映画評「アド・アストラ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2019アメリカ=中国合作映画 監督ジェームズ・グレイ
ネタバレあり

本格SFを読むのは、昔痛い目にあったせいで未だに多少苦手意識があるが、春先に読んだアーサー・C・クラークの「幼年期の終り」が面白かったし、正統的な作風であれば面白く読める自信を得つつある。映画であれば、アメ・コミの映画化や「スター・ウォーズ」のようなスペース・オペラより断然本格SFに興味がある。
 本作は、日本では評判が悪いが、本格SFに慣れている方が多いアメリカでは特に批評家の間で高評価と聞く。僕もなかなか気に入った。

近未来――と言ってもそんなに近くはないだろう――の地球に猛烈なサージ電流が襲い、施設修繕を行っていた主人公の宇宙飛行士ブラット・ピットは辛うじて生還する。
 30年ほど前に未知なる生物を求めて海王星近くで探索を始めたリマ計画が原因となっているらしく、16年前に死んだとされる彼の父親トミー・リー・ジョーンズの生存している公算が高くなり、息子の彼が説得工作及びサージ電流を送り出している反物質装置の破壊を目的に最初は月、続いて火星、そして海王星を目指すのだが、月では鉱物の争奪戦があり、火星では任務と不適切と判断されるなど苦労の連続。
 火星基地でトップにも拘らず疎外されている女性所長ルース・ネッガの協力で宇宙船ケフェウスに許可なく乗り込むが、それにより闘いが起き乗組員が全員が死んでしまう。忸怩たる思いを振り払って海王星に向かい、遂にやはり生存していたジョーンズと対峙する。

「地獄の黙示録」の原作であるコンラッド「闇の奥」のような結構で、主人公が孤立するか、若しくは宇宙船の中で孤独をかこつ場面が多いので「2001年宇宙の旅」(1968年)にも似たムードが出て来るが、「2001年」のような哲学的思弁にまでは至らず、寧ろ父親からの精神的脱却といった個人の心情に焦点が当てられている。しかし、彼が宇宙の中で一人でいる場面を見ていると、作者が狙っている以上に哲学的なムードを感じてしまう向きもあり、鑑賞者によっては、好印象に繋がるかもしれない。

アメリカで評判が良いのは、ホメロスの叙事詩「オデュッセイア」以来西洋人はこの手のお話は好きであるという理由が第一であると思うが、例えば月におけるカーチェースなど随時訪れる見せ場に配置・設定の強引さが目立つとは言え、高品位を保ちつつ大衆性を強く意識した作劇が、案外評価されたのではないか。

「地獄の黙示録」を久しぶりに見ようかな。僕にとって、あの作品で一番好きなのは音楽だが。

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この記事へのコメント

浅野佑都
2020年07月18日 14:22
 ブログの最初、プロフェッサーの言われる「痛い目」とは、おそらくニュー・ウェーヴのことを指していると思いますが、僕も、いわゆるビッグ3のアシモフやハインライン、クラーク、J・P・ホーガンなどの正統的な作風が本当は好きですね。

この監督の特徴・・といっても「エヴァの告白」(2013)と「The Lost City of Z」(2016)しか見たことはないですが、はっきり言って、良い感じなんだけど今ひとつ佳作には至らない──野球でいえば、フェンス直前で失速する大飛球は打ち上げるが・・という印象でしたが、今回はなんとか「入った!」と思いましたね。。
むしろ、相手が変わってもコンスタントに打撃を披露できるそのバランスがむしろすごい(笑)
IMDBで7には至らず、でも7に届きそうな映画を撮る。
ゴルフのニアピンコンテストがあれば優勝できるでしょうね・・。

に、しても日本での評価は正当とは言えないですね・・。ハードSF作品を観る素養が低い。
不人気の原因としては、従来のSFが宇宙人や地球外生命体ありきの設定だったことに対して、この作品はブラピの父親も結論を出していた様に、地球外生命体はいなかった、としているのが・・。そこを僕は、むしろ斬新と受け止めたのですが・・。

「ゼロ・グラビティ」もそうですが、本作も描き尽くされ、開発し尽くされた宇宙映像に新たなアップデートを試みていて、まだまだこのジャンルは豊富なリソースを蓄えたブルー・オーシャン(未開拓市場)と言えるでしょう・・。

従来のSF映画の宇宙旅行が苦行とすれば、本作のそれはまさにトラベルの要素が濃く、まるで旅客機での旅と見紛う笑える演出も途中に用意されています。

いつか人類は、内海の行き来から大きく舵を取り、外洋に向けて旅立つのでしょう・・。
本作を劇場で観た折しも、JAXA(宇宙航空研究開発機構)のH-ⅡBロケットの打ち上げ成功をニュース映像で観ましたが、こちらのほうが玩具っぽく見えましたがね(笑)

冒頭、「なんとか入った!」と記しましたが、昔、梓みちよもヒット曲の「メランコリー」の歌詞で、
♬男は何処かへ旅立てば
 それでなんとか絵になるけれど・・
とありましたね。
「なんとか」は十分とは言えない、辛うじてという意味でして、「絵になる」は「あの人は何をやっても絵になる・・」‥というように最上級の称揚ですからね。
辛うじて絵になるのは、へっぴり腰で場外ホーマーを飛ばすようで、やっぱ、ヘンですよね(笑)


 


オカピー
2020年07月18日 22:30
浅野佑都さん、こんにちは。

>ブログの最初、プロフェッサーの言われる「痛い目」とは、
>おそらくニュー・ウェーヴのことを指していると思いますが

その通り。バラードの「~世界」シリーズなど。全然解らんかった(笑)

>この監督の特徴
>野球でいえば、フェンス直前で失速する大飛球は打ち上げるが・・
>という印象でしたが、今回はなんとか「入った!」と思いましたね。

その表現はよく解ります。僕は5,6本観ていると思いますが、大体そんな感じでした。「エヴァの告白」もちょっと足りない。

>本作のそれはまさにトラベルの要素が濃く、まるで旅客機での旅と見紛う

それを含めて、余り近くない近未来と考えた次第。

>梓みちよもヒット曲の「メランコリー」の歌詞で

曲自体は知っていますが、歌詞は全く憶えていなかったです。作詞家を調べたら、喜多條忠。作曲は吉田拓郎だから「襟裳岬」のコンビ。歌謡界がニューミュージック系を積極的に取り込み始めたあの時代の曲ですね。