映画評「毒薬と老嬢」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1944年アメリカ映画 監督フランク・キャプラ
ネタバレあり

一度は確実に観ているが、二度目か三度目か判然としない。戦前の本塁打王フランク・キャプラの喜劇(笑劇に近い)で、好悪を別にして相当な傑作である。

金髪美人プリシラ・レインと結婚したのかしていないのかよく解らない演劇評論家ケイリー・グラントが結婚報告の為、オールドミスの叔母二人ジョセフィン・ハルとジョーン・アデアの家を訪れ、棺桶状の箱に死体を発見してビックリ。叔母二人に問うと、孤独な男性を救う(一種の安楽死か?)為に毒殺し、箱の死人が12人目と言う。
 この家には、自分をセオドア・ルーズヴェルト大統領と思い込み地下でパナマ運河と称する穴を掘っている叔父もいて、まず彼を療養所に送ろうと悪戦苦闘するうちに、その夜彼の兄レイモンド・マッセイが逃走の一環で整形を担当している医師ペーター・ローレを連れて侵入してくる。彼らは最後の被害者をこの家の地下に埋めようとし、先の死体を発見する。
 マッセイは唯一頭のまともな弟グラントを殺そうと躍起になり、そこへ大統領の叔父を連れに警察がやって来る。自分の御用と勘違いしたマッセイは降参し、叔父も療養所送りに成功、ついでに叔母たちも付き合わせてしまう。去る前の叔母たちの話から自分が狂気の血を引かない養子と知ったグラントは安心してプリシラと結ばれる。

正確で細かい経緯を書くとこの数倍の長さになるので、アウトラインのアウトライン程度に留めたが、それでも短い部類ではない。その省略した部分に可笑しさがあるので、このお話を知った後でも十分見る価値があると思う。

アルフレッド・ヒッチコック「ハリーの災難」(1955年)同様に“死体のある喜劇”だが、本作の特徴は死体を一切出さないことで、死体ではなく料理をするかのように殺人をする狂気の人々を主題に、彼らを文字通り料理する為にそうでないグラントまでまるで狂気に苛まれているかのように見せるドタバタが2時間近く続く。
 そのブラックなお笑いの中にグラントがマッセイに殺されそうになるサスペンスが交えられているのだが、これもブラックな笑いにより処理されているので、統一感は高い。

コメディーとしては、肝心なところになると邪魔が入ったり、人の出入りが激しく行われるという定石通りに作られているが、これだけ徹底してやればあっぱれと言いたくなる。ただ、「我が家の楽園」(1938年)以上に余りに狂騒的なので、キャプラの作品の中では好きとは言いかねる。

グラントの顔芸が圧巻。叔母たちのおとぼけ、特に肥ったジョゼフィン・ハルが楽しい演技を披露する。ボリス・カーロフを思わせるマッセイ、小悪党を得意とするローレの怪演も愉快。

グラントのこの感覚は、およそ20年後の「シャレード」でも披露される。

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この記事へのコメント

vivajiji
2020年08月10日 11:47
http://blog.livedoor.jp/vivajiji/archives/51282109.html

日本が悲惨な負け戦に突入していた頃の映画ですね。
人の出入りと口数の多さではH・ホークスと互角でしょう。
こういうのを観る前は、事前脳内アイドリングが必須の年齢に
なりましたけれども、やはり今観てもすっかり楽しめますね。
グラントの顔芸の話に偏りっぱなしの拙記事持参しました。

別件です。太宰関連ですが、お孫さんの目元に関する
プロフェッサーのご意見に私も全く同感でした。
女にも世間的にも超だらしなく一人では死ねない男では
あったけれど、彼の文章はいやらしいほど巧い。たとえ、
「斜陽」が盗作であったにせよ。所詮、彼に限らずゲイジュツを
生業とする方々は何でもありだから創作欲が湧いてくるサガ。
清廉潔白なゲイジュツ家の作品が果たして面白いでしょうか。(^^);
オカピー
2020年08月10日 21:48
vivajijiさん、こんにちは。

>日本が悲惨な負け戦に突入していた頃の映画ですね。

先日観た「ハリウッド玉手箱」も同じ1944年に作られた兵隊絡みの映画ですが、あの映画を観ても我が国との落差を感じます。

>人の出入りと口数の多さではH・ホークスと互角でしょう。

そうかもしれないですね。戦後のヒット作のせいで、ホークスがコメディーの作家であることをわすれられがちですが。

>清廉潔白なゲイジュツ家の作品が果たして面白いでしょうか。(^^);

今の日本人は、そういう清廉潔白の人を求めがち(映画感想を読むとそういう登場人物を求める人が多い)ですが、そんな人の書くものやそんな登場人物は面白くないです。
モカ
2020年08月11日 22:50
こんばんは。

これはたまたま先日観ました。 
ウィキを見たらキャプラってあの懐かしの「ちびっこギャング」の脚本も書いていたらしいですね。 なぁ~るほど、納得です。
タイトルに毒薬とあるけど、まるで毒がないところがアメリカのコメディでしょうか・・・
これがイギリス映画ながらまたちょっと違っていたかも、ですね。

ところで「ちびっこギャング」てご存じですか?
あれはいつごろまでTVで放送してたんでしょう。
「ちびっこギャング、観てた?」と聞いたら十中八九「アルファルファ!」という答えが返ってきて、めでたく同世代という事で
アルファルファの口からシャボン玉が出てきた話で盛り上がって。
そのころの私たち(私だけかも?)は戦前のサイレント?のあれがリアルタイムのアメリカだと思ってたんですからね。
実はアルファルファをやってた子役はとっくに大人になって亡くなっていたのですが・・・
オカピー
2020年08月12日 21:25
モカさん、こんにちは

>イギリス映画ながらまたちょっと違っていたかも、ですね。

同じように死体のある喜劇でも、ヒッチコック「ハリーの災難」のほうが毒があるでしょう。ヒッチコックは英国出身ですしね。

>ところで「ちびっこギャング」てご存じですか?

題名だけですね。僕が幼稚園に行く前にもう終わっていたようです。

>アルファルファ

と言えば、僕には植物です^^
それと何か関係があるのかなあ?