の後に括弧をつけた。

序盤はイングマル・ベルイマンの「秋のソナタ」風で、アメリカで脚本家をする娘リュミ―ル(ジュリエット・ビノシュ)が、新作「母の記憶」という作品に臨む大女優である母親ファビエンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)の家に、夫ハンク(イーサン・ハント)と娘シャルロット(クレマンチーヌ・グレチエ)を伴ってやって来る。母親が出版する自伝を祝するのが大義名分だが、母娘にはちょっとした確執があるのでそう単純ではない。実際に製本された本を読んでみると、娘に対する扱いを偽り、尊敬する叔母である今は亡き女優サラに関する記述もないことに怒る。

ベルイマン作品では確執特に娘の不満は深まるばかりなのだが、本作は違う。
 ジュリエットが母親が撮影するスタジオを訪れ、サラの後継者と噂される新進女優マノン(マノン・クラヴェル)と会話する。カトリーヌも馬鹿に仕切っていたマノンの実力を知るなどして、新進女優を支点とするかのようにして、互いに接近していくことになる。

かく記すほど明確な起承転結はないものの、おおよそこんな話と解釈して良いだろう。外枠的な理解として、メタフィクションと言って良いのではないか。実際、聞くところによると、この映画の撮影時における大女優カトリーヌ・ドヌーヴの態度はこの映画の女優そのものだったようで、脚本をよく変えると言われる是枝監督はそれにより本をいじったところがあるかもしれない。
 そして、この映画のSF的な劇中劇は、宇宙に出ている間年を取らない母親と、7年ごとに帰って来る度に成長しやがて老婦人になっていく娘との確執の話であり、これがファビエンヌとリュミ―ルの心理に影響を与えていく(ファビエンヌは母親よりずっと身体的に年上の娘を演ずることで、娘の気持ちに接近するようでもある)わけで、現実部分を含めれば三つの層が作品を構成する、と僕には思えて来る。

タイトルはファビエンヌが発表する本の名前であるが、人生における或いは映画における “脚色” の反語として置かれている。人生における“脚色”には意図した、あるいは深層心理的な記憶違いがあり、母親が学芸会に来てくれなかったという娘の記憶は間違いと判明する。この事実の確認も二人が接近する原因となるが、この和解には多少の演出が入っている。娘は孫娘を使って(演技をさせて)母親を喜ばすのである。事実上のマネージャーのような執事の引退宣言もあるいはファビエンヌを動かす作戦だったのかもしれない。

家族の映画であるが、“真実” と “脚色”の狭間で揺れ動く人生を哲学的に論じた映画として面白く見られる。少しいじるとウッディー・アレンになるような気もしてくる。

女優の前夫ピエールと彼の名前を娘がつけたカメの関係が寓話的で面白い。ホームレスのようなピエールが突然現れると年寄のカメは消える。ピエールが消えるとカメが現れる。人を変身させることができる魔女と仇名で呼ばれる女優は朝出て行ったと言うが、両者は同時にいたことがないわけで、人間とカメのピエールが同一と考えると愉快だ。真実と脚色の寓意か?

この映画の内容とも関連するが、是枝監督の俳優に演技させていないような、ごく自然にさせているような演出が絶妙。映画の演技指導としてこれ以上の映画的リアリティはないのではないかと感心させられるのである。セミ・ドキュメンタリーの監督は即興演出を好む。しかし、即興演出には独自の間がある為に寧ろ映画的リアリティを損ねると僕は考えるのだが、彼はこのタイプの監督にありながらその陥穽に陥らない。是枝監督の凄いところはこれに尽きると思う。

カトリーヌ・ドヌーヴは身体に貫禄がついても顔のイメージが余り変わらない。コンスタントに作品を見ているせいもあるのだろうけど。

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この記事へのコメント

2020年08月30日 07:50
ドヌーヴさん、恰幅がよくなってしまいましたが、長年の活躍は尊敬します。
NHKの製作ドキュメンタリーも見ましたが、映画同様、大女優然としていましたね。
オカピー
2020年08月30日 14:17
ボーさん、こんにちは。

>ドヌーヴさん、恰幅がよくなってしまいました

松坂慶子は、日本のカトリーヌ・ドヌーヴ(最近の体型が)
二人ともスレンダーだったのになあ。

>NHKの製作ドキュメンタリーも見ましたが、映画同様、大女優然としていましたね。

むむっ、観なかった。しかし、大女優然云々については、そんな話が色々なところから漏れ聞こえてきます。