映画評「ディリリとパリの時間旅行」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2018年フランス映画 監督ミシェル・オスロ
ネタバレあり

フランスのアニメ映画は非常にレベルが高いが、人物の容貌が日本人受けしにくい感じがあるのが弱点と言えば弱点。その点、本作は本物の人間に頗る近く、非常に好感が持てる。しかし、本作の素晴らしさはそんなことでは語れない。

やや解りにくい邦題の“時間旅行”は、恐らく、観客が120年ほど前に連れて行って貰えるという意味だろう。

ベル・エポックの時代(19世紀末~第一次大戦開戦)を舞台に数々の有名人物が登場するのがお楽しみで、話に出て来る(第五回)パリ万博があったのが1900年、登場人物の一人ロートレックが亡くなったのが1901年だから、1900~1901年のお話と思う。最初に出て来る有名人である歴史家ルナンは1892年に死んでいるが、これは例外と考える。さもないと1882年生まれのピカソはまだ子供になってしまい、その他数名の人物とも整合性が取れなくなる。最初の内はその意味での時間旅行とも考えたが。

ニューカレドニアからやってきた白人×カナク人のハーフ幼女ディリリ(声:ブリュネル・シャルル=アンブロン)は伯爵夫人に庇護されている非常に利発な子供で、若い白人の配達人オレル(声:エンゾ・ラツィト)と親しくなり、彼にまだ知らないところも多いパリを案内してもらううち、少女・幼女たちを誘拐して世間を騒がしている男性支配団なる秘密結社から度々狙われるが、見た目で一般人と区別が付く為に危難は事前に回避される。
 しかし、オレルの知り合いでもある声楽家エマ・カルヴェ(声:ナタリー・デセイ)の保守的な運転手ルブフ(声:ブルーノ・パヴィオー)が良からぬ考えを起こした為に一度は誘拐される。が、恐れをなして戻って来た運転手が秘密結社のやっている酷いことを主人やオレルに告げ、彼等が下水を伝わって脱走したディリリを救出した後、エマのつてで集結したエッフェルやツェッペリンなど有名人たちが他の少女たちを救うべく立ち上がる。

少女たちの奴隷的境遇が甚だ陰惨で、男女差別や人種差別の問題を俎上に上げているのが散文的すぎる嫌いがあるが、彼等の冒険模様、特に少女たちを救助するシークエンスはジュール・ヴェルヌの冒険小説やルパン・シリーズを彷彿とし、どちらも大好きな僕はこれに感動しまくった。

それに加えて登場する有名人の数々=前述以外に、ドビュッシー、エリック・サティ、プルースト、サラ・ベルナール、ルノワール、モネ、ドガ、ロダン、パスツール、マリ・キュリー(キュリー夫人)など=が枚挙にいとまがないほど出て来るのが嬉しく、ドビュッシーやプルーストは有名な肖像写真(肖像画)にそっくりでニヤニヤ。
 ロートレックとムーランルージュの場面ではロートレックの描いたポスターの女性たちがその絵のままに踊りまくる。サラ・ベルナールの有名なポスターも活用されていて、知識のある人ほど楽しめる映画である。

それ以上に素晴らしいと言って良いのが、画面。人物がロートレック的に基本的に鮮やかな色でベタに塗られている一方、背景はミニアチュール(細密画)的にひどく細かく色もグラデーションを使ったところが多く、その差が非常に面白い効果を上げている。最近の2次元アニメは日本製を含めてこの手が多いが、それにしても圧倒される画面と言うべし。

「キリクと魔女」「プリンス&プリンセス」が素晴らしかったミシェル・オスロがまたもかっ飛ばしたホームラン。ブラボー!

フレンチ・アニメ畏るべし。

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この記事へのコメント

浅野佑都
2020年06月23日 15:12
 おお、ご覧になりましたか、このアニメ。
帯にも襷にもおあつらえ向きな尺の90分、劇場で引き込まれっぱなしだった作品です。

>知識のある人ほど楽しめる
ウッディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」でも描かれたベル・エポックの時代は、僕の一番行ってみたい時代なんですが、その当時に生きていたとしても日本に生まれたのでは意味ないですね(笑)
出てくる著名人たちは、印象派絵画の巨人たちも含め、日本人になじみ深い者が多いですが、それでも50人知っていればかなりの博識だと‥(僕はそこまでいきませんでしたが)プロフェッサーは当然、ご存じかと。


>レベルが高いが、人物の容貌が日本人受けしにくい感じがあるのが弱点

そうなんですが、「ベルヴィル・ランデブー 」みたいな秀作も観てほしいですよね。

>男女差別や人種差別の問題を俎上に上げているのが散文的すぎる嫌いがあるが

事実上の植民地であるニュー・カレドニアを「海外県」などと、都合のいい言葉で言いつくろうのは、かつて我が国も真似をした”実績”もあり・・。
ミソジニーの行き着く先は、このアニメで描かれるような、人を人とも思わぬ業に行ってしまうかと・・。
反面、本来は女性を啓蒙するはずの日本のフェミニストたちが、多くの女性を不幸に導いている現実もあるわけですが・・。
女性の最大の味方は男性であり、真の敵は彼(彼女ら)なんですけどね(笑)

オカピー
2020年06月23日 21:47
浅野佑都さん、こんにちは。

>プロフェッサーは当然、ご存じかと。

人数は数えていませんが、ほぼ全員知っていたと思います。名前だけの人もいますけどね。

>「ベルヴィル・ランデブー 」みたいな秀作も観てほしいですよね。

素晴らしい映画でしたが、容貌がかなりマイナスに働いた代表作と思っているのも事実。断然見てほしい作品ですね。

>女性の最大の味方は男性であり、真の敵は彼(彼女ら)なんですけどね

僕もそう思います。
 これと似た現象として、欧米で現在激しく進行している極端なポリティカル・コレクトネスがありますね。例の事件以来、昔の像などが撤去されたり、「風と共に去りぬ」が上映禁止されたりしていますが、彼等の言動は矛盾しています。「風と共に去りぬ」やディズニー映画「南部の唄」がかつて南部にあった事実と違うと指摘する一方、自分達は昔を舞台に有色人種が闊歩するファンタジーを大量に作っている。牽強付会ここに極まれりです。
 日本では保守が歴史に学ぶ姿勢を余り示しませんが、欧米特にアメリカでは左翼が歴史を無視しようとしていますね。